11 / 60
第1章──幼年期1~4歳──
011 馬が合う
しおりを挟む
思わず口を開いたまま、目の前を凝視するフェリシア。
「何だぁ?あまりにも俺が素敵で、見とれちまったってか?」
「あ、うん。違っ、えっと……はい」
楽しげな馬(?)にフェリシアは素直に応じてしまい、ハッと我に返ってから、丁寧語に直した。
スキル【神の眼】で見る限りでは、彼はかなり年上だからである。
「ふぅん?お前、チビの癖に、ちゃんと教育されてんなぁ」
「ほぇ?あ、いえ……ありがとうございます、親に感謝です」
突然誉められ、僅かに動揺しながらも礼を返すフェリシア。
この場合の親は、当たり前に『記憶』の両親だった。──今の親は昨日少し出会っただけだからである。
夕食時にもいなかったので、二人で仲良しこよししているのだろうと、マルコが言っていた。
「あの……、すみません。不躾ではありますが、幾つか質問しても良いですか?」
「ふん、何だ。暇だから聞いてはやるぞ」
フェリシアの問い掛けに対して、馬(?)は聞くだけはといった具合に返答してくる。
口調からして見下されているのは感じているフェリシアだが、今のところ情報収集に彼が最適と判断した。
「えっと……。まず初めに、ここは何処か知っていますか?」
「……他には?」
しかしながら、フェリシアの質問はすぐに流される。
答える気があるか不明だが、いちいち質疑応答するのは嫌なタイプなのかもしれないと、フェリシアは驚きを隠しながら推測した。
そして次の質問を促された為、逆に聞くだけ聞いてみようと開き直る。
「では次に、現在の状況です。我々以外にもたくさんの生物が拘束されているようですので、あまり良い結果ではないと推定されますが」
「……次」
続けた問い掛けもさらりと流されたが、二度目なのでさすがに予想していた。
この場所は生き物がたくさんいるからか、埃っぽくて臭い。あまり長居すると身体に臭いが移りそうだと思う。
四つ足の獣タイプである為、フェリシアはお尻を地に付けるようにして座り、彼を見上げていた。
その状態から、小首を傾げるようにして、これを最後にしようと続けて問う。
「ここ、臭くありません?」
「……ぶっはっはっはっは」
フェリシアが言い終わり、少しの間を開けてから爆笑された。
馬でも笑うのかと驚きつつも、初めて表情を崩せたと楽しくもなる。
けれども大きな体躯で脚を上下されれば、檻に入っているとは言えど、足元のフェリシアにとってはかなり危険だった。
「おいっ、うるせ~ぞっ!」
突然、怒鳴り声と共に入って来た人物──手に鉄パイプのような物を持っている、黒髪で頭頂部に黒い筒状の耳を持った男。
≪名前……ナッバー
年齢……25歳
種別……ヒト科獣属バク種
体力……E
魔力……E【土】≫
「うるせぇんだよ!ドタドタ暴れんなっての!」
苛立ちを隠す事なく、近くの柱を手にした棒で殴り付けている。そのガンガンと響く音に、周囲の檻から聞こえていた、それまでの騒ぎが消えた。
けれどもその名前に注視すれば、【賊】と表記されていた。明らかに『敵』である。
元より、脅しの為に棒切れを振るう事自体が、フェリシアの嫌う『嫌な奴』だ。
「嫌いっ」
怒りを込めて睨み付ける。自然と腰が上がり、唸る形になっていた。
それが気に入らなかった『賊1』は、視線を鋭くしてフェリシアに歩み寄ってくる。
「何だよ、チビ犬がっ。ガウガウうるせぇんだよっ。珍しい『色』だからって、お前なんか俺達にしたらただの商売道具だからなっ」
何故かフェリシアの言葉は伝わらなかったようで、『賊1』は鉄パイプを振り上げた。
フェリシアは現在、『犬』扱いされ、『珍しい色』だからと『商売道具』らしい。
それらからこの『賊1』は下っ端で、詳しい情報を知らないのだと推測された。
けれども状況は変わらず、『賊1』の振り下ろした鉄パイプが檻に──当たる直前、それは回避される。
「やめておけ」
そんな声に、耳を思い切り後ろに伏せて目を閉じていたフェリシアがハッと顔を上げた。
目の前には先程の馬のお尻。その向こうには倒れた『賊1』と、床に転がった鉄パイプが見える。
これは明らかに助けられた状態だ。恐らく、馬の頭頂部の角で跳ね上げられでもしたのだろう。
「ってぇ……。何だ、この魔獣っ」
「おい、何をやっている。商売道具に傷を付けてみろ?お前の首が胴体と『さよなら』すると思えよ?」
「はいっ、すみませんっ。大丈夫です、傷などは付けておりませんっ」
カッと顔を赤らめた『賊1』が再度鉄パイプを手にしたところで、今度は『壁』の向こう側から静かな制止が入った。
声音は落ち着いたものだが、それに含まれる悪意は強い。即座に謝罪した『賊1』の態度にも頷けた。
そしてやはりというか、本当に『商売道具』らしい。──つまりは売り物である。
フェリシアはもう、それだけで現状を理解してしまった。
「騒ぐなよっ」
捨て台詞的に言い放つと、『賊1』は『壁』から出ていく。
どうやら勝手に内部から脱出出来ないように、扉は壁になるようだ。
「……助けて頂いて、ありがとうございます。それに、色々と分かりました。場所は不明ですが、恐らく賊のあじと。そして売買される為、こうして拘束されているようですね」
「いや……。俺が説明するまでもなかったな」
状況はあまり芳しくないが、ともかく助けられた事実は礼に値する。フェリシアはいつの間にか地に付けていたお尻を上げ、深く頭を下げて感謝の意を表した。
対する馬は、ゆっくりと身体を反転させてフェリシアと視線を合わせる。
「では、本当に最後にもう一つだけ。貴方の名前を聞いても良いですか?あ、シアはフェリシアって言います」
「……魔獣属に他者から呼ばれる名前はないんだな、これが」
「それなら、好きに呼んでも良いですよね?だって、不便でしょ?」
「……何だ、その言い分は」
フェリシアの勝手な物言いにも怒る事なく、呆れたような対応の馬だ。
けれども拒絶はされなかった為、フェリシアは都合の良い解釈をする事にした。
「そうですね。……グーリフさんと呼ばせてもらいます」
「何だかなぁ。まぁ、勝手にしろよ。けど、敬称はいらねぇ」
「はいっ、グーリフ」
「……敬語も不可だ、痒くなってくる」
「ありがとう、グーリフ。シアの名前は……」
「はいはい、フェルだよな。うぉっ、何で泣く?!」
ニコニコと笑顔で好き勝手名付けたフェリシアだったが、馬──グーリフが自分を呼んだ事で涙腺が決壊する。
頭では『何故泣くんだ』とか、『獣型でも泣けるんだ』とか、関係のない事を思っていた。
──既に精神的にいっぱいいっぱいだったのである。
「ごめ……、何かもう……」
「はいはい、泣かないってのぉ」
ぐずぐずと泣き崩れるフェリシアの対処に困ったのか、グーリフは宥めながらも軽々と檻を角で破壊した。
それはまるでクッキーを崩すかのように、物悲しい音を立てて金属の檻が真っ二つになる。そして驚きで涙が止まったフェリシアに、スリスリと艶やかな顔が擦り付けられた。
「……な、何と言うか……。豪快だね、グーリフ」
「何がだ?」
フェリシアの呆れを含んだ驚きを事も無げに返され、改めてグーリフを見る。
そしてあんぐりと口を開けた。
≪名前……グーリフ
年齢……206歳
種別……魔核科魔獣属ツノウマ種
体力……+C
魔力……+D【風】
称号……【フェリシアの??】≫
何故か、初めにスキル【神の眼】を見た時よりもレベルアップしていたのである。
(何で?どうして?しかもシアの何??)
思わせ振りな【称号】も更に混乱を招いた。『名付けた』からなのか、『魔獣属』だからなのかは不明である。
けれども事実、目の前に掲示されていた。
「えっと……グーリフ?な、何か変わったところとか……、おかしいところとかはない?」
「ん?何が言いたいんだ、フェル」
「だ……だって名付けたら、グーリフのステータスが変わっちゃったんだもん!」
フェリシアは、もはやどうとでもなれとばかりに叫ぶ。
いや、自分の中で留めていられなくなったからだ。
「すて、す?何だ、それは」
しかしながらグーリフに単語が通じなかったようで、その場に腰を下ろされる。つまりは説明しろとばかりに、顔を寄せられた。
フェリシアはその行動に驚いたが、何しろ見上げるのにも首が痛くなってきたくらいである。
そこで座り込んだ事に対しては言及せず、ステータスの説明を始めた。
「つまりは他者……生き物に関わらず、相手の能力値が見えるという事かぁ。凄いな、フェル」
「え?いや、これは……」
「だが、他の誰にも告げない方が良い」
転生特殊プレゼントだと言おうとして、続けられたグーリフの言葉にフェリシアは息を呑む。
「今は子狼の形をしているけどさ、フェルはヒトだろ?そんな匂いがするしぃ」
「……匂いって、何か嫌……」
「まぁ、それはともかくだ。大概の奴は、そんな力なんて持ってない。つまりは恐怖な訳だな?」
「恐怖……?」
ゾクリとした感情と共に、フェリシアの全身の毛が逆立った。
「強いふりをしている奴。弱いふりをしている奴。思惑はそれぞれだが、自分を偽っている者は多い。ヒトだけじゃないけどな。……分かるか?それを暴かれる恐怖」
グーリフから問われ、コクコクと頭を上下に振る。
確かにグーリフに言われるまでもなく、自ら察するべきだった。まだ他の誰にも言ってないが、口にしてはダメだと思いもしなかったのである。
「まぁ?幸い俺の言葉は、ヒトには通じないし?誰にも教えてやる気なんてないし?」
「グーリフ……、ありがとう。そして、勝手に能力値を見てごめんなさい」
慰めるかのようなグーリフの言葉に、フェリシアは再び涙が込み上げてきた。
けれどもここで涙を流すのは違うと、必死に堪えながら感謝と謝罪を告げる。
「勝手に見えちまうんなら仕方ないさ。それにフェルに名前を貰って、やけに力が湧いたのも事実だからな。この黒い箱だって、壊せるって普通に思えたんだ。感謝を言うのは俺だ。ありがとう、フェル」
「うわぁ、照れる。顔が熱い……ってか、全身?」
「何だ、可愛いな」
「えっ、ちょっとやめてよぉ。恥ずかし……って、さっき思い切り叫んじゃった!」
どうやらフェリシアが名付けた影響は悪いものではなく、グーリフにとっては強化だったようだ。
彼から感謝され、無性に羞恥を覚えたフェリシアは、身体をくねらせてしまう。だが、不意に我に返って再び叫ぶフェリシア。
それに対し、自分の声に更に驚いてしまった。
「何だぁ?あまりにも俺が素敵で、見とれちまったってか?」
「あ、うん。違っ、えっと……はい」
楽しげな馬(?)にフェリシアは素直に応じてしまい、ハッと我に返ってから、丁寧語に直した。
スキル【神の眼】で見る限りでは、彼はかなり年上だからである。
「ふぅん?お前、チビの癖に、ちゃんと教育されてんなぁ」
「ほぇ?あ、いえ……ありがとうございます、親に感謝です」
突然誉められ、僅かに動揺しながらも礼を返すフェリシア。
この場合の親は、当たり前に『記憶』の両親だった。──今の親は昨日少し出会っただけだからである。
夕食時にもいなかったので、二人で仲良しこよししているのだろうと、マルコが言っていた。
「あの……、すみません。不躾ではありますが、幾つか質問しても良いですか?」
「ふん、何だ。暇だから聞いてはやるぞ」
フェリシアの問い掛けに対して、馬(?)は聞くだけはといった具合に返答してくる。
口調からして見下されているのは感じているフェリシアだが、今のところ情報収集に彼が最適と判断した。
「えっと……。まず初めに、ここは何処か知っていますか?」
「……他には?」
しかしながら、フェリシアの質問はすぐに流される。
答える気があるか不明だが、いちいち質疑応答するのは嫌なタイプなのかもしれないと、フェリシアは驚きを隠しながら推測した。
そして次の質問を促された為、逆に聞くだけ聞いてみようと開き直る。
「では次に、現在の状況です。我々以外にもたくさんの生物が拘束されているようですので、あまり良い結果ではないと推定されますが」
「……次」
続けた問い掛けもさらりと流されたが、二度目なのでさすがに予想していた。
この場所は生き物がたくさんいるからか、埃っぽくて臭い。あまり長居すると身体に臭いが移りそうだと思う。
四つ足の獣タイプである為、フェリシアはお尻を地に付けるようにして座り、彼を見上げていた。
その状態から、小首を傾げるようにして、これを最後にしようと続けて問う。
「ここ、臭くありません?」
「……ぶっはっはっはっは」
フェリシアが言い終わり、少しの間を開けてから爆笑された。
馬でも笑うのかと驚きつつも、初めて表情を崩せたと楽しくもなる。
けれども大きな体躯で脚を上下されれば、檻に入っているとは言えど、足元のフェリシアにとってはかなり危険だった。
「おいっ、うるせ~ぞっ!」
突然、怒鳴り声と共に入って来た人物──手に鉄パイプのような物を持っている、黒髪で頭頂部に黒い筒状の耳を持った男。
≪名前……ナッバー
年齢……25歳
種別……ヒト科獣属バク種
体力……E
魔力……E【土】≫
「うるせぇんだよ!ドタドタ暴れんなっての!」
苛立ちを隠す事なく、近くの柱を手にした棒で殴り付けている。そのガンガンと響く音に、周囲の檻から聞こえていた、それまでの騒ぎが消えた。
けれどもその名前に注視すれば、【賊】と表記されていた。明らかに『敵』である。
元より、脅しの為に棒切れを振るう事自体が、フェリシアの嫌う『嫌な奴』だ。
「嫌いっ」
怒りを込めて睨み付ける。自然と腰が上がり、唸る形になっていた。
それが気に入らなかった『賊1』は、視線を鋭くしてフェリシアに歩み寄ってくる。
「何だよ、チビ犬がっ。ガウガウうるせぇんだよっ。珍しい『色』だからって、お前なんか俺達にしたらただの商売道具だからなっ」
何故かフェリシアの言葉は伝わらなかったようで、『賊1』は鉄パイプを振り上げた。
フェリシアは現在、『犬』扱いされ、『珍しい色』だからと『商売道具』らしい。
それらからこの『賊1』は下っ端で、詳しい情報を知らないのだと推測された。
けれども状況は変わらず、『賊1』の振り下ろした鉄パイプが檻に──当たる直前、それは回避される。
「やめておけ」
そんな声に、耳を思い切り後ろに伏せて目を閉じていたフェリシアがハッと顔を上げた。
目の前には先程の馬のお尻。その向こうには倒れた『賊1』と、床に転がった鉄パイプが見える。
これは明らかに助けられた状態だ。恐らく、馬の頭頂部の角で跳ね上げられでもしたのだろう。
「ってぇ……。何だ、この魔獣っ」
「おい、何をやっている。商売道具に傷を付けてみろ?お前の首が胴体と『さよなら』すると思えよ?」
「はいっ、すみませんっ。大丈夫です、傷などは付けておりませんっ」
カッと顔を赤らめた『賊1』が再度鉄パイプを手にしたところで、今度は『壁』の向こう側から静かな制止が入った。
声音は落ち着いたものだが、それに含まれる悪意は強い。即座に謝罪した『賊1』の態度にも頷けた。
そしてやはりというか、本当に『商売道具』らしい。──つまりは売り物である。
フェリシアはもう、それだけで現状を理解してしまった。
「騒ぐなよっ」
捨て台詞的に言い放つと、『賊1』は『壁』から出ていく。
どうやら勝手に内部から脱出出来ないように、扉は壁になるようだ。
「……助けて頂いて、ありがとうございます。それに、色々と分かりました。場所は不明ですが、恐らく賊のあじと。そして売買される為、こうして拘束されているようですね」
「いや……。俺が説明するまでもなかったな」
状況はあまり芳しくないが、ともかく助けられた事実は礼に値する。フェリシアはいつの間にか地に付けていたお尻を上げ、深く頭を下げて感謝の意を表した。
対する馬は、ゆっくりと身体を反転させてフェリシアと視線を合わせる。
「では、本当に最後にもう一つだけ。貴方の名前を聞いても良いですか?あ、シアはフェリシアって言います」
「……魔獣属に他者から呼ばれる名前はないんだな、これが」
「それなら、好きに呼んでも良いですよね?だって、不便でしょ?」
「……何だ、その言い分は」
フェリシアの勝手な物言いにも怒る事なく、呆れたような対応の馬だ。
けれども拒絶はされなかった為、フェリシアは都合の良い解釈をする事にした。
「そうですね。……グーリフさんと呼ばせてもらいます」
「何だかなぁ。まぁ、勝手にしろよ。けど、敬称はいらねぇ」
「はいっ、グーリフ」
「……敬語も不可だ、痒くなってくる」
「ありがとう、グーリフ。シアの名前は……」
「はいはい、フェルだよな。うぉっ、何で泣く?!」
ニコニコと笑顔で好き勝手名付けたフェリシアだったが、馬──グーリフが自分を呼んだ事で涙腺が決壊する。
頭では『何故泣くんだ』とか、『獣型でも泣けるんだ』とか、関係のない事を思っていた。
──既に精神的にいっぱいいっぱいだったのである。
「ごめ……、何かもう……」
「はいはい、泣かないってのぉ」
ぐずぐずと泣き崩れるフェリシアの対処に困ったのか、グーリフは宥めながらも軽々と檻を角で破壊した。
それはまるでクッキーを崩すかのように、物悲しい音を立てて金属の檻が真っ二つになる。そして驚きで涙が止まったフェリシアに、スリスリと艶やかな顔が擦り付けられた。
「……な、何と言うか……。豪快だね、グーリフ」
「何がだ?」
フェリシアの呆れを含んだ驚きを事も無げに返され、改めてグーリフを見る。
そしてあんぐりと口を開けた。
≪名前……グーリフ
年齢……206歳
種別……魔核科魔獣属ツノウマ種
体力……+C
魔力……+D【風】
称号……【フェリシアの??】≫
何故か、初めにスキル【神の眼】を見た時よりもレベルアップしていたのである。
(何で?どうして?しかもシアの何??)
思わせ振りな【称号】も更に混乱を招いた。『名付けた』からなのか、『魔獣属』だからなのかは不明である。
けれども事実、目の前に掲示されていた。
「えっと……グーリフ?な、何か変わったところとか……、おかしいところとかはない?」
「ん?何が言いたいんだ、フェル」
「だ……だって名付けたら、グーリフのステータスが変わっちゃったんだもん!」
フェリシアは、もはやどうとでもなれとばかりに叫ぶ。
いや、自分の中で留めていられなくなったからだ。
「すて、す?何だ、それは」
しかしながらグーリフに単語が通じなかったようで、その場に腰を下ろされる。つまりは説明しろとばかりに、顔を寄せられた。
フェリシアはその行動に驚いたが、何しろ見上げるのにも首が痛くなってきたくらいである。
そこで座り込んだ事に対しては言及せず、ステータスの説明を始めた。
「つまりは他者……生き物に関わらず、相手の能力値が見えるという事かぁ。凄いな、フェル」
「え?いや、これは……」
「だが、他の誰にも告げない方が良い」
転生特殊プレゼントだと言おうとして、続けられたグーリフの言葉にフェリシアは息を呑む。
「今は子狼の形をしているけどさ、フェルはヒトだろ?そんな匂いがするしぃ」
「……匂いって、何か嫌……」
「まぁ、それはともかくだ。大概の奴は、そんな力なんて持ってない。つまりは恐怖な訳だな?」
「恐怖……?」
ゾクリとした感情と共に、フェリシアの全身の毛が逆立った。
「強いふりをしている奴。弱いふりをしている奴。思惑はそれぞれだが、自分を偽っている者は多い。ヒトだけじゃないけどな。……分かるか?それを暴かれる恐怖」
グーリフから問われ、コクコクと頭を上下に振る。
確かにグーリフに言われるまでもなく、自ら察するべきだった。まだ他の誰にも言ってないが、口にしてはダメだと思いもしなかったのである。
「まぁ?幸い俺の言葉は、ヒトには通じないし?誰にも教えてやる気なんてないし?」
「グーリフ……、ありがとう。そして、勝手に能力値を見てごめんなさい」
慰めるかのようなグーリフの言葉に、フェリシアは再び涙が込み上げてきた。
けれどもここで涙を流すのは違うと、必死に堪えながら感謝と謝罪を告げる。
「勝手に見えちまうんなら仕方ないさ。それにフェルに名前を貰って、やけに力が湧いたのも事実だからな。この黒い箱だって、壊せるって普通に思えたんだ。感謝を言うのは俺だ。ありがとう、フェル」
「うわぁ、照れる。顔が熱い……ってか、全身?」
「何だ、可愛いな」
「えっ、ちょっとやめてよぉ。恥ずかし……って、さっき思い切り叫んじゃった!」
どうやらフェリシアが名付けた影響は悪いものではなく、グーリフにとっては強化だったようだ。
彼から感謝され、無性に羞恥を覚えたフェリシアは、身体をくねらせてしまう。だが、不意に我に返って再び叫ぶフェリシア。
それに対し、自分の声に更に驚いてしまった。
0
お気に入りに追加
41
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!
マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。
今後ともよろしくお願いいたします!
トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕!
タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。
男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】
そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】
アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です!
コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】
*****************************
***毎日更新しています。よろしくお願いいたします。***
*****************************
マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。
見てください。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
貞操逆転世界に無職20歳男で転生したので自由に生きます!
やまいし
ファンタジー
自分が書きたいことを詰めこみました。掲示板あり
目覚めると20歳無職だった主人公。
転生したのは男女の貞操観念が逆転&男女比が1:100の可笑しな世界だった。
”好きなことをしよう”と思ったは良いものの無一文。
これではまともな生活ができない。
――そうだ!えちえち自撮りでお金を稼ごう!
こうして彼の転生生活が幕を開けた。
豪華地下室チートで異世界救済!〜僕の地下室がみんなの憩いの場になるまで〜
自来也
ファンタジー
カクヨム、なろうで150万PV達成!
理想の家の完成を目前に異世界に転移してしまったごく普通のサラリーマンの翔(しょう)。転移先で手にしたスキルは、なんと「地下室作成」!? 戦闘スキルでも、魔法の才能でもないただの「地下室作り」
これが翔の望んだ力だった。
スキルが成長するにつれて移動可能、豪華な浴室、ナイトプール、釣り堀、ゴーカート、ゲーセンなどなどあらゆる物の配置が可能に!?
ある時は瀕死の冒険者を助け、ある時は獣人を招待し、翔の理想の地下室はいつのまにか隠れた憩いの場になっていく。
※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる