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04 最初の朝
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「朝だぞー、いつまで寝てんのさ。今日から働くんだから、早く起きなよ」
体をゆすられ、少しづつ意識が覚醒していく。なにか夢を見ていた気もするが覚えていない。
自分で思っていたより疲れていたのだろう。深い眠りだったようだ。
上半身を起こし、少し目をこすると意識もだんだんハッキリとしてきた。
窓から光が差し込んできて、眩しさに目を細める。
朝か、昨夜の恐怖も思い出されたが、陽が昇れば何も気にする事はないようだ。
ここは住宅地から少し離れた場所のようだ。窓の外には森林が生い茂っているが、少し遠くに目をやると、レンガ作りの洋風の家が建ち並び、人通りも多そうに見える。
「おはよう。やっと起きたね。朝食できてるから、顔洗ってきなよ。あ、洗面所は部屋出てすぐ隣ね。あと、昨日キミの着てた服洗っておいたんだ。もう乾いたから着替えておいでよ」
レイチェルはすっかり朝の準備ができているようだ。
髪の色と似た感じの光沢のある赤の半袖Tシャツに、ハーフ丈の黒のカーゴパンツを穿いている。
異世界と言っても服の文化にそう大きな違いは無さそうだ。
「あ、土の寝間着は洗面所のカゴにいれておいてね」
「・・・土の寝間着?」
「アラタが今着てる寝間着の事だよ。クインズベリー国は大地の精霊の加護を受けてるんだ。
だから地震や土砂の災害ってのがほとんどないんだよ。あっても小さいね。
土の寝巻は少しだけど治癒効果もあるから、軽い風邪やスリ傷程度の怪我なら、それ着て一日寝てれば治るよ」
そうか。昨日レイチェルも着ていたが、伝統衣装みたいな物か。俺は倒れていたようだから、治癒効果のある寝間着を着せてくれたんだな。
「そっか、ありがとう。そう言われてみれば、いつもより寝覚めが良い気もするよ。」
「それは良かった。うん。昨日よりはスッキリした顔してるかな。じゃあ、とりあえず着替えて来なよ」
そう言うとレイチェルは部屋から出て行った。
異世界で迎える最初の朝。窓から差し込む陽の光は、日本となにも変わらないように感じる。
日本は夏だったが、この世界も四季があるのなら今は夏なのだろう。
カラっとした陽気はを感じながら、俺は洗面所へ足を向けた。
着替えを終えてキッチンのある部屋に行くと、レイチェルがテーブルに座って待っていた。
木製の食器棚と、木製のテーブル、ここはどれも木製がほとんどだが、シンク台は鉄を使っているようだ。水道は無いようで、桶に水が張ってある。
俺に気づくと、自分の目の前の席を指さした。座れという事だろう。
イスを引いて腰を下ろした俺の目の前には、トーストと目玉焼き、ミルクが置いてあった。
茶碗や皿も木製だ。この世界の技術がどの程度か分からないが、綺麗な丸皿を見ると、加工の技術は優れているように感じる。
「・・・異世界って言っても、食べ物は同じようなものなんだな」
「アラタの世界もこんな食べ物なのかい?」
「そうだね。こういうのが多いよ。じゃ、食べていいかな?」
どうぞ、と言われて、テーブル中央にあるバターらしき物を取り縫ってみる。
「・・・うん。これはバターだ」
「キミは何を言ってるんだい?」
「いや、バターだなって。こっちもこれはバターでいいの?」
「バターだよ」
「そっか、うん。バターはバターなんだな。バターで安心したよ」
「キミは何を言ってるんだい?」
トーストも目玉焼きも、日本で食べたものと変わらないように感じた。
昨夜は焼き魚にご飯だったし、食の文化が同じならば食事は悩まなくてよさそうだ。
食器洗いもレイチェルがやってくれた。さすがに洗いものくらいはやろうとしたが、いいから座ってなよと言って、レイチェルがやってしまった。
考えてみれば、倒れていたところを助けて泊めてくれた上に、着替えやご飯まで出してくれた。
見ず知らずの男にこんなに親切にしてくれるなんて、普通ありえないだろう。
「ありがとう」
「ん?どうしたんだい?いきなり」
洗い物を終えたレイチェルが、飲み物をトレーに乗せて席に着いた。
グラスには、透明の液体と輪切りのレモンが乗っていた。
「うん、倒れてたとこ助けてくれたし、着替えとか、ご飯とかさ、見ず知らずの俺にこんなに親切にしてくれて・・・ありがとう」
「店の前で倒れてたんだもん。そりゃ助けるよ。あとは成り行きだよね。昨日話した感じでさ、なんとなくだけど悪い人じゃなさそうだったし、なんかほっとけなかったからさ。異世界人だっていうしね。まぁ、気にしないでよ。今日からコキ使うからさ」
レイチェルは歯を見せて笑うと、俺の前髪を摘まみ上げた。
「それはそうと、髪切ろうか。ずっと気になってたんだよね。特にこの前髪長すぎない?なんか暗く見えるよ。接客なんだし少しは明るい感じにしようよ。それ飲んだら私切るね」
接客というのは、やはり見た目を色々言われるようだ。
村戸さんにも切ったほうがいいと言われたし、異世界でも同じなんだな。
グラスの液体はレモネードのような味がして、どこか懐かしさを感じた。
「なぁレイチェル」
「なんだい?」
「髪の色はなんでもいいの?」
「色?どういう事?」
「ほら、黒でないと駄目とかあるじゃん?長いのもあんま良くないんでしょ?」
「黒でないと駄目?アラタの世界はそうなのかい?だってさ、色は変えられないんだから、どうしようもないでしょ?長さは、別に長くてもいいんだけど、アラタの場合はなんか暗そうだから」
朝食を終え、背もたれのない四つ足の丸イスに腰を下ろし、俺はレイチェルに髪を切ってもらっていた。
日本にいた頃は、カット専門の格安チェーン店で、流れ作業で切ってもらっていたので、店員との会話もなく切り終わるまで目を閉じていただけだったから、切ってもらいながら話すのは新鮮だった。
「こっちはカラーはないの?俺の元居た世界は髪色は変えられたよ。んで、基本的に接客は黒が多いね」
「へー、髪色変えられるなんて面白そうだね。考えた事も無かったよ。こっちは、長いか短いかくらいでしか判断しないね。色なんて、赤でも青でも緑でも、なんでも有りだよ。そういうもんだしね」
話しながらレイチェルは慣れた手つきで俺の髪をカットしていく。
美容室のように正面に鏡がないから、どんな感じか途中確認ができないが、器用にカットしていく様子から仕上がりを少し期待をしてしまう。
「・・・よし!できたよ。どうだい?」
手鏡を渡され自分の顔を映してみると、目に入りそうなくらいまで伸びていた前髪は、眉の上までバッサリ切られて、サイドも耳が全部でて、襟足も刈り上げ手前くらいだった。
「・・・けっこう短くしたね。こんな短いのは久しぶりだな」
「キミはこのくらいのがいいよ。あとはこうして前髪上げちゃえばかっこいいんじゃない?」
そう言うと灰皿くらいの大きさの瓶からなにかを手に付け、俺の髪を上げていった。
ワックスみたいな物だろうか。上げられた前髪を触ってみると少しだけ粘り気があった。
「よし、これでいいね。全然雰囲気変わったよ。アラタって、意外と男らしい顔だね」
ビニールのような質感の茶色のケープを外し、鏡に映る自分をあらためて見てみる。
男らしい顔か・・・そう言えば、弥生さんにもそんな風に言われた事があったな。
【新って、性格が根暗っぽいのに、髪上げると意外に男らしい顔だよね。目もなんか力強いし、ちょっと彫りも深くない?ヤバイ、なんか笑えてきた・・・】
そうだ・・・あの時、なんか大笑いされたんだった。
全くあの人は俺をからかうのが趣味なのか?ってくらいちょっかいを出してくる。
弥生さん・・・あの後どうなったんだろう。無事だといいが。
「さて、髪も切ったしそろそろお店行こうか」
「うん・・・そうだね。少し緊張するけど、行ってみるか」
「よし、じゃあ靴穿いて待ってて、髪集めたらすぐ行くから」
本当に面倒見が良い子だ。レイチェルは髪を切るとすぐに帚を持ってきて掃除を始めた。
代わろうとするが、いいからいいからと手際よくやってしまう。
「さて、それじゃ行こうか。って言ってもすぐ隣なんだけどね」
レイチェルの履物は、靴というかグラディエーターのような茶色のサンダルだった。
日本でも夏場に女の人が穿いているのを見た事がある。
レイチェルは俺のスニーカーを見ると、変わった靴だね、と一言もらした。
さすがにスニーカーは無さそうだ。
体をゆすられ、少しづつ意識が覚醒していく。なにか夢を見ていた気もするが覚えていない。
自分で思っていたより疲れていたのだろう。深い眠りだったようだ。
上半身を起こし、少し目をこすると意識もだんだんハッキリとしてきた。
窓から光が差し込んできて、眩しさに目を細める。
朝か、昨夜の恐怖も思い出されたが、陽が昇れば何も気にする事はないようだ。
ここは住宅地から少し離れた場所のようだ。窓の外には森林が生い茂っているが、少し遠くに目をやると、レンガ作りの洋風の家が建ち並び、人通りも多そうに見える。
「おはよう。やっと起きたね。朝食できてるから、顔洗ってきなよ。あ、洗面所は部屋出てすぐ隣ね。あと、昨日キミの着てた服洗っておいたんだ。もう乾いたから着替えておいでよ」
レイチェルはすっかり朝の準備ができているようだ。
髪の色と似た感じの光沢のある赤の半袖Tシャツに、ハーフ丈の黒のカーゴパンツを穿いている。
異世界と言っても服の文化にそう大きな違いは無さそうだ。
「あ、土の寝間着は洗面所のカゴにいれておいてね」
「・・・土の寝間着?」
「アラタが今着てる寝間着の事だよ。クインズベリー国は大地の精霊の加護を受けてるんだ。
だから地震や土砂の災害ってのがほとんどないんだよ。あっても小さいね。
土の寝巻は少しだけど治癒効果もあるから、軽い風邪やスリ傷程度の怪我なら、それ着て一日寝てれば治るよ」
そうか。昨日レイチェルも着ていたが、伝統衣装みたいな物か。俺は倒れていたようだから、治癒効果のある寝間着を着せてくれたんだな。
「そっか、ありがとう。そう言われてみれば、いつもより寝覚めが良い気もするよ。」
「それは良かった。うん。昨日よりはスッキリした顔してるかな。じゃあ、とりあえず着替えて来なよ」
そう言うとレイチェルは部屋から出て行った。
異世界で迎える最初の朝。窓から差し込む陽の光は、日本となにも変わらないように感じる。
日本は夏だったが、この世界も四季があるのなら今は夏なのだろう。
カラっとした陽気はを感じながら、俺は洗面所へ足を向けた。
着替えを終えてキッチンのある部屋に行くと、レイチェルがテーブルに座って待っていた。
木製の食器棚と、木製のテーブル、ここはどれも木製がほとんどだが、シンク台は鉄を使っているようだ。水道は無いようで、桶に水が張ってある。
俺に気づくと、自分の目の前の席を指さした。座れという事だろう。
イスを引いて腰を下ろした俺の目の前には、トーストと目玉焼き、ミルクが置いてあった。
茶碗や皿も木製だ。この世界の技術がどの程度か分からないが、綺麗な丸皿を見ると、加工の技術は優れているように感じる。
「・・・異世界って言っても、食べ物は同じようなものなんだな」
「アラタの世界もこんな食べ物なのかい?」
「そうだね。こういうのが多いよ。じゃ、食べていいかな?」
どうぞ、と言われて、テーブル中央にあるバターらしき物を取り縫ってみる。
「・・・うん。これはバターだ」
「キミは何を言ってるんだい?」
「いや、バターだなって。こっちもこれはバターでいいの?」
「バターだよ」
「そっか、うん。バターはバターなんだな。バターで安心したよ」
「キミは何を言ってるんだい?」
トーストも目玉焼きも、日本で食べたものと変わらないように感じた。
昨夜は焼き魚にご飯だったし、食の文化が同じならば食事は悩まなくてよさそうだ。
食器洗いもレイチェルがやってくれた。さすがに洗いものくらいはやろうとしたが、いいから座ってなよと言って、レイチェルがやってしまった。
考えてみれば、倒れていたところを助けて泊めてくれた上に、着替えやご飯まで出してくれた。
見ず知らずの男にこんなに親切にしてくれるなんて、普通ありえないだろう。
「ありがとう」
「ん?どうしたんだい?いきなり」
洗い物を終えたレイチェルが、飲み物をトレーに乗せて席に着いた。
グラスには、透明の液体と輪切りのレモンが乗っていた。
「うん、倒れてたとこ助けてくれたし、着替えとか、ご飯とかさ、見ず知らずの俺にこんなに親切にしてくれて・・・ありがとう」
「店の前で倒れてたんだもん。そりゃ助けるよ。あとは成り行きだよね。昨日話した感じでさ、なんとなくだけど悪い人じゃなさそうだったし、なんかほっとけなかったからさ。異世界人だっていうしね。まぁ、気にしないでよ。今日からコキ使うからさ」
レイチェルは歯を見せて笑うと、俺の前髪を摘まみ上げた。
「それはそうと、髪切ろうか。ずっと気になってたんだよね。特にこの前髪長すぎない?なんか暗く見えるよ。接客なんだし少しは明るい感じにしようよ。それ飲んだら私切るね」
接客というのは、やはり見た目を色々言われるようだ。
村戸さんにも切ったほうがいいと言われたし、異世界でも同じなんだな。
グラスの液体はレモネードのような味がして、どこか懐かしさを感じた。
「なぁレイチェル」
「なんだい?」
「髪の色はなんでもいいの?」
「色?どういう事?」
「ほら、黒でないと駄目とかあるじゃん?長いのもあんま良くないんでしょ?」
「黒でないと駄目?アラタの世界はそうなのかい?だってさ、色は変えられないんだから、どうしようもないでしょ?長さは、別に長くてもいいんだけど、アラタの場合はなんか暗そうだから」
朝食を終え、背もたれのない四つ足の丸イスに腰を下ろし、俺はレイチェルに髪を切ってもらっていた。
日本にいた頃は、カット専門の格安チェーン店で、流れ作業で切ってもらっていたので、店員との会話もなく切り終わるまで目を閉じていただけだったから、切ってもらいながら話すのは新鮮だった。
「こっちはカラーはないの?俺の元居た世界は髪色は変えられたよ。んで、基本的に接客は黒が多いね」
「へー、髪色変えられるなんて面白そうだね。考えた事も無かったよ。こっちは、長いか短いかくらいでしか判断しないね。色なんて、赤でも青でも緑でも、なんでも有りだよ。そういうもんだしね」
話しながらレイチェルは慣れた手つきで俺の髪をカットしていく。
美容室のように正面に鏡がないから、どんな感じか途中確認ができないが、器用にカットしていく様子から仕上がりを少し期待をしてしまう。
「・・・よし!できたよ。どうだい?」
手鏡を渡され自分の顔を映してみると、目に入りそうなくらいまで伸びていた前髪は、眉の上までバッサリ切られて、サイドも耳が全部でて、襟足も刈り上げ手前くらいだった。
「・・・けっこう短くしたね。こんな短いのは久しぶりだな」
「キミはこのくらいのがいいよ。あとはこうして前髪上げちゃえばかっこいいんじゃない?」
そう言うと灰皿くらいの大きさの瓶からなにかを手に付け、俺の髪を上げていった。
ワックスみたいな物だろうか。上げられた前髪を触ってみると少しだけ粘り気があった。
「よし、これでいいね。全然雰囲気変わったよ。アラタって、意外と男らしい顔だね」
ビニールのような質感の茶色のケープを外し、鏡に映る自分をあらためて見てみる。
男らしい顔か・・・そう言えば、弥生さんにもそんな風に言われた事があったな。
【新って、性格が根暗っぽいのに、髪上げると意外に男らしい顔だよね。目もなんか力強いし、ちょっと彫りも深くない?ヤバイ、なんか笑えてきた・・・】
そうだ・・・あの時、なんか大笑いされたんだった。
全くあの人は俺をからかうのが趣味なのか?ってくらいちょっかいを出してくる。
弥生さん・・・あの後どうなったんだろう。無事だといいが。
「さて、髪も切ったしそろそろお店行こうか」
「うん・・・そうだね。少し緊張するけど、行ってみるか」
「よし、じゃあ靴穿いて待ってて、髪集めたらすぐ行くから」
本当に面倒見が良い子だ。レイチェルは髪を切るとすぐに帚を持ってきて掃除を始めた。
代わろうとするが、いいからいいからと手際よくやってしまう。
「さて、それじゃ行こうか。って言ってもすぐ隣なんだけどね」
レイチェルの履物は、靴というかグラディエーターのような茶色のサンダルだった。
日本でも夏場に女の人が穿いているのを見た事がある。
レイチェルは俺のスニーカーを見ると、変わった靴だね、と一言もらした。
さすがにスニーカーは無さそうだ。
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