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第1章──幼年期1~4歳──
026 好戦的なのってどうだろう
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目の前の物体に酷く圧迫感を覚え、グーリフの肌は痙攣するように震える。
背中にいる筈のフェリシアは、急激な魔力放出の為か、ゆらゆらと不自然に身体が揺れていた。
〈フェル……、おい、フェル!〉
スキル【以心伝心】にも、全くといって良いほど反応がないフェリシア。
意識が消失しているのかもしれないと判断したグーリフは、この極限状態の中でも彼女への守りを強化する。
(くそっ、これ程の威圧を感じるのは久し振りだぜ……。昔、迷い込んだ森でハネリュウ種に出会った時以来かぁ?)
フェリシアと出会う前のグーリフは、根無し草よろしく、あちらこちらを旅していた。その際、食料を求めて入った森で、魔核科魔獣属ハネリュウ種を目にする。
それはゴツゴツとした鱗を持ち、膜状の翼を背に四つ足で歩行する巨体だった。その時のグーリフが戦わず肌で感じるほど、圧倒的な恐怖の対象だったのである。
そんな過去の回想から戻り、現実の敵を改めて直視するグーリフだ。そして、今は一人ではない。
影を包んでいるフェリシアの光の魔力は、彼女の意識の有無に関わらず、その輝きを維持していた。合わせて補助するように、グーリフの風の魔力も継続中である。
(けどまぁ、この状態からどうするかってのが、一番の問題だなぁ)
現時点では、影の膨張と二人の魔力の抑え込みが、絶妙なバランスを保っていた。しかしながらこの膠着状態はいつまで続くのか、しかも距離をとって良いものかの判断もつかない。
グーリフは再度影に対して正面を向き、背中のフェリシアも守るべく睨みを利かせるのだった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「な、何これ~!」
妙に弾んだ声音が、隣のエリアスの方からから聞こえる。
若干苛立ちを感じながらも、マルコは前方の異質を見極めようと目を凝らした。
それまで兄弟三人で離れの図書室にいたのだが、敷地内に突如湧いた気配に気付き、共に駆け付けたのである。
「……ミアを襲っていた影と、同一のように思えます」
「兄様、知ってるんだ?」
「えぇ。知っているという程ではありませんが、一度だけ目にしました。あの時は風の魔力で上空へ吹き飛ばしましたが、どうやら今回は肉体を得て、力を付けたようですね」
冷静に言葉を紡ぐガウリイルに、マルコは僅かながら焦りを感じた。
この国には珍しい鳥属の侍女は、屋敷に逃げ込んで来たところを保護したと聞いている。現時点では彼女の実家に話を通している為、シア専属の侍女見習いという体をとっている筈だ。
そんな彼女を再度狙ってきたのか、はたまた初めから狙いがフェリシアだったのか──
「体、か……。ならば、現状、あの小さなリスが本体って事か」
「ん。あれ、壊せば良い?」
「待って下さい。現在の様子から判断する限り、シアはあの動物を排除するつもりはないようです。それに、影とリスの繋がりがどの程度か知る必要があります」
マルコの言葉に、すぐさま懐から短剣を出したエリアスである。──兄弟達は年齢こそ幼いが、当主であるヨアキムから屋敷の守護を任されている為、常に武器を携帯しているのだ。
しかしながら、エリアスのやる気を制したのはガウリイルである。理由は、影の真意が懸念されたからだ。
この世の全ての生命体には魔力がある。それは勿論、大気中にも多く漂っていた。そして邪心から湧き出したものは寄り集まって影になり、影は共食いをする事で質をより色濃くし、最終的に魔核を形成した魔物となると言い伝えられている。
魔核科──魔王、魔人、魔獣、魔物──の中で、完全に産みの親がいないのは魔物だけとされていた。
「もしかして兄様、生物科からも魔物が発生するとか言ってる?その辺り、今の学術的見解を覆す思考だけど、新風を撒き散らす気?」
「いえ、そんなつもりはありません。ですが、邪心から発生した影が、生物を喰らわないと決まってはいません」
「どっちでも良いよ、ガウ兄もマル兄もさ。あれ、壊しても良いの?」
「待ちなさい、アース。あれはグーリフの風と、シアの光で拘束されています。アースは、光の素質を持っていないではありませんか。大怪我しますよ?」
「それなら、兄様だね。ちょうど都合良く、風と光の二種持ちだから」
「ん。分かった。ガウ兄に任せる」
「やれやれ、聞き分けの良すぎる兄弟で助かります。ですがわたしの魔力だけで、グーリフの風の魔力を打ち破れると思ってはいませんよね?マルもアースも風の素質を持っているのですから、当然、手伝ってくれますよね?」
にっこりと笑顔ではあるが、有無を言わさないガウリイルの物言いである。これがマルコから、『鬼畜の微笑』と言われる最もたるものなのだが、ガウリイルは改善する気はないようだ。
しかしながら、そもそもがグーリフはすぐそこにいるのだから、当人に頼めば良いものなのだが、そこは誰も気付かない。いつもの事だからと、兄弟三人でどうにかしようと思っていたのだ。
マルコは改めて視線を敵対者へ向ける。
屋敷に侵入する輩も、勿論魔力を持った者は少なくなかった。それを、都度三人で協力し、退けてきたという自負もある。
「本来ならば、影とリスの関係を知りたいところですが……致し方ありませんね。アースが暴走する前に、一旦お帰り頂く事にしましょう」
「またそんな事を言って、本当は楽しいくせに。兄様は鬼畜なんだから、鬼畜らしく『逆らうものは皆殺し』的な考えで猛進してくれて良いんだよ?」
「マル……わたしは、そこまで非道な事をした事がありますか?」
「さあ?」
「どっちでも良い、そんなの。おれ、早くやりたい」
「はい、はい。では、可能ならば捕獲、という方針でお願いしますね」
「分かった」「ん」
そうして、三兄弟は戦闘体勢をとった。
現時点で壁なのは、影の膨張を押さえ込んでいるようなフェリシアの光の魔力と、それを補助するなのように周囲を包むグーリフの風の魔力である。
兄弟は全員が風の素質を持っている為、グーリフの──同系統の魔力を打ち消す事に適していた。
長兄ガウリイルの動きに合わせ、マルコとエリアスが動く。
ガウリイルは魔力の扱いが繊細で、対象魔力に同調させる事が巧い。彼が対象物を包み込み、兄弟は長兄に魔力を添わせるだけだ。
ここは、さすが血を分けた兄弟といったところだろう。マルコとエリアスは、ガウリイルの魔力の波長だけは間違える事はなかった。
けれども、それでも互いが互いの魔力に同調させる細やかな操作が必要である。
「ん……」
「頑張れよ、アース」
このような繊細さとは無縁のエリアスは、僅かながら眉根を寄せた。それに逸早く気付いたマルコが声をかける。
しかしながら、そうやって二人が魔力の波長を合わせる事で、操作主であるガウリイルの思うままの動きを可能とするのだ。
「行けます」
「やっちゃって、ガウ兄」
「兄様こそ、やりすぎないでね」
三人の魔力が集まり、影を包むグーリフの風を上回ったようである。ガウリイルは呟いた後、すぐさま纏めた魔力を槍のように鋭く細くして突き出した。
そしてそれはガウリイルの思惑通り、グーリフの風を貫き、フェリシアの光へ到達する。
焦ったようにこちらを振り返るグーリフだが、マルコは邪魔をされてはならぬとばかりに、ガウリイルとの視線上に立ち塞がった。
(今は、兄様の集中を途絶えさせる訳にもいかないのでね)
そしてわざとらしく、マルコはグーリフに対し、にこりと笑みを向ける。
フェリシアとグーリフが、影を広がらないように抑えているのは分かっていた。だが、このまま長く維持するのが難しい事も、マルコには分かる。それ故の、第三者としての介入なのだ。
「……余計な真似をしてくれる」
「何を言っているのか分からないけど、ぼくたちはぼくたちなりの対処の仕方があるからさ。見てるだけってのは、性に合わないんだよ」
ブルルッと不機嫌そうに鼻を鳴らしたグーリフに、マルコは小さく肩を竦めながら告げる。
グーリフの言葉は伝わっていないものの、状況的に会話が成り立っているかのような二者だった。
「マル兄。抜ける」
「分かった。アース、隙間から思い切り風で突け」
「ん、任せて」
ガウリイルの光がフェリシアの光を凌駕した瞬間、それを追うように更に外側からエリアスの風の魔力が鋭く突き刺す。
純粋な魔力の攻防。影の存在に対し、光と風の魔力で周囲を圧迫された状態で、二種類の魔力が中央を貫いたのだ。
さすがにそれ以上の逃げ場がなかったのか、攻撃に押し負けるようにして、影は散々になりながら掻き消える。
「ふぅ……」
「さすが、ガウ兄」
「うん、兄様凄い。鬼畜なだけはある」
「……中々やるな、チビ助ども」
ガウリイルが大きく息を吐くと同時に、マルコとエリアスは、称える為に歩み寄った。
グーリフは小さく溜め息を吐くように、彼等に称賛を送る。勿論、通じはしないが──
そしてマルコは、影の消えた場所へ足を向けた。激しい魔力の衝突でえぐれてしまったが、短く揃えられていた緑の草の上、小さな茶色の毛皮を見つける。
それは影の依り代とされていた、リスだった。
「……マル?」
「兄様。これ、まだ生きているよ。どうする?」
「食べる?」
「いやいや、食べないですからね?ダメですよ、アース。このリスの処遇は、とりあえずシアに聞きましょう。彼女は、この存在を守りたそうでしたから。あ、勿論、最終決定は父様ですが」
「そうだよね。シアが必要なら、父様も悪くはしないだろうし」
「ん。シアがいるなら、おれも食べない」
「本当にアースは、食べる、寝る、戦う以外に選択肢はないのですか」
呆れたようなガウリイルだが、エリアスは小首を傾げるばかりである。
恐らくは悪く言われているなど思ってもいないのだと、マルコは内心で溜め息を吐いた。しかしながら、これがエリアスであると分かっている為、無駄に理想を広げる事はしない。
良し悪しは人それぞれであると、マルコは自己判断をするのだった。
背中にいる筈のフェリシアは、急激な魔力放出の為か、ゆらゆらと不自然に身体が揺れていた。
〈フェル……、おい、フェル!〉
スキル【以心伝心】にも、全くといって良いほど反応がないフェリシア。
意識が消失しているのかもしれないと判断したグーリフは、この極限状態の中でも彼女への守りを強化する。
(くそっ、これ程の威圧を感じるのは久し振りだぜ……。昔、迷い込んだ森でハネリュウ種に出会った時以来かぁ?)
フェリシアと出会う前のグーリフは、根無し草よろしく、あちらこちらを旅していた。その際、食料を求めて入った森で、魔核科魔獣属ハネリュウ種を目にする。
それはゴツゴツとした鱗を持ち、膜状の翼を背に四つ足で歩行する巨体だった。その時のグーリフが戦わず肌で感じるほど、圧倒的な恐怖の対象だったのである。
そんな過去の回想から戻り、現実の敵を改めて直視するグーリフだ。そして、今は一人ではない。
影を包んでいるフェリシアの光の魔力は、彼女の意識の有無に関わらず、その輝きを維持していた。合わせて補助するように、グーリフの風の魔力も継続中である。
(けどまぁ、この状態からどうするかってのが、一番の問題だなぁ)
現時点では、影の膨張と二人の魔力の抑え込みが、絶妙なバランスを保っていた。しかしながらこの膠着状態はいつまで続くのか、しかも距離をとって良いものかの判断もつかない。
グーリフは再度影に対して正面を向き、背中のフェリシアも守るべく睨みを利かせるのだった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「な、何これ~!」
妙に弾んだ声音が、隣のエリアスの方からから聞こえる。
若干苛立ちを感じながらも、マルコは前方の異質を見極めようと目を凝らした。
それまで兄弟三人で離れの図書室にいたのだが、敷地内に突如湧いた気配に気付き、共に駆け付けたのである。
「……ミアを襲っていた影と、同一のように思えます」
「兄様、知ってるんだ?」
「えぇ。知っているという程ではありませんが、一度だけ目にしました。あの時は風の魔力で上空へ吹き飛ばしましたが、どうやら今回は肉体を得て、力を付けたようですね」
冷静に言葉を紡ぐガウリイルに、マルコは僅かながら焦りを感じた。
この国には珍しい鳥属の侍女は、屋敷に逃げ込んで来たところを保護したと聞いている。現時点では彼女の実家に話を通している為、シア専属の侍女見習いという体をとっている筈だ。
そんな彼女を再度狙ってきたのか、はたまた初めから狙いがフェリシアだったのか──
「体、か……。ならば、現状、あの小さなリスが本体って事か」
「ん。あれ、壊せば良い?」
「待って下さい。現在の様子から判断する限り、シアはあの動物を排除するつもりはないようです。それに、影とリスの繋がりがどの程度か知る必要があります」
マルコの言葉に、すぐさま懐から短剣を出したエリアスである。──兄弟達は年齢こそ幼いが、当主であるヨアキムから屋敷の守護を任されている為、常に武器を携帯しているのだ。
しかしながら、エリアスのやる気を制したのはガウリイルである。理由は、影の真意が懸念されたからだ。
この世の全ての生命体には魔力がある。それは勿論、大気中にも多く漂っていた。そして邪心から湧き出したものは寄り集まって影になり、影は共食いをする事で質をより色濃くし、最終的に魔核を形成した魔物となると言い伝えられている。
魔核科──魔王、魔人、魔獣、魔物──の中で、完全に産みの親がいないのは魔物だけとされていた。
「もしかして兄様、生物科からも魔物が発生するとか言ってる?その辺り、今の学術的見解を覆す思考だけど、新風を撒き散らす気?」
「いえ、そんなつもりはありません。ですが、邪心から発生した影が、生物を喰らわないと決まってはいません」
「どっちでも良いよ、ガウ兄もマル兄もさ。あれ、壊しても良いの?」
「待ちなさい、アース。あれはグーリフの風と、シアの光で拘束されています。アースは、光の素質を持っていないではありませんか。大怪我しますよ?」
「それなら、兄様だね。ちょうど都合良く、風と光の二種持ちだから」
「ん。分かった。ガウ兄に任せる」
「やれやれ、聞き分けの良すぎる兄弟で助かります。ですがわたしの魔力だけで、グーリフの風の魔力を打ち破れると思ってはいませんよね?マルもアースも風の素質を持っているのですから、当然、手伝ってくれますよね?」
にっこりと笑顔ではあるが、有無を言わさないガウリイルの物言いである。これがマルコから、『鬼畜の微笑』と言われる最もたるものなのだが、ガウリイルは改善する気はないようだ。
しかしながら、そもそもがグーリフはすぐそこにいるのだから、当人に頼めば良いものなのだが、そこは誰も気付かない。いつもの事だからと、兄弟三人でどうにかしようと思っていたのだ。
マルコは改めて視線を敵対者へ向ける。
屋敷に侵入する輩も、勿論魔力を持った者は少なくなかった。それを、都度三人で協力し、退けてきたという自負もある。
「本来ならば、影とリスの関係を知りたいところですが……致し方ありませんね。アースが暴走する前に、一旦お帰り頂く事にしましょう」
「またそんな事を言って、本当は楽しいくせに。兄様は鬼畜なんだから、鬼畜らしく『逆らうものは皆殺し』的な考えで猛進してくれて良いんだよ?」
「マル……わたしは、そこまで非道な事をした事がありますか?」
「さあ?」
「どっちでも良い、そんなの。おれ、早くやりたい」
「はい、はい。では、可能ならば捕獲、という方針でお願いしますね」
「分かった」「ん」
そうして、三兄弟は戦闘体勢をとった。
現時点で壁なのは、影の膨張を押さえ込んでいるようなフェリシアの光の魔力と、それを補助するなのように周囲を包むグーリフの風の魔力である。
兄弟は全員が風の素質を持っている為、グーリフの──同系統の魔力を打ち消す事に適していた。
長兄ガウリイルの動きに合わせ、マルコとエリアスが動く。
ガウリイルは魔力の扱いが繊細で、対象魔力に同調させる事が巧い。彼が対象物を包み込み、兄弟は長兄に魔力を添わせるだけだ。
ここは、さすが血を分けた兄弟といったところだろう。マルコとエリアスは、ガウリイルの魔力の波長だけは間違える事はなかった。
けれども、それでも互いが互いの魔力に同調させる細やかな操作が必要である。
「ん……」
「頑張れよ、アース」
このような繊細さとは無縁のエリアスは、僅かながら眉根を寄せた。それに逸早く気付いたマルコが声をかける。
しかしながら、そうやって二人が魔力の波長を合わせる事で、操作主であるガウリイルの思うままの動きを可能とするのだ。
「行けます」
「やっちゃって、ガウ兄」
「兄様こそ、やりすぎないでね」
三人の魔力が集まり、影を包むグーリフの風を上回ったようである。ガウリイルは呟いた後、すぐさま纏めた魔力を槍のように鋭く細くして突き出した。
そしてそれはガウリイルの思惑通り、グーリフの風を貫き、フェリシアの光へ到達する。
焦ったようにこちらを振り返るグーリフだが、マルコは邪魔をされてはならぬとばかりに、ガウリイルとの視線上に立ち塞がった。
(今は、兄様の集中を途絶えさせる訳にもいかないのでね)
そしてわざとらしく、マルコはグーリフに対し、にこりと笑みを向ける。
フェリシアとグーリフが、影を広がらないように抑えているのは分かっていた。だが、このまま長く維持するのが難しい事も、マルコには分かる。それ故の、第三者としての介入なのだ。
「……余計な真似をしてくれる」
「何を言っているのか分からないけど、ぼくたちはぼくたちなりの対処の仕方があるからさ。見てるだけってのは、性に合わないんだよ」
ブルルッと不機嫌そうに鼻を鳴らしたグーリフに、マルコは小さく肩を竦めながら告げる。
グーリフの言葉は伝わっていないものの、状況的に会話が成り立っているかのような二者だった。
「マル兄。抜ける」
「分かった。アース、隙間から思い切り風で突け」
「ん、任せて」
ガウリイルの光がフェリシアの光を凌駕した瞬間、それを追うように更に外側からエリアスの風の魔力が鋭く突き刺す。
純粋な魔力の攻防。影の存在に対し、光と風の魔力で周囲を圧迫された状態で、二種類の魔力が中央を貫いたのだ。
さすがにそれ以上の逃げ場がなかったのか、攻撃に押し負けるようにして、影は散々になりながら掻き消える。
「ふぅ……」
「さすが、ガウ兄」
「うん、兄様凄い。鬼畜なだけはある」
「……中々やるな、チビ助ども」
ガウリイルが大きく息を吐くと同時に、マルコとエリアスは、称える為に歩み寄った。
グーリフは小さく溜め息を吐くように、彼等に称賛を送る。勿論、通じはしないが──
そしてマルコは、影の消えた場所へ足を向けた。激しい魔力の衝突でえぐれてしまったが、短く揃えられていた緑の草の上、小さな茶色の毛皮を見つける。
それは影の依り代とされていた、リスだった。
「……マル?」
「兄様。これ、まだ生きているよ。どうする?」
「食べる?」
「いやいや、食べないですからね?ダメですよ、アース。このリスの処遇は、とりあえずシアに聞きましょう。彼女は、この存在を守りたそうでしたから。あ、勿論、最終決定は父様ですが」
「そうだよね。シアが必要なら、父様も悪くはしないだろうし」
「ん。シアがいるなら、おれも食べない」
「本当にアースは、食べる、寝る、戦う以外に選択肢はないのですか」
呆れたようなガウリイルだが、エリアスは小首を傾げるばかりである。
恐らくは悪く言われているなど思ってもいないのだと、マルコは内心で溜め息を吐いた。しかしながら、これがエリアスであると分かっている為、無駄に理想を広げる事はしない。
良し悪しは人それぞれであると、マルコは自己判断をするのだった。
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