SEIREI ── せい れい ── 自然に好かれるオレはハッピーライフをおくる

まひる

文字の大きさ
19 / 53
3.町にいってみたけど何か違う

3-2

しおりを挟む
 ※ ※ ※ ※ ※

 ノックの音が聞こえて、オレは扉へ視線を向ける。だが音のぬしは一向に入ってくる様子がなかった。
 そして再び、ノックの音がする。

「トーリ」
「ソロ?」
「あぁ、ワシだ。食事を持って来させた。入ってもよいかの」
「……あぁ」

 今度は声で相手が分かり、わずかに肩の力を抜くオレ。
 だが、わざわざソロじいさんに食事を運ばせてしまった。──オレはセスだけではなく、こちらにも悪い事をしてしまったようである。
 心苦しく思いながらも、オレは扉へ歩み寄ろうと腰を掛けていたソファーから立ち上がった。

 そしてそのタイミングで扉が開かれ、入ってきた使用人の数に驚く。
 料理が乗っているだろう台車を押す者、お盆のような物を持っている者。次から次へと部屋に入って来て、総勢五人もだ。

「これは……」
「あぁ、すまないトーリ。あちらにも人員を少しは残しておかないとならないので、少なくて申し訳ないのぅ」
「いや、そうではなく」
「ワシも一緒で構わないかのぉ?」
「それは良いが」
「では、ここへ運んでくれ。ん?どうしたんだ、トーリ」
「……いや」

 オレが言い淀んでいる間に、あれよあれよと料理がテーブルに並べられる。
 ソファー前のテーブルなので低めだが、先程の食事とは違い軽食に近いメニューとなっていた。
 つまりは使用人の数はさておき、あちらはそのままで新しく作り直して来たという事である。

「座らないのか、トーリ。もしかして、また何か……」
「あ、いや………………ここまでしてもらって、すまない」

 戸惑いのあまりに立ち尽くしていたオレに、ソロじいさんが不思議そうな表情を浮かべていた。
 既にソファーに腰掛けているソロじいさんの前には、大きなグラスに紅茶のような赤みがかった飲み物。見たところビールに似ているが、泡立ちと炭酸が少なくて匂いも紅茶や花を連想させる。

「酒か?」
「うむ。トーリには申し訳ないが、食事は先程済ませてしまった。だがキミを独り食させる訳にはいかないからな。そういう言い訳で、ワシは酒とツマミなのだよ。だから気にせず、食事をしてくれないかのぉ」
「……分かった。ありがとう、ソロ」

 そんなやり取りの後、オレはソロじいさんの対面のソファーに腰掛けた。
 オレはそこで、改めてテーブルの上の料理を見回す。

「では遠慮なく食べてくれの」
「あぁ」

 オレは先程の食事にほとんど手をつけていなかった為、ソロじいさんに言葉に従い、遠慮なく口に運んだ。──小声でセスが『こちらも安全です』と、薬物反応調査のような事をしてくれている。先程もそうだった。
 飲み物が酒しかないのは痛いが、水が貴重なのだろうとこちらの世界観から想像は出来る。
 そして言ってはダメかもしれないが、先程の夕食のメニューよりも食べやすそうだった。──何より手掴み食にも違和感がなく、他のものもフォークで食べられる。

 薄く切った白パンに、薄切りの肉や野菜を挟んだサンドイッチ。
 甘くないペイストリー生地で、塩コショウで味付けした肉とジャガイモ系や玉ねぎ系の詰め物フィリングを包んで焼いたもの。
 そしてベーコンの塊のような塩味がしっかりとついた肉を蒸し焼きローストし、スライスした状態でプレートに乗っているもの。

 前世でも同じ様な物を食べた事があり、味的にも多少濃いが飲み物が酒なので合うのだ。
 オレも初めてアルコールを口にしたが、飲める体質のようで安心した事は内緒である。──これが下戸ならば、この世界で完全に生き残れない。ソフトドリンクが入手困難ならば尚更だ。

「トーリは酒に強いのぅ」
「……そうなのか?」
「顔にも出ないようだ。エールも平気だし、何よりワシと一緒にワインが飲めるとは嬉しいのぉ」
「そうか」

 いつの間にか酒の種類が変わっていたが、オレは普通にソロじいさんと飲み食いを続けていた。
 丸みを帯びたグラスで飲む、赤みを帯びた酒。渋味があるが、食べている肉が塩辛く脂身が強いので逆に旨い。

「あいつらはエールも酔うと抜かすから、ワシはいつも独り酒だったぞぉ」
「オレはこんなに飲んだのは初めてだ」
「そうなのか?それならば尚更、酔い潰れるまで飲むかのぅ」

 初めて飲酒したオレは、少しばかり気が大きくなっていたようだ。そして同じものを飲み食いしていた為か、珍しくセスもオレの肩の上でうつらうつらしている。
 それをオレは、この場の安心感からなせる事だと判断してしまったのだ。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆sideヴォスト

 いつまでっても戻ってこない祖父を捜して、俺はトーリに宛がわれている部屋までやって来た。
 ここに来ている筈だけれども、灯りは漏れているが話し声が聞こえない。

「お祖父様……。入りますよ?」

 ノックをしても返答がなく、仕方なく了解がないままに扉を開けた。そして目にした光景に、俺はしばらくその場に立ち尽くしてしまう。
 そこには珍しく机に突っ伏して眠っている祖父と、ソファーに横たわっているトーリがいた。

 使用人達は既に帰したようで、部屋には祖父とトーリ、精霊様のみである。──ちなみに精霊様は、定位置のトーリの肩の上で丸まっていた。
 テーブルの上は飲み残しの酒がわずかに入ったグラスと、少しのツマミだ。どうやら2人で飲み交わしていたらしい。──うらやましい。
 俺は両親と同じで、飲料の主体であるエールなどがあまり身体に合わないのだ。祖父に付き合わされて、何度も潰されている。

「トーリ……」

 声を掛けても起きない彼は、普段より血色の良い頬をしていた。
 先程の食事時、俺の失態で彼と精霊様を不快にさせてしまった事を思い出す。

 そして眺めていた俺は、自然と彼の頬へと指先が伸びていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

落ちこぼれの【無属性】魔術師、実は属性そのものを定義する「概念魔法」の創始者だった

風船色
ファンタジー
「魔法とは才能(血筋)ではなく、記述されるべき論理(ロジック)である」 王立魔導学院で「万年最下位」の烙印を押された少年、アリスティア・レイロード。属性至上主義のこの世界で、火すら出せない彼は「無属性のゴミ」と蔑まれ、ついに卒業試験で不合格となり国外追放を言い渡される。 しかし、彼を嘲笑う者たちは知らなかった。アリスティアが、既存の属性魔法など比較にならないほど高次の真理――世界の現象を数式として捉え、前提条件から書き換える『概念魔法(コンセプト・マジック)』の使い手であることを。 追放の道中、彼は石ころに「硬度:無限」の概念を付与し、デコピン一つで武装集団を粉砕。呪われた最果ての森を「快適な居住空間」へと再定義し、封印されていた銀嶺竜の少女・ルナを助手にして、悠々自適な研究生活をスタートさせる。 一方、彼を捨てた王国は、属性魔法が通用しない未知の兵器を操る帝国の侵攻に直面していた。「助けてくれ」と膝をつくかつての同級生や国王たちに対し、アリスティアは冷淡に告げる。 「君たちの誇りは、僕の昼寝より価値があるのか?」 これは、感情に流されない徹底した合理主義者が、己の知的好奇心のために世界の理を再構築していく、痛快な魔導ファンタジー。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

処理中です...