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第四章
3.好きだ【2】
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「ん……っ」
近いとは思っていましたが、そのままキスされるとは思っていませんでした。
唇に触れるヴォルの──温かな唇の柔らかさに背筋がゾクッと粟立ちます。何度も唇を優しく甘く噛まれ、だんだん私は足に力が入らなくなりました。
「……っ」
「返事は……?」
膝から力が抜け、崩れ落ちそうになったところでヴォルに腰を支えられました。
そして唇を離れたヴォルが、また同じ問いを投げ掛けてきます。
「……す……き…………です……けど、……ダメ……なんです……」
私はもう頭の中が真っ白になっていました。何を喋っているのかも分かっていない感じです。
ただハクハクと短い呼吸をしながら、問われた内容に必死に言葉を綴りました。
「ヴォルを……好きに……っては……、ダメ……なんです……」
そう答えながら、物凄く苦しくなっている自分の心に気付きます。
もうずっと前から、自分に言い聞かせてきた事でした。好きになってはダメなのだと──自分の感情を自覚してからも思い続けてきた事です。
ボンヤリと開けた視界に、眉根を寄せたヴォルの顔が映ります。
「何故……」
「……ヴォルが私を必要とするのは……、私がヴォルに興味がないから……」
存在だけ──妻としての存在だけを必要とされている私なのです。
それは自分に言い聞かせてきた言葉でした。
「……もう良い……、もう良いんだ」
その苦しそうな声に、私は小首を傾げてしまいました。
何故そんなにも辛そうなのですか?
「何故……?」
「あれは……、忘れてくれ」
忘れる……って、何を?どういう意味ですか?
以前ベンダーツさんが、『ヴォルが辛い』と言われていた声がリフレーンされました。
「あの時は……本当に、全てが嫌になっていたんだ……」
私の腰から肩に手を移して身体を離すと、酷く反省するようにヴォルが顔を下げてしまいます。──あ、旋毛が見えますね。
「でも……、誰でも良かった訳じゃない……。あの時の……メルの笑顔に引かれた……。顔を隠していてもそうでなくても、メルは俺に態度を変えなかった」
「……お客様として、ですよね?」
「違う。……他の女は違うんだ。顔を見せたら急に態度が変わる……、初めは胡散臭そうにしてるのに。そして俺の素性を知ると、今度は嘘みたいに甘い声で話し掛けてくる。でも次に『精霊に好かれた者』と知ると……掌を返したように冷たくなる」
苦しそうな独白に、彼の今までの対人関係が垣間見る事が出来ました。──あぁ……、この人は。
私は力の抜けかけた両足を踏ん張りました。そして、目の前にあるヴォルの頭を抱き締めます。
「……メル?」
戸惑ったような、驚いたような声ですね。
頭を胸に抱いているので表情を伺う事は出来ませんが、私は自分の心が酷く温かくなってくるのを感じました。
「あの……、好きでいても良いのですか?」
嫌いになりませんか?不要に……なりませんか?
そんな思いを言葉にします。
「何を……」
「だからヴォルの事を、好きでいても良いのですか?」
意を決してはっきりと問い掛けました。──ん?返答がありませんね。
やっぱりダメなんじゃ……と思ったら、抱き締めている頭がコクリと縦に揺れました。
「……好きです、私も。……ヴォルの事が好きです」
良かったです。そんな思いのまま、自分の本当の気持ちを口にしました。そして抱き締めた頭に頬を寄せます。
もう……、自分の心を誤魔化さなくて良いのですね。
近いとは思っていましたが、そのままキスされるとは思っていませんでした。
唇に触れるヴォルの──温かな唇の柔らかさに背筋がゾクッと粟立ちます。何度も唇を優しく甘く噛まれ、だんだん私は足に力が入らなくなりました。
「……っ」
「返事は……?」
膝から力が抜け、崩れ落ちそうになったところでヴォルに腰を支えられました。
そして唇を離れたヴォルが、また同じ問いを投げ掛けてきます。
「……す……き…………です……けど、……ダメ……なんです……」
私はもう頭の中が真っ白になっていました。何を喋っているのかも分かっていない感じです。
ただハクハクと短い呼吸をしながら、問われた内容に必死に言葉を綴りました。
「ヴォルを……好きに……っては……、ダメ……なんです……」
そう答えながら、物凄く苦しくなっている自分の心に気付きます。
もうずっと前から、自分に言い聞かせてきた事でした。好きになってはダメなのだと──自分の感情を自覚してからも思い続けてきた事です。
ボンヤリと開けた視界に、眉根を寄せたヴォルの顔が映ります。
「何故……」
「……ヴォルが私を必要とするのは……、私がヴォルに興味がないから……」
存在だけ──妻としての存在だけを必要とされている私なのです。
それは自分に言い聞かせてきた言葉でした。
「……もう良い……、もう良いんだ」
その苦しそうな声に、私は小首を傾げてしまいました。
何故そんなにも辛そうなのですか?
「何故……?」
「あれは……、忘れてくれ」
忘れる……って、何を?どういう意味ですか?
以前ベンダーツさんが、『ヴォルが辛い』と言われていた声がリフレーンされました。
「あの時は……本当に、全てが嫌になっていたんだ……」
私の腰から肩に手を移して身体を離すと、酷く反省するようにヴォルが顔を下げてしまいます。──あ、旋毛が見えますね。
「でも……、誰でも良かった訳じゃない……。あの時の……メルの笑顔に引かれた……。顔を隠していてもそうでなくても、メルは俺に態度を変えなかった」
「……お客様として、ですよね?」
「違う。……他の女は違うんだ。顔を見せたら急に態度が変わる……、初めは胡散臭そうにしてるのに。そして俺の素性を知ると、今度は嘘みたいに甘い声で話し掛けてくる。でも次に『精霊に好かれた者』と知ると……掌を返したように冷たくなる」
苦しそうな独白に、彼の今までの対人関係が垣間見る事が出来ました。──あぁ……、この人は。
私は力の抜けかけた両足を踏ん張りました。そして、目の前にあるヴォルの頭を抱き締めます。
「……メル?」
戸惑ったような、驚いたような声ですね。
頭を胸に抱いているので表情を伺う事は出来ませんが、私は自分の心が酷く温かくなってくるのを感じました。
「あの……、好きでいても良いのですか?」
嫌いになりませんか?不要に……なりませんか?
そんな思いを言葉にします。
「何を……」
「だからヴォルの事を、好きでいても良いのですか?」
意を決してはっきりと問い掛けました。──ん?返答がありませんね。
やっぱりダメなんじゃ……と思ったら、抱き締めている頭がコクリと縦に揺れました。
「……好きです、私も。……ヴォルの事が好きです」
良かったです。そんな思いのまま、自分の本当の気持ちを口にしました。そして抱き締めた頭に頬を寄せます。
もう……、自分の心を誤魔化さなくて良いのですね。
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