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3.町にいってみたけど何か違う

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 それからも魔法に関する他の書物を読み進め、結果的に精霊は自然界に当たり前のように存在する自由意思である事を知る。
 花も木も、水や炎にすら意思──命があると考える方がオレは分かりやすい。

「……凄いな、異世界」
「はい、トーリ様。前の世界でも御座いましたが、この世界はそれが分かりやすく存在しています」

 ポツリと呟いたオレの言葉に、当然のようにセスが返してくれた。
 同じ様に本のページに視線を落としてくれているようで、セスにもこの世界の人の文字が読めるようである。──何だか嬉しい。

 そして最終的に魔法を使う為に必要なのは、精霊との契約だ。
 だからそれを知りたかったのだが、どうやら何処にも──他の何冊も広げて探してみたけれども、契約方法について記されている部分がない。
 どういう事か思考を巡らせるが、書き記せない・・・・・・のではないかという結論を出す事しか出来なかった。

「トーリ様。そろそろお食事を召し上がられた方が宜しいかと愚考致します」
「あ……、もうそんなに時間がったのか。分かった。もうこれ以上情報を得る事は出来なそうだし、外に出るか」
「はい、トーリ様。あちらに少し開けた場所が御座います」
「分かった」

 出した書物を片付け、オレはセスの小声での案内で中庭のような場所へ移動する。
 そこは木々に囲まれていて、小さな噴水もある公園のような所だった。

 そして見渡した先に、屋根の付いた休憩スペースが目に入る。
 周囲にも人がいない為、オレはその場所で休む事にした。

「セス。朝にソロからもらった食事を出してくれないか?」
「はい、トーリ様。異物などは混入しておりませんので、御安心して御召し上がり下さいませ」
「ありがとう、セス」

 ソロじいさんがオレに薬を盛るとかしないよなと思いつつ、苦笑を返す。
 けれどもセスは、自分が出すもの以外を確認しなければ気が済まないのだろう。そもそも、亜空間に収納していただけでも薬物検査出来ている事が凄かった。

 そうしてセスが出してくれたクロスの上に、ソロじいさんからもらった食事を並べる。昨夜食べたような肉や野菜を薄切りパンに挟んだものと、果実が数個だ。
 あれから半日程経過しているが、全く劣化していない。どうやら亜空間の中では状態変化すらしないようだ。

 それをセスを二人で食べていると、不意に近付く足音に気が付いた。
 公共の場である為、オレは我関せずで食事を続ける。

「おい、お前。………………おい、聞いてんのかっ」

 だがその何者かは、何やら声量を増して叫び始めた。
 そこでようやく視線だけ向ければ、体格が横に主張し過ぎた小柄な男と半歩後ろにいる三人の大きな男達。
 その中で叫んでいるのは小さい方で、服装も何というか──ピエロのような奇抜な格好である。
 首から肩に掛けてのヒラヒラとか、菱形模様ハーリキン・チェックとか。色合いも赤や金銀を使った、見た目からして派手の方向性を間違えてしまった装いだった。
 単に目立ちたがりなのか。もしかすると、これがとても凄い有名デザイナーの仕立てかもしれないが。

「そこは俺様の場所だっ」
「………………そうか」

 背丈もオレより小柄で、肩くらいだろうか。小学生か、中学生になりたての男の子だ。ふんぞり返っている為に、余計に子供っぽく見える。
 その子がこちらに指差しながら、どうやら場所を移動するように言っているようだ。

 先客は当然オレなのだが、食事はあらかた食べ終わっている。セスも同じなので、この場を使いたいという子供を無視してまで居座る必要性も感じなかった。
 人に指を差すのはどうかと思うが、この世界の細かな常識を知らないので許容する。そんな考えを脳内でしながら、手元を片付けて席を立った。
 荷物はとりあえず、肩から下げた帆布はんぷ製の鞄に押し込んだ。──セスの亜空間収納が、他の目からどう思われるか分からないからな。

「おい、聞いてんのかっ」
「……うるさいな」

 離席して場所を譲ろうとしているのに、いまだにその子は喚き散らしている。しかもまだ声変わり前なのか、甲高い声で一方的に叫んでいるのだ。
 オレは思わず、苛つきが口からこぼれてしまう。

「何っ!?おいっ、平民っ!俺様が誰だか分かっての事かっ?!」
「………………はぁ」
「溜め息だとっ!この俺様に向かってその態度っ?もう我慢出来んっ!切り捨ててやるっ!」

 恐らくオレが何をしても気に入らないのだろうが、もう小型犬のバカみたいなキャンキャン声と変わらないのだ。
 実際に何を言っているのか聞き取る気も失せたオレだが、今『切り捨てる』とか言わなかったか?

「トーリ様。セスが処理致しましょうか」
「……いや。貴族らしいから、更に面倒事になりそうだ」

 小声でセスが話し掛けてきた。
 『処理』の意味は深く分からないが、セスの防御機能を使えば軽く吹き飛ばせるだろう。

 しかしながらオレに対して『平民』というからには、相手は貴族なのだ。この世界のしがらみはないが、変に禍根かこんを残すと今後に差しさわりが出る。

 ──穏便にかつ、後を引かない解決策。物理的な力ではない、圧倒的圧力か?あの子がオレに手を出す事を躊躇するようなもの……。

 オレは内心の苛立ちを隠し、目の前の子に真っ直ぐ視線を向けた。
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