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4.人が住んでいない森に家を建てて暮らしてみる
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※ ※ ※ ※ ※
「トーリ様はお優しすぎます」
「そうか?」
散々食べた獣人の子は、今は腹を出して寝ている。
その光景はとても和むが、腹部の膨らみに比べると手足が細すぎるのが余計に目立った。
種族単位の確執などは分からないが、リドツォルの町では同じ人間族しか見ていない。
種族間で違う集落を形成しているのかもしれないが、この獣人の子は明らかに不当な暴力の痕跡があるのだ。
「町で他の種族を見たか?」
「いいえ、トーリ様。先のリドツォルでは丸耳のヒト族しか見ていません。町全体を散策した訳ではありませんので、確実な事は分かりかねますが」
「そうだな。でもそうすると、この子は……」
セスとオレが二人で話していると、急に獣人の子の様子が変わる。
大の字になって心地良さそうに寝ていたそれまでと違って、背中を丸めて苦しそうに震えているのだ。
「……め、なさ……。ぐすっ……るし、て……め……なさ……」
途切れ途切れに聞こえてくる圧し殺した泣き声と謝罪の言葉だろうそれ。
こんなに小さな子供が、どうしてここまで苦しまないとならないのか。オレは他者に対してあまり深く関わらない性質だったが、泣いて震える幼子を放置しておける程冷徹でもない。
「大丈夫だ。もうここにはキミを苦しめるものはない」
静かにベッドに歩み寄ったオレは、少しぎこちなくではあるもののその子の頭を撫でていた。
慣れない自分の行動に驚きもするが、それ以上にオレにしがみつくようにその子が抱き付いてきた事に驚愕して固まる。けれども人肌恋しいのかすがり付きたい心境なのか、腹部へ回された腕からはオレに対する悪意を感じなかった。
「トーリ様。排除致しますか?」
「……いや、問題ない。敵意も害意も感じない」
「それはそうですが、セスはあまりセス以外をトーリ様に近付けたくはありません」
「すまない。だがせめてこの子が自力で行動出来るようになるまで、な」
「申し訳ございません、トーリ様。セスはトーリ様の決定に反する事は致しません」
「ありがとう、セス」
獣人の子の頭を撫でつつ、静かにベッドに腰を下ろす。
とりあえずセスを説得する事に成功したようで、一安心だ。けれどもセスってば過保護なあまりか、すぐオレ以外を『排除』しようとする。
この発言を聞く度、毎回心臓が縮まるのだ。こういうのも何だが、オレは小心者だから本当にやめてほしい。
「さっきの話。この子の背景を聞き出せると良いのだが」
「……そうですね」
「とにかく、今は休ませるしかないな」
「はい、トーリ様。ではもう一つベッドをお出し致します」
獣人の子も撫でている内に落ち着いたようで、再び穏やかな寝息を立てていた。その様子を暫く見ているうちに、オレにも睡魔が歩み寄ってくる。
久し振りに森の中を見て歩いて、何だかんだ色々驚きもあって疲れた。しかも猫耳獣人がいるとか超ファンタジーなんだけど。
オレは内心一人で物凄く盛り上がっていたのだが、セスの言葉にベッドを追加で設置する必要性を思い出した。獣人の子がいつまでここにいるかは不明だが、さすがに寝る場所は別に準備しておかなければならない。
「あぁ、そうして……ん、手を放してくれそうにないな」
「では、排除いたし」
「それは良いから」
「ですが」
「このまま少し寝る。後で部屋をもう一つ作ろう」
「……はい、トーリ様」
手を少しばかり強引に外そうと思ったのだが──この獣人の子、やたら力が強い。オレの腹部に回された腕は折れそうな程細いのに、がっしりオレの服を掴んで放さないのだ。
何これ、くっそ可愛いんだけど。引き離そうとすると、いやいやをするみたいに腹にグリグリ頭を押し付けて来て。出ないけどミルク出してやりたくなる。 母性──いや、父性かこれ。
しがみつく動物が小猿かコアラくらいしか思い浮かばないが、オレの脳内イメージが母親の腹にくっつく子動物を連想させた。だがそうこうしている妄想がヤバい方向へ暴走しそうになった為、オレは思考を放棄する。
そのまま獣人の子を配慮しつつ、コロッとベッドに身体を横たえた。
起きたら部屋を追加して、この子の休む場所を整えよう。そういえばセスが不満そうだった。そうか。もしかしたらセスの部屋もないのに、この子の部屋をって言ったからかもな。
オレは夢うつつとなる思考の中で、いつも共に寝ているセスを思い浮かべる。
小さな白イタチであるセスは、大きく場所を必要としないので当然のようにオレと同じベッドに寝ていた。獣臭くもないし、排泄を失敗する事もない為、普通の動物のような対応を必要としないのである。
けれども、オレと言葉を交わす事が出来る知能ある生体だ。これはもう一度、セスの意見をきちんと聞いてみなくてはならない。
言葉ではいつもオレ優先でいてくれるが、感情も思考もあるセスの本心は分からないのだ。普通に人間と同じように好みもあれば、良し悪しの判断がオレと違う事もあるだろう。──そう思うと、オレはかなりセスに甘えすぎている。
ダメじゃん、オレ。今日なんて、何度もセスの言葉を無下にしてなかったか。不快さをみせていた事に気付いていたのにも関わらず、強引にオレの意見を突き通してしまっていたじゃないか。見捨てられたらどうするよ、オレ。
「トーリ様はお優しすぎます」
「そうか?」
散々食べた獣人の子は、今は腹を出して寝ている。
その光景はとても和むが、腹部の膨らみに比べると手足が細すぎるのが余計に目立った。
種族単位の確執などは分からないが、リドツォルの町では同じ人間族しか見ていない。
種族間で違う集落を形成しているのかもしれないが、この獣人の子は明らかに不当な暴力の痕跡があるのだ。
「町で他の種族を見たか?」
「いいえ、トーリ様。先のリドツォルでは丸耳のヒト族しか見ていません。町全体を散策した訳ではありませんので、確実な事は分かりかねますが」
「そうだな。でもそうすると、この子は……」
セスとオレが二人で話していると、急に獣人の子の様子が変わる。
大の字になって心地良さそうに寝ていたそれまでと違って、背中を丸めて苦しそうに震えているのだ。
「……め、なさ……。ぐすっ……るし、て……め……なさ……」
途切れ途切れに聞こえてくる圧し殺した泣き声と謝罪の言葉だろうそれ。
こんなに小さな子供が、どうしてここまで苦しまないとならないのか。オレは他者に対してあまり深く関わらない性質だったが、泣いて震える幼子を放置しておける程冷徹でもない。
「大丈夫だ。もうここにはキミを苦しめるものはない」
静かにベッドに歩み寄ったオレは、少しぎこちなくではあるもののその子の頭を撫でていた。
慣れない自分の行動に驚きもするが、それ以上にオレにしがみつくようにその子が抱き付いてきた事に驚愕して固まる。けれども人肌恋しいのかすがり付きたい心境なのか、腹部へ回された腕からはオレに対する悪意を感じなかった。
「トーリ様。排除致しますか?」
「……いや、問題ない。敵意も害意も感じない」
「それはそうですが、セスはあまりセス以外をトーリ様に近付けたくはありません」
「すまない。だがせめてこの子が自力で行動出来るようになるまで、な」
「申し訳ございません、トーリ様。セスはトーリ様の決定に反する事は致しません」
「ありがとう、セス」
獣人の子の頭を撫でつつ、静かにベッドに腰を下ろす。
とりあえずセスを説得する事に成功したようで、一安心だ。けれどもセスってば過保護なあまりか、すぐオレ以外を『排除』しようとする。
この発言を聞く度、毎回心臓が縮まるのだ。こういうのも何だが、オレは小心者だから本当にやめてほしい。
「さっきの話。この子の背景を聞き出せると良いのだが」
「……そうですね」
「とにかく、今は休ませるしかないな」
「はい、トーリ様。ではもう一つベッドをお出し致します」
獣人の子も撫でている内に落ち着いたようで、再び穏やかな寝息を立てていた。その様子を暫く見ているうちに、オレにも睡魔が歩み寄ってくる。
久し振りに森の中を見て歩いて、何だかんだ色々驚きもあって疲れた。しかも猫耳獣人がいるとか超ファンタジーなんだけど。
オレは内心一人で物凄く盛り上がっていたのだが、セスの言葉にベッドを追加で設置する必要性を思い出した。獣人の子がいつまでここにいるかは不明だが、さすがに寝る場所は別に準備しておかなければならない。
「あぁ、そうして……ん、手を放してくれそうにないな」
「では、排除いたし」
「それは良いから」
「ですが」
「このまま少し寝る。後で部屋をもう一つ作ろう」
「……はい、トーリ様」
手を少しばかり強引に外そうと思ったのだが──この獣人の子、やたら力が強い。オレの腹部に回された腕は折れそうな程細いのに、がっしりオレの服を掴んで放さないのだ。
何これ、くっそ可愛いんだけど。引き離そうとすると、いやいやをするみたいに腹にグリグリ頭を押し付けて来て。出ないけどミルク出してやりたくなる。 母性──いや、父性かこれ。
しがみつく動物が小猿かコアラくらいしか思い浮かばないが、オレの脳内イメージが母親の腹にくっつく子動物を連想させた。だがそうこうしている妄想がヤバい方向へ暴走しそうになった為、オレは思考を放棄する。
そのまま獣人の子を配慮しつつ、コロッとベッドに身体を横たえた。
起きたら部屋を追加して、この子の休む場所を整えよう。そういえばセスが不満そうだった。そうか。もしかしたらセスの部屋もないのに、この子の部屋をって言ったからかもな。
オレは夢うつつとなる思考の中で、いつも共に寝ているセスを思い浮かべる。
小さな白イタチであるセスは、大きく場所を必要としないので当然のようにオレと同じベッドに寝ていた。獣臭くもないし、排泄を失敗する事もない為、普通の動物のような対応を必要としないのである。
けれども、オレと言葉を交わす事が出来る知能ある生体だ。これはもう一度、セスの意見をきちんと聞いてみなくてはならない。
言葉ではいつもオレ優先でいてくれるが、感情も思考もあるセスの本心は分からないのだ。普通に人間と同じように好みもあれば、良し悪しの判断がオレと違う事もあるだろう。──そう思うと、オレはかなりセスに甘えすぎている。
ダメじゃん、オレ。今日なんて、何度もセスの言葉を無下にしてなかったか。不快さをみせていた事に気付いていたのにも関わらず、強引にオレの意見を突き通してしまっていたじゃないか。見捨てられたらどうするよ、オレ。
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