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12 協会の治安部隊

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「さて、みんな今日も一日お疲れ様でした。いつもならここで各担当からの報告を聞くんだけど、
今日はトラブルも無かったし、急ぎの用件も無いので、昼間の事件の話をしたいと思います」
レイチェルは儀礼的に労いの言葉を述べ、本題に移った。

「大まかには、アラタとカチュアが帰ってきた時に聞いたし、みんなにも伝わってると思うけど、
キッチンモロニーの帰り道、男性二人の喧嘩、まぁ片方が一方的に襲われてたって話みたいなんだけどね。そこに遭遇して、巻き込まれたようです。アラタの話だと、襲ってきた相手は、目の焦点もあってない異常な状態で、爆発魔法を使っていたと・・・そして実際に正面から食らったんだよね?」


全員の視線が集まる中、俺は黙って頷いた。

隣に座るリカルドが、スッゲーと声をもらした。

「大人一人を壁まで吹き飛ばすってくらいだと、それなりの威力だよね。ミゼル、あんたどう思う?」

足を組んで、ふんぞり返っていたミゼルは、眉をひそめながら口を開いた。


「・・・そうだな、ぎこちない動き、明らかに異常な精神状態って事を考えると、
おそらく操られていたんだろう。
魔法を使うくせに、攻撃の時の動きが、驚くほど早かったって事は、
そいつは元々魔法を使えない体力型だ。操っていた相手が魔法を転送していたんだと思う。
魔法の転送はけっこう高度だぜ。しかも魔力の無い、体力型を通してだから尚更な。
多少威力は下がってるだろうが、その話だとかなりの使い手だぞ。
最初に吹っ飛ばされた男がくらった魔法は多分、基本の爆裂弾。
新人がくらった魔法はおそらく、爆裂空破弾、中級の魔法だ。
体力型でも鍛えてない一般人なら死んでるかもな。手ごわいと思われたんだろう。
新人、直撃受けてよくその程度で済んだな?」

片眉を上げて、興味深そうに俺を見てくる。


「・・・けっこう吹っ飛ばされたし、全身に痛みはありましたけど、動けなくなるほどじゃなかったです。骨も折れてなかったし」

「アラタ君の元の世界の人は、みんな魔法が使えないみたいだけど、アラタ君には魔力とは違う力を感じるの。その力だとは思うんだ」
正面に座るカチュアが考えるように首をかしげて呟いた。

「そうか、私も魔法が使えない体力型だけど、今の話の攻撃を受けたら、アラタよりはダメージ受けてたよ。アラタは体力型の平均より強いと思う。ミゼル、相手の素性と目的だけど、やっぱりブロートン帝国かな?」

「おそらくな。ブロートンの魔法使い・・・人を操るなんて普通じゃ無理だ。
青魔法で精神に干渉するのに特化したヤツがいるんだろう。それと攻撃魔法使いの連携だろうな。
目的はこの国の混乱と弱体化だろう。今回の騒ぎは様子見じゃないか?そう遠くないうちに本格的に仕掛けてくると思うぜ」


昼間レイチェルに叱られていた時の情けない姿とは打って変わり、情報を冷静に分析し、
しっかりと考えを見せるところから、本当は頭の良い人なんだなと思った。

レイチェルも、他の皆もその言葉に真剣に耳を向ける様子を見ると、ミゼルという男の深いところでの信頼がよく分かる。


「なるほど。今回のような騒ぎを繰り返して、まずは協会の力を探ってくるわけだ。それに協会が対処しきれなければ、国民の協会に対する信用も無くなってくる。
それは国への不満にもつながり、国力も低下してくるという事だね」
レイチェルが納得したように頷いた。

「まぁ、国力が下がるのを待つには年単位の時間がかかるだろうから、オレは国民の不満が一定の水準に高まり、協会が対応に窮したタイミングで本格的に攻めてくると思うぜ。うちも準備はしておいた方がいい」
ミゼルさんが話をまとめると、レイチェルはその後の詳しい話をカチュアに促した。

「アラタ君が倒したあと、襲われてた人から事情を聞いたの。
歩いてたら突然掴まれて、もみ合いになったんだって。吹き飛ばされた事は覚えてないって。
あの威力で叩きつけられたんだから、しかたないよね。その後、騒ぎを聞きつけた協会の人が来て、
私達も状況説明とかしてたんだ」



助けた男は、ロイと名乗った。
突然襲われた事、相手に全く面識が無いという事で、襲ってきた相手の異常さは気になったが、
最初は無差別事件かと思った。

さっきまで隠れていた街の人達もいつの間にか集まり、
もう大丈夫なのか?なんだったんだ?と、不安を口々にしていた。

協会だ、協会の治安部隊が来たぞと、どこからが声が上がると、それまで集団になっていた人々が、
一斉に両端により道を開けた。

何事かと後ろを向くと20~30人はいるだろうか。武装した集団がこっちに向かって歩いてきた。


肩から胴体を覆う厚みのあるボディアーマー。
肘から手首、膝から足首にかけても同素材のプロテクターを装備している。
フルフェイスのメットをぶら下げており、腰には大振りのナイフが供えられていた。

全体的に暗めの茶色で統一されているのは、茶色がこの国のシンボルカラーだからだろう。
昔テレビで見た、外国人の特殊部隊を思いだした。


先頭に立つ、リーダーと思わしき男は集団の中で一際背が低く、160cmも無いくらいに見えた。

しかし、アーマー越しでも分かる鍛え抜かれた筋肉、口元に笑みを浮かべているが、こちらに向ける眼差しは鋭く、眼力だけで相手を委縮させる強さがあった。

短く刈り込んだ黒髪、太い眉、チョコレート色の肌は、元の世界の南米系に見えた。
異世界で南米というのも変かもしれないが。


「こんにちは。私はクインズベリー協会の治安部隊隊長を務める、マルコス・ゴンサレスと申します。
ここで騒ぎがあったと通報をうけて来てみたのですが、あなた方と・・・そこに倒れている男性が騒ぎを起こしたのでしょうか?」

マルコスと名乗った男は、俺とカチュア、ロイ、そして倒れている男に順に視線を送ると、
再び俺に目を向けた。俺が騒ぎの原因と見ているらしい。

「マ、マルコス様、私はロイと申します。こちらのお二人は私がこの男に襲われているところを、
助けてくださったのです。罪はございません。どうかお慈悲を」

一歩前に出たロイが膝をつき、マルコスに懇願した。
ロイの態度から見て、このマルコスという男は、相当厳格な性格のようだ。


「ロイ・・・あぁ、あなたはそこの角でパン屋を営んでおられましたね。
お腹を空かせた子供達に、無償でパンを与えていたところを見かけた事がありますし、
礼拝でもよくお見掛けします。
ふむ・・・あなたのような人徳者がそう話すのであれば、信じましょう。
非はそこの倒れている男にあると」

マルコスが、連れて行きなさいと言うと、後ろに控えていた武装集団が数人、
倒れている男を後ろ手に縄で拘束し、担ぎ上げた。

連行される男を見送ると、マルコスは俺に向き直った。


「あなた・・・お名前は?」
「坂木 新です」

「サカキアラタ?変わった名前ですね。ではサカキアラタ、事情は聞きましたが、当事者のあなたからも、もう少し詳しい話を聞かなくてはなりません。最初から詳しく話してください」

有無を言わさぬ迫力があった。この小さな体から感じる圧力に、思わず一歩後ずさってしまう。
協会の治安部隊と言っていたが、日本の警察のようなものだろうか。

それから俺とカチュアは、今回の経緯を説明したが、

「なぜ逃げなかった?」
「なぜ素手で戦おうと思った?」
「なぜ爆発を受けてその程度で済んだ?」

マルコスの追求のしつこさに、説明を終えるのに1時間はかかったと思う。

納得していないのか、一通りの説明を聞いた後マルコスは、
またお会いするかもしれませんね、と言い残し集団を従え去っていった。
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