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02 転移
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目覚めると板張りの天井が目に入った。
胸まで毛布が掛けられており、どうやらベッドに寝ているようだと気づく。
病院か?そう思い視線を巡らせたが、どうも病院とは違うようだ。
仕切りのカーテンも無く、ナースコールボタンも無い、当然テレビも冷蔵庫も無い。
花瓶が置いてある小さな木製のテーブルにイス、古民家にありそうな年期の入ったタンスくらいしか置いてなかった。
広さは12畳くらいだろうか。室内は全て木でできており、病院というより小屋に見える。
「そうだ!あれからどうなった!?」
少し頭が働き始めた時、俺はあの出来事を思い出した。
頭を殴られて意識を失いそれから・・・。
頭!?そうだ俺は頭を殴られたはず。だが痛みは全くない。
包帯もまかれておらず治療した様子が全くない。上着を捲くり腹を見ても、痣一つなかった。
あれほど強く蹴られたのに。
「あれ?なんだこれ?浴衣・・・じゃないよな?」
上着を掴んで気付いたが、見覚えのない茶色の浴衣のような物を着せられていた。
最初に来ていたTシャツ、デニムパンツは見当たらない。
「・・・ここどこだ?血が出るくらい頭殴られたのに、傷が無いどころか頭は痛くねぇし、なんか変なの着せられてるし・・・わけわかんねぇ・・・誰かいないのか?」
状況を把握できず、室内を見渡すが答える者は誰もいない。
室内にいても状況は変わらないと思い、ベッドから降り部屋を出ようとドアに手をかけると、キィ・・・と静かに軋む音とともにドアが開かれた。
「・・・あれ、起きたんだ?倒れてたけど大丈夫なのかい?」
赤い髪の女だった。ショートボブというヤツだろうか、前髪は眉の上まで短めに切られている。
背は俺より頭一つは小さく、華奢な印象だが燃えるような赤い髪のインパクトに少したじろいでしまう。
二十歳くらいだろうか、あどけなさが残ってみえる。
俺と同じ茶色の浴衣のような物を着ている。
パッチリとした黒い瞳は好奇心の色をうかべ、俺を真っすぐに見つめている。
「・・・あー、あの俺は、その・・・どうしてここに?」
「あぁ、うちの店の前に倒れてたんだ。びっくりしたよ、閉めて帰ろうとしたらキミが倒れてるんだもん。なんであそこで倒れてたのさ?まぁ、ほっとけないし、ここ、店の隣の空き家なんだよね。夜遅くなって帰れない時はよくここに泊まってるんだ。トバリに食べられたくないしさ。」
「そうですか。ん?食べられる・・・?トバリって?」
「ん?トバリはトバリだよ。キミ、まだ寝ぼけてるのかい?」
赤い髪の女はわずかに眉をひそめて首をかしげた。トバリとはなんだ?食べられる?
「えっと・・・俺は倒れてたんですよね?」
「うん。キミは倒れてたよ。まったく、もうほとんど陽も落ちてたから、危なかったよ。何か覚えてないの?」
覚えているのは殴られた事。頭への衝撃を思い出し、思わず手を当てるが、やはり傷などは全く無かった。
目の前の赤い髪の女との会話もどうも噛み合わない。確かに頭から血も流れていたはずだ。
普通血を流して倒れていた人を見たら、まず救急車と警察を呼ぶだろう。
しかし、血は流れていないしどこも痛くない。
あれは夢だったのか?自分の頭を疑ってしまいそうになる。
「・・・なんだか深刻そうだね。まぁ、起きたばかりで、まだ頭もスッキリしてないんじゃない?もう少し休んでいくといいよ。あ、私はレイチェル。レイチェル・エリオット。キミは?」
「あ、俺は坂木 新よろしく。その・・・日本語上手いですね」
「ニホンゴ?なんだいそれ?」
「え?いやいやだって俺とこんなに会話できてるじゃないですか?」
「キミの言ってる事はさっぱり分からない。倒れた時に頭でもぶつけたのかい?」
想像しない返答に、思わず絶句してしまう。冗談を言っているのだろうか。
外国人だというのは名前で分かる。顔立ちも確かに日本人ではない。
だが、ここまで流暢に会話をして、日本語という言葉を知らない訳が無い。
「・・・本当に深刻な顔してるね? あのさ、キミはどこから来たんだい? この辺の人じゃないでしょ? 話し聞いてあげるよ。このまま噛み合わない会話してんのも、キミも困るでしょ?」
目の前の赤い髪の女レイチェルは、俺の肩を軽く叩くと、イスの背を抱く形で腰をかけ、俺にはベッドを指さした。
確かに会話が噛み合わない。俺は現状を全く理解できないし、このままの会話を続けても何も解決しないだろう。
しかし、俺の身に起こった事をそのまま話して、信じてもらえるだろうか?
頭がおかしいと思われないだろうか?様々な思考が頭を駆け巡る。
「・・・分かりました。確かにこのまま話しててもお互い困ると思うし、最初から話します」
「うん。じゃあ聞こうか。でも、その前にさ、敬語はいらないから普通に話してよ。多分キミ、私と同じくらいの年でしょ?アラタって呼んでいいかい?私の事もレイチェルでいいよ」
「あ、うん、そうだと思いま・・・思う。俺は22歳。えっと、レイチェルは?」
「そうそう。それでいいよ、同じ人間なんだしさ。私は19だよ。3つ上かぁ、ちょっと意外。髪を下ろしてるからかな?同い年くらいに見えた。でも目元まで伸びてると、ちょっと暗そうだから切った方がいいよ」
レイチェルは右の人差し指と中指をハサミに見立て、髪を切るような仕草を見せた。
村戸さんにも同じ様な事を言われてたな・・・。
目に入りそうなくらい伸びた髪をつまむと、意識を失う前のあの夜の事が頭によみがえる。
なぜ怪我も無くなり、ここで寝ていたのか。村戸さん、弥生さんはどうなったのだろう。
どのくらい寝ていたのだろうか? 父さん、母さん、健太、家族はどうしているだろう。
高校を出て就職もせずにブラブラしていたら、やがて父との会話は無くなっていった。
母はそんな俺をいつも心配していた。
だから、バイトだけどウイニングで働く事になった時は喜んでくれたっけな。
健太・・・アイツは弟だけど、ちゃんと大学にも行って、俺よりしっかりしてるから大丈夫だな。
父さん、母さんの事も支えてくれるだろう。
「・・・じゃあ、アラタ、そろそろ本題に入ろうか」
俺はこれまで自分の身に起こった事を話した。
胸まで毛布が掛けられており、どうやらベッドに寝ているようだと気づく。
病院か?そう思い視線を巡らせたが、どうも病院とは違うようだ。
仕切りのカーテンも無く、ナースコールボタンも無い、当然テレビも冷蔵庫も無い。
花瓶が置いてある小さな木製のテーブルにイス、古民家にありそうな年期の入ったタンスくらいしか置いてなかった。
広さは12畳くらいだろうか。室内は全て木でできており、病院というより小屋に見える。
「そうだ!あれからどうなった!?」
少し頭が働き始めた時、俺はあの出来事を思い出した。
頭を殴られて意識を失いそれから・・・。
頭!?そうだ俺は頭を殴られたはず。だが痛みは全くない。
包帯もまかれておらず治療した様子が全くない。上着を捲くり腹を見ても、痣一つなかった。
あれほど強く蹴られたのに。
「あれ?なんだこれ?浴衣・・・じゃないよな?」
上着を掴んで気付いたが、見覚えのない茶色の浴衣のような物を着せられていた。
最初に来ていたTシャツ、デニムパンツは見当たらない。
「・・・ここどこだ?血が出るくらい頭殴られたのに、傷が無いどころか頭は痛くねぇし、なんか変なの着せられてるし・・・わけわかんねぇ・・・誰かいないのか?」
状況を把握できず、室内を見渡すが答える者は誰もいない。
室内にいても状況は変わらないと思い、ベッドから降り部屋を出ようとドアに手をかけると、キィ・・・と静かに軋む音とともにドアが開かれた。
「・・・あれ、起きたんだ?倒れてたけど大丈夫なのかい?」
赤い髪の女だった。ショートボブというヤツだろうか、前髪は眉の上まで短めに切られている。
背は俺より頭一つは小さく、華奢な印象だが燃えるような赤い髪のインパクトに少したじろいでしまう。
二十歳くらいだろうか、あどけなさが残ってみえる。
俺と同じ茶色の浴衣のような物を着ている。
パッチリとした黒い瞳は好奇心の色をうかべ、俺を真っすぐに見つめている。
「・・・あー、あの俺は、その・・・どうしてここに?」
「あぁ、うちの店の前に倒れてたんだ。びっくりしたよ、閉めて帰ろうとしたらキミが倒れてるんだもん。なんであそこで倒れてたのさ?まぁ、ほっとけないし、ここ、店の隣の空き家なんだよね。夜遅くなって帰れない時はよくここに泊まってるんだ。トバリに食べられたくないしさ。」
「そうですか。ん?食べられる・・・?トバリって?」
「ん?トバリはトバリだよ。キミ、まだ寝ぼけてるのかい?」
赤い髪の女はわずかに眉をひそめて首をかしげた。トバリとはなんだ?食べられる?
「えっと・・・俺は倒れてたんですよね?」
「うん。キミは倒れてたよ。まったく、もうほとんど陽も落ちてたから、危なかったよ。何か覚えてないの?」
覚えているのは殴られた事。頭への衝撃を思い出し、思わず手を当てるが、やはり傷などは全く無かった。
目の前の赤い髪の女との会話もどうも噛み合わない。確かに頭から血も流れていたはずだ。
普通血を流して倒れていた人を見たら、まず救急車と警察を呼ぶだろう。
しかし、血は流れていないしどこも痛くない。
あれは夢だったのか?自分の頭を疑ってしまいそうになる。
「・・・なんだか深刻そうだね。まぁ、起きたばかりで、まだ頭もスッキリしてないんじゃない?もう少し休んでいくといいよ。あ、私はレイチェル。レイチェル・エリオット。キミは?」
「あ、俺は坂木 新よろしく。その・・・日本語上手いですね」
「ニホンゴ?なんだいそれ?」
「え?いやいやだって俺とこんなに会話できてるじゃないですか?」
「キミの言ってる事はさっぱり分からない。倒れた時に頭でもぶつけたのかい?」
想像しない返答に、思わず絶句してしまう。冗談を言っているのだろうか。
外国人だというのは名前で分かる。顔立ちも確かに日本人ではない。
だが、ここまで流暢に会話をして、日本語という言葉を知らない訳が無い。
「・・・本当に深刻な顔してるね? あのさ、キミはどこから来たんだい? この辺の人じゃないでしょ? 話し聞いてあげるよ。このまま噛み合わない会話してんのも、キミも困るでしょ?」
目の前の赤い髪の女レイチェルは、俺の肩を軽く叩くと、イスの背を抱く形で腰をかけ、俺にはベッドを指さした。
確かに会話が噛み合わない。俺は現状を全く理解できないし、このままの会話を続けても何も解決しないだろう。
しかし、俺の身に起こった事をそのまま話して、信じてもらえるだろうか?
頭がおかしいと思われないだろうか?様々な思考が頭を駆け巡る。
「・・・分かりました。確かにこのまま話しててもお互い困ると思うし、最初から話します」
「うん。じゃあ聞こうか。でも、その前にさ、敬語はいらないから普通に話してよ。多分キミ、私と同じくらいの年でしょ?アラタって呼んでいいかい?私の事もレイチェルでいいよ」
「あ、うん、そうだと思いま・・・思う。俺は22歳。えっと、レイチェルは?」
「そうそう。それでいいよ、同じ人間なんだしさ。私は19だよ。3つ上かぁ、ちょっと意外。髪を下ろしてるからかな?同い年くらいに見えた。でも目元まで伸びてると、ちょっと暗そうだから切った方がいいよ」
レイチェルは右の人差し指と中指をハサミに見立て、髪を切るような仕草を見せた。
村戸さんにも同じ様な事を言われてたな・・・。
目に入りそうなくらい伸びた髪をつまむと、意識を失う前のあの夜の事が頭によみがえる。
なぜ怪我も無くなり、ここで寝ていたのか。村戸さん、弥生さんはどうなったのだろう。
どのくらい寝ていたのだろうか? 父さん、母さん、健太、家族はどうしているだろう。
高校を出て就職もせずにブラブラしていたら、やがて父との会話は無くなっていった。
母はそんな俺をいつも心配していた。
だから、バイトだけどウイニングで働く事になった時は喜んでくれたっけな。
健太・・・アイツは弟だけど、ちゃんと大学にも行って、俺よりしっかりしてるから大丈夫だな。
父さん、母さんの事も支えてくれるだろう。
「・・・じゃあ、アラタ、そろそろ本題に入ろうか」
俺はこれまで自分の身に起こった事を話した。
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