161 / 515
第四章
2.どうすれば良い【3】
しおりを挟む
「お気付きではありませんでしたか?この半年、貴女は毎日様々な勉学に励んでいらっしゃいました。貴女を認めはじめている声もなくはないのです。ですが、知識だけではバツです。お心をしっかりとお持ちください」
片眼鏡をクイッと軽く持ち上げ、灰色の瞳を真っ直ぐ向けます。励まして……くれたのでしょうか。
ベンダーツさんってキツい言葉をぶつけてきますけど、案外優しい人ですか?もしかして毎回ヴォルに酷い言い方をするのも、何か理由があったりします?
「何ですか。そんなにやけた顔で見ても、私には気持ち悪いだけです」
嫌そうに目を細めるベンダーツさんでした。
し、失礼ですね。
「それはすみませんでしたっ」
少しムッとして言い返すと、僅かにベンダーツさんの表情が緩んだ気がしました。
私が視線を向けている時って、いつも難しそうな顔か冷たい感情の見えない顔なんですけどね。
「そのくらい強気でいきなさい。下位の者の言葉に耳を貸す事は悪くありませんが、それに左右されるのはなりません」
「分かりました」
ベンダーツさんは普段の冷たい顔に戻って言い放ちました。
本当に……素直に優しく出来ないのですかね、この人は。でも、確かにそうですね。周囲の言葉にいちいち凹んでたら、身体が持ちませんよ。
でも何だかベンダーツさんに言われっぱなしも癪なので、私は意趣返しとして開き直ります。
「ベンダーツさんは優しいんですね」
思い切りニッコリと告げます。──ベンダーツさんが硬直しました。
どうしたのですかね?言われ慣れていない言葉でしたか。
「あ……、貴女という方は……」
珍しく狼狽えていますが、少しは効果があったようです。けれども私が何かしましたかとばかりに、とりあえず首を傾げてみます。
「何でもありません。では、礼儀作法の復習から始めます」
するとベンダーツさんは、一度軽く咳をして片眼鏡に触れただけで元通りの態度で告げました。
あら、復活が早いですね。ベンダーツさんが片眼鏡を触る時は、いつもの冷静な自分になる為でしょうか。
そんなこんなであっという間に午前中が終わり、お昼を挟んで午後の勉強です。薬草の知識は私自身が欲しかったので、色々と見聞きするのはとても楽しいです。
「この薬草は何でしたか?」
「あ、消炎止血用ですよね?実際に生えているのを見るのは初めてですけど、使った事がありますし」
そうなのです。私は今、薬草専用農園に来ていました。今はベンダーツさんの指し示した薬草の名前や効能を当てていくクイズ形式の授業です。
本に書かれたものだけではなく、実際に見て触れていこうという方針のようです。
「でも、苦いんですよ」
「当たり前です。直接口にするものではありませんから」
私が味を思い出して表情に出せば、ベンダーツさんは少しだけ目を細めました。
アハハ……、口にしたのは私です。だって、擂り潰す物がなかったのですから。
「道具がなかったら、どうすれば良いのですか?」
「探しなさい」
私の質問に簡潔な答えでした。
あ~……はい、簡潔なお言葉ですね。
「とは言っても、清潔でなければ意味がありません。傷口に細菌が入れば、それこそ薬草では間に合わなくなります。その場合は、咀嚼しかないですかね。味はどうであれ、これは身体に害はありませんから」
ベンダーツさんの言葉を聞いてホッとしました。今更なのですけど、それ以外に考え付かなかった私ですから。確かに、口にしては良くない薬草もありますよね。
やはり、知識は大切です。あって困る事はないですよ、本当に。
片眼鏡をクイッと軽く持ち上げ、灰色の瞳を真っ直ぐ向けます。励まして……くれたのでしょうか。
ベンダーツさんってキツい言葉をぶつけてきますけど、案外優しい人ですか?もしかして毎回ヴォルに酷い言い方をするのも、何か理由があったりします?
「何ですか。そんなにやけた顔で見ても、私には気持ち悪いだけです」
嫌そうに目を細めるベンダーツさんでした。
し、失礼ですね。
「それはすみませんでしたっ」
少しムッとして言い返すと、僅かにベンダーツさんの表情が緩んだ気がしました。
私が視線を向けている時って、いつも難しそうな顔か冷たい感情の見えない顔なんですけどね。
「そのくらい強気でいきなさい。下位の者の言葉に耳を貸す事は悪くありませんが、それに左右されるのはなりません」
「分かりました」
ベンダーツさんは普段の冷たい顔に戻って言い放ちました。
本当に……素直に優しく出来ないのですかね、この人は。でも、確かにそうですね。周囲の言葉にいちいち凹んでたら、身体が持ちませんよ。
でも何だかベンダーツさんに言われっぱなしも癪なので、私は意趣返しとして開き直ります。
「ベンダーツさんは優しいんですね」
思い切りニッコリと告げます。──ベンダーツさんが硬直しました。
どうしたのですかね?言われ慣れていない言葉でしたか。
「あ……、貴女という方は……」
珍しく狼狽えていますが、少しは効果があったようです。けれども私が何かしましたかとばかりに、とりあえず首を傾げてみます。
「何でもありません。では、礼儀作法の復習から始めます」
するとベンダーツさんは、一度軽く咳をして片眼鏡に触れただけで元通りの態度で告げました。
あら、復活が早いですね。ベンダーツさんが片眼鏡を触る時は、いつもの冷静な自分になる為でしょうか。
そんなこんなであっという間に午前中が終わり、お昼を挟んで午後の勉強です。薬草の知識は私自身が欲しかったので、色々と見聞きするのはとても楽しいです。
「この薬草は何でしたか?」
「あ、消炎止血用ですよね?実際に生えているのを見るのは初めてですけど、使った事がありますし」
そうなのです。私は今、薬草専用農園に来ていました。今はベンダーツさんの指し示した薬草の名前や効能を当てていくクイズ形式の授業です。
本に書かれたものだけではなく、実際に見て触れていこうという方針のようです。
「でも、苦いんですよ」
「当たり前です。直接口にするものではありませんから」
私が味を思い出して表情に出せば、ベンダーツさんは少しだけ目を細めました。
アハハ……、口にしたのは私です。だって、擂り潰す物がなかったのですから。
「道具がなかったら、どうすれば良いのですか?」
「探しなさい」
私の質問に簡潔な答えでした。
あ~……はい、簡潔なお言葉ですね。
「とは言っても、清潔でなければ意味がありません。傷口に細菌が入れば、それこそ薬草では間に合わなくなります。その場合は、咀嚼しかないですかね。味はどうであれ、これは身体に害はありませんから」
ベンダーツさんの言葉を聞いてホッとしました。今更なのですけど、それ以外に考え付かなかった私ですから。確かに、口にしては良くない薬草もありますよね。
やはり、知識は大切です。あって困る事はないですよ、本当に。
0
お気に入りに追加
405
あなたにおすすめの小説
【完結】何故こうなったのでしょう? きれいな姉を押しのけブスな私が王子様の婚約者!!!
りまり
恋愛
きれいなお姉さまが最優先される実家で、ひっそりと別宅で生活していた。
食事も自分で用意しなければならないぐらい私は差別されていたのだ。
だから毎日アルバイトしてお金を稼いだ。
食べるものや着る物を買うために……パン屋さんで働かせてもらった。
パン屋さんは家の事情を知っていて、毎日余ったパンをくれたのでそれは感謝している。
そんな時お姉さまはこの国の第一王子さまに恋をしてしまった。
王子さまに自分を売り込むために、私は王子付きの侍女にされてしまったのだ。
そんなの自分でしろ!!!!!
旦那様の様子がおかしいのでそろそろ離婚を切り出されるみたいです。
バナナマヨネーズ
恋愛
とある王国の北部を治める公爵夫婦は、すべての領民に愛されていた。
しかし、公爵夫人である、ギネヴィアは、旦那様であるアルトラーディの様子がおかしいことに気が付く。
最近、旦那様の様子がおかしい気がする……。
わたしの顔を見て、何か言いたそうにするけれど、結局何も言わない旦那様。
旦那様と結婚して十年の月日が経過したわ。
当時、十歳になったばかりの幼い旦那様と、見た目十歳くらいのわたし。
とある事情で荒れ果てた北部を治めることとなった旦那様を支える為、結婚と同時に北部へ住処を移した。
それから十年。
なるほど、とうとうその時が来たのね。
大丈夫よ。旦那様。ちゃんと離婚してあげますから、安心してください。
一人の女性を心から愛する旦那様(超絶妻ラブ)と幼い旦那様を立派な紳士へと育て上げた一人の女性(合法ロリ)の二人が紡ぐ、勘違いから始まり、運命的な恋に気が付き、真実の愛に至るまでの物語。
全36話
誰にも言えないあなたへ
天海月
恋愛
子爵令嬢のクリスティーナは心に決めた思い人がいたが、彼が平民だという理由で結ばれることを諦め、彼女の事を見初めたという騎士で伯爵のマリオンと婚姻を結ぶ。
マリオンは家格も高いうえに、優しく美しい男であったが、常に他人と一線を引き、妻であるクリスティーナにさえ、どこか壁があるようだった。
年齢が離れている彼にとって自分は子供にしか見えないのかもしれない、と落ち込む彼女だったが・・・マリオンには誰にも言えない秘密があって・・・。
【完結】身を引いたつもりが逆効果でした
風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。
一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。
平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません!
というか、婚約者にされそうです!
皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる