「結婚しよう」

まひる

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第四章

2.どうすれば良い【3】

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「お気付きではありませんでしたか?この半年、貴女は毎日様々な勉学に励んでいらっしゃいました。貴女を認めはじめている声もなくはないのです。ですが、知識だけではバツです。お心をしっかりとお持ちください」

 片眼鏡モノクルをクイッと軽く持ち上げ、灰色の瞳を真っ直ぐ向けます。励まして……くれたのでしょうか。
 ベンダーツさんってキツい言葉をぶつけてきますけど、案外優しい人ですか?もしかして毎回ヴォルに酷い言い方をするのも、何か理由があったりします?

「何ですか。そんなにやけた顔で見ても、私には気持ち悪いだけです」

 嫌そうに目を細めるベンダーツさんでした。
 し、失礼ですね。

「それはすみませんでしたっ」

 少しムッとして言い返すと、わずかにベンダーツさんの表情が緩んだ気がしました。
 私が視線を向けている時って、いつも難しそうな顔か冷たい感情の見えない顔なんですけどね。

「そのくらい強気でいきなさい。下位の者の言葉に耳を貸す事は悪くありませんが、それに左右されるのはなりません」

「分かりました」

 ベンダーツさんは普段の冷たい顔に戻って言い放ちました。
 本当に……素直に優しく出来ないのですかね、この人は。でも、確かにそうですね。周囲の言葉にいちいち凹んでたら、身体が持ちませんよ。
 でも何だかベンダーツさんに言われっぱなしも癪なので、私は意趣返しとして開き直ります。

「ベンダーツさんは優しいんですね」

 思い切りニッコリと告げます。──ベンダーツさんが硬直しました。
 どうしたのですかね?言われ慣れていない言葉でしたか。

「あ……、貴女という方は……」

 珍しく狼狽うろたえていますが、少しは効果があったようです。けれども私が何かしましたかとばかりに、とりあえず首をかしげてみます。

「何でもありません。では、礼儀作法の復習から始めます」

 するとベンダーツさんは、一度軽く咳をして片眼鏡モノクルに触れただけで元通りの態度で告げました。
 あら、復活が早いですね。ベンダーツさんが片眼鏡モノクルを触る時は、いつもの冷静な自分になる為でしょうか。



 そんなこんなであっという間に午前中が終わり、お昼を挟んで午後の勉強です。薬草の知識は私自身が欲しかったので、色々と見聞きするのはとても楽しいです。

「この薬草は何でしたか?」

「あ、消炎止血用ですよね?実際に生えているのを見るのは初めてですけど、使った事がありますし」

 そうなのです。私は今、薬草専用農園に来ていました。今はベンダーツさんの指し示した薬草の名前や効能を当てていくクイズ形式の授業です。
 本に書かれたものだけではなく、実際に見て触れていこうという方針のようです。

「でも、苦いんですよ」

「当たり前です。直接口にするものではありませんから」

 私が味を思い出して表情に出せば、ベンダーツさんは少しだけ目を細めました。
 アハハ……、口にしたのは私です。だって、り潰す物がなかったのですから。

「道具がなかったら、どうすれば良いのですか?」

「探しなさい」

 私の質問に簡潔な答えでした。
 あ~……はい、簡潔なお言葉ですね。

「とは言っても、清潔でなければ意味がありません。傷口に細菌が入れば、それこそ薬草では間に合わなくなります。その場合は、咀嚼そしゃくしかないですかね。味はどうであれ、これは身体に害はありませんから」

 ベンダーツさんの言葉を聞いてホッとしました。今更なのですけど、それ以外に考え付かなかった私ですから。確かに、口にしては良くない薬草もありますよね。
 やはり、知識は大切です。あって困る事はないですよ、本当に。
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