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【24 合成魔法】
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最初は蠅の羽音かと思い、左右に顔を振ったがどこにもその姿は見られなかった。
ウィッカーは気のせいかと腰を下ろしたが、やはり微かに虫が飛びかうような、小さいが耳に残る不快な音が聞こえてくる。
ハッとして顔を上げると、隣で立つタジームが東の空を睨み口を開いた。
「来たぞ」
その言葉に、ウィッカーもタジームの視線の先を追う。
それは異様な光景だった。
まだ数キロは離れているだろうが、東の空に黒く帯状に広がる何かが見える。
「・・・まさか・・・あれが、バッタ?」
ウィッカーは驚愕した。右に左に、どこに目を向けても群れの端が見えず、
まるでバッタの群れが世界を包み込んでいるかのような、得体の知れない恐怖に背筋が凍り、立ち上がる事すらできずにいた。
「ウィッカー!ボサッとするでない!ワシらはワシらの役目を果たすぞ!配置に着け!」
恐怖に飲まれそうになっていたウィッカーだが、ブレンダンの声に我を取り戻す。
「ウィッカー!私達の役目は王子が後ろを気にせず駆除できるようにする事。気合入れなよ!」
ジャニスの差し伸べた手を握り、ウィッカーは立ち上がった。
「・・・あぁ、すまねぇ、もう大丈夫だ。俺達で王子を支えるんだ。やってやるぜ!」
ブレンダン、ジャニス、ウィッカーの三人は、タジームから距離を取ると、
今度は街に向かって、数メートル間隔で横一列に並んだ。
「よいか、首都全体、これほど広範囲に使うのは初めてだが、ワシらなら必ず成功できる!始めるぞ!」
三人はそれぞれ両手を前に出し、魔力を高め始めた。
身体が少しづつ熱を帯び、熱は光となり体を包んでゆく。
三人の体を包む光は、前に出された手の平から放出され、空中で一つに纏まり徐々に大きな光の球体になった。
三人の魔力を吸収した光の球は、攻撃の黒魔法、補助の青魔法、回復の白魔法、系統の違う三つの魔力を奇跡的なバランスで融合させ、大気を震わせる程の巨大な魔力の塊となってその場に存在していた。
すでに三人の額には汗がにじみ、調整の難しさ、要求される集中力を物語っていた。
「よし・・・ここまでは大丈夫だ、ではいくぞ!ワシが結界を張り、ウィッカーが炎で覆い、ジャニスが綻びを修復する!」
「はい!やりましょう!」
「絶対に成功させます!」
三種合成魔法 灼炎竜結界陣
三人が天に向かって手を振り上げると、光の球も天高く上がり、そして目を開けていられない程、
激しく強い光を放った。
光が落ち着くと首都バンテージは、赤く燃え盛る無数の炎の竜を纏った、光の結界に覆われていた。
「ぐぬ、やはり、これ程の広範囲に使うのは・・・消耗が激しいな、二人とも、大丈夫か?」
ブレンダンの体から、急速に魔力が吸収されていく。
足元から力が抜けていき、よろけそうになる。長くは持たないと一瞬で感じ取った。
「は、はい・・・絶対、最後まで、守って、みせます!」
「私達なら、できます!」
この結界の要はジャニスだった。
ブレンダンの結界魔法、天衣結界は広範囲に展開でき強度も申し分ないが、
今回は首都全てを覆うという規格外な範囲を、ブレンダンの魔力で無理やり実践している。
しかし、無理に発動した結界では、本来の強度は出せず脆い箇所が出てしまう。
ウィッカーの火魔法、灼炎竜は、元々は術者が身にまとい操り敵を討つ魔法である。
灼炎竜は術者の力量がよく分かる魔法であり、
大きさを変える事も、複数の竜を同時に出す事も難しくはない。
そのため、どれほど大きくできるか、どれだけの数を同時に操れるかで術者の力が見えるのである。
カエストゥス国の魔法兵は、通常3メートル程の灼炎竜を5~6メートル程に、数は3~4体が平均である。
今回ウィッカーが発動した灼炎竜は、20メートルを超えており、その数は実に30体と桁外れだった。
しかし、これだけの灼炎竜を完全に制御する事は不可能であり、ウィッカーは竜を結界に纏わらせておく事だけが精一杯であった。
だが、今回はそれで良かった。狙いは向かってくるバッタを焼き殺す事である。
結界を纏う竜は、暴走して荒れ狂っているが、
向かってくる数百億のバッタ相手に、コントロールは不要であった。
ジャニスの使用した回復魔法は、怪我を治す基本であり奥義のヒールである。
怪我を治す魔法はヒールしかなく、ヒールは術者の魔力によって治癒にかかる時間や、
治癒できる範囲、程度が決まる。
カエストゥス国の白魔法使いは、大半の者が骨折程度は治せるが、治癒時間は平均して30分程である。
それ以上の命に関わる程の怪我となると、治癒できるレベルの者は、ほんの一握りであった。
ジャニスは骨折ならほんの数分、内臓破裂などの極めて危険な状態でも治癒が可能なレベルにあり、カエストゥス国で一番の白魔法使いである。
今回ジャニスの役目は、結界の綻びをヒールで修復する事だった。
結界は無理な広範囲展開のため、本来の強度を出すことができない。
荒れ狂う灼炎竜は結界にもダメージを与え、弱い箇所はどんどん破損されていく。
ジャニスは結界が破壊されないよう、絶えず修復し続けねばならなかった。
ヒールで結界を修復する。それはできるはずの無い事だった。
だが、ブレンダンは異なる系統の魔力でも、
魔力の段階で融合させれば、互いに干渉する事は可能であると考えた。
魔力の合成。これはブレンダンの生涯の研究だった。
ブレンダン一人では実現不可能だったが、ウィッカーにジャニス、才能ある二人と実験を重ね、
ついに魔力の合成に成功することができた。
ヒールの魔力を結界に流し込み、破損したら破損箇所をヒールで新たに作り修復する。
極めて高度な技であり、ジャニスのセンスがあって初めて可能な技であった。
ブレンダンは補助魔法専門であったため、攻撃魔法と回復魔法の知識はあったが使うことはできなかった。
そのため、ジャニスとウィッカーには魔力の流れ、操作は教えられたが、実践して見せる事はできなかった。
必要な時には、王宮の魔法使いに指導を依頼したが、
二人の吸収力は高く、あっという間に王宮の魔法使い達を追い越して行き、その才は今も伸び続けている。
ジャニスとウィッカー、二人もまた天才だった。
ウィッカーは気のせいかと腰を下ろしたが、やはり微かに虫が飛びかうような、小さいが耳に残る不快な音が聞こえてくる。
ハッとして顔を上げると、隣で立つタジームが東の空を睨み口を開いた。
「来たぞ」
その言葉に、ウィッカーもタジームの視線の先を追う。
それは異様な光景だった。
まだ数キロは離れているだろうが、東の空に黒く帯状に広がる何かが見える。
「・・・まさか・・・あれが、バッタ?」
ウィッカーは驚愕した。右に左に、どこに目を向けても群れの端が見えず、
まるでバッタの群れが世界を包み込んでいるかのような、得体の知れない恐怖に背筋が凍り、立ち上がる事すらできずにいた。
「ウィッカー!ボサッとするでない!ワシらはワシらの役目を果たすぞ!配置に着け!」
恐怖に飲まれそうになっていたウィッカーだが、ブレンダンの声に我を取り戻す。
「ウィッカー!私達の役目は王子が後ろを気にせず駆除できるようにする事。気合入れなよ!」
ジャニスの差し伸べた手を握り、ウィッカーは立ち上がった。
「・・・あぁ、すまねぇ、もう大丈夫だ。俺達で王子を支えるんだ。やってやるぜ!」
ブレンダン、ジャニス、ウィッカーの三人は、タジームから距離を取ると、
今度は街に向かって、数メートル間隔で横一列に並んだ。
「よいか、首都全体、これほど広範囲に使うのは初めてだが、ワシらなら必ず成功できる!始めるぞ!」
三人はそれぞれ両手を前に出し、魔力を高め始めた。
身体が少しづつ熱を帯び、熱は光となり体を包んでゆく。
三人の体を包む光は、前に出された手の平から放出され、空中で一つに纏まり徐々に大きな光の球体になった。
三人の魔力を吸収した光の球は、攻撃の黒魔法、補助の青魔法、回復の白魔法、系統の違う三つの魔力を奇跡的なバランスで融合させ、大気を震わせる程の巨大な魔力の塊となってその場に存在していた。
すでに三人の額には汗がにじみ、調整の難しさ、要求される集中力を物語っていた。
「よし・・・ここまでは大丈夫だ、ではいくぞ!ワシが結界を張り、ウィッカーが炎で覆い、ジャニスが綻びを修復する!」
「はい!やりましょう!」
「絶対に成功させます!」
三種合成魔法 灼炎竜結界陣
三人が天に向かって手を振り上げると、光の球も天高く上がり、そして目を開けていられない程、
激しく強い光を放った。
光が落ち着くと首都バンテージは、赤く燃え盛る無数の炎の竜を纏った、光の結界に覆われていた。
「ぐぬ、やはり、これ程の広範囲に使うのは・・・消耗が激しいな、二人とも、大丈夫か?」
ブレンダンの体から、急速に魔力が吸収されていく。
足元から力が抜けていき、よろけそうになる。長くは持たないと一瞬で感じ取った。
「は、はい・・・絶対、最後まで、守って、みせます!」
「私達なら、できます!」
この結界の要はジャニスだった。
ブレンダンの結界魔法、天衣結界は広範囲に展開でき強度も申し分ないが、
今回は首都全てを覆うという規格外な範囲を、ブレンダンの魔力で無理やり実践している。
しかし、無理に発動した結界では、本来の強度は出せず脆い箇所が出てしまう。
ウィッカーの火魔法、灼炎竜は、元々は術者が身にまとい操り敵を討つ魔法である。
灼炎竜は術者の力量がよく分かる魔法であり、
大きさを変える事も、複数の竜を同時に出す事も難しくはない。
そのため、どれほど大きくできるか、どれだけの数を同時に操れるかで術者の力が見えるのである。
カエストゥス国の魔法兵は、通常3メートル程の灼炎竜を5~6メートル程に、数は3~4体が平均である。
今回ウィッカーが発動した灼炎竜は、20メートルを超えており、その数は実に30体と桁外れだった。
しかし、これだけの灼炎竜を完全に制御する事は不可能であり、ウィッカーは竜を結界に纏わらせておく事だけが精一杯であった。
だが、今回はそれで良かった。狙いは向かってくるバッタを焼き殺す事である。
結界を纏う竜は、暴走して荒れ狂っているが、
向かってくる数百億のバッタ相手に、コントロールは不要であった。
ジャニスの使用した回復魔法は、怪我を治す基本であり奥義のヒールである。
怪我を治す魔法はヒールしかなく、ヒールは術者の魔力によって治癒にかかる時間や、
治癒できる範囲、程度が決まる。
カエストゥス国の白魔法使いは、大半の者が骨折程度は治せるが、治癒時間は平均して30分程である。
それ以上の命に関わる程の怪我となると、治癒できるレベルの者は、ほんの一握りであった。
ジャニスは骨折ならほんの数分、内臓破裂などの極めて危険な状態でも治癒が可能なレベルにあり、カエストゥス国で一番の白魔法使いである。
今回ジャニスの役目は、結界の綻びをヒールで修復する事だった。
結界は無理な広範囲展開のため、本来の強度を出すことができない。
荒れ狂う灼炎竜は結界にもダメージを与え、弱い箇所はどんどん破損されていく。
ジャニスは結界が破壊されないよう、絶えず修復し続けねばならなかった。
ヒールで結界を修復する。それはできるはずの無い事だった。
だが、ブレンダンは異なる系統の魔力でも、
魔力の段階で融合させれば、互いに干渉する事は可能であると考えた。
魔力の合成。これはブレンダンの生涯の研究だった。
ブレンダン一人では実現不可能だったが、ウィッカーにジャニス、才能ある二人と実験を重ね、
ついに魔力の合成に成功することができた。
ヒールの魔力を結界に流し込み、破損したら破損箇所をヒールで新たに作り修復する。
極めて高度な技であり、ジャニスのセンスがあって初めて可能な技であった。
ブレンダンは補助魔法専門であったため、攻撃魔法と回復魔法の知識はあったが使うことはできなかった。
そのため、ジャニスとウィッカーには魔力の流れ、操作は教えられたが、実践して見せる事はできなかった。
必要な時には、王宮の魔法使いに指導を依頼したが、
二人の吸収力は高く、あっという間に王宮の魔法使い達を追い越して行き、その才は今も伸び続けている。
ジャニスとウィッカー、二人もまた天才だった。
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