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第三章
10.結婚しよう【2】
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婚儀の準備って、こんなに早く出来るものなのですか?私は混乱の直中にいました。
何故か目の前に広がるドレスの数に疲弊しながらも、私の意思とは違って賑やかに楽しむ侍女さん達を見やります。私、遠い所を見るような目になっていませんかね?
いつの間に用意されたのか分からないドレスの数々に、これ全てに袖を通すのは苦行だと言いたいです。そして招待客の一覧表を昨夜ヴォルが眺めていた事を思い出して、そっと溜め息を吐きました。
えぇ、当たり前のように今でも変わりなくヴォルと同室ですよ。もう誰も言わないのでしょうかね。
もしかしなくても私の意見とは関係なく、この婚儀は前々から準備されていたのでしょう。
──それはそうですよね。皇帝様との初めての挨拶から既に、私はヴォルの婚約者として登場したのですから。ましてや時間の掛かる婚儀の準備に早々に取り掛かるのは、考えるまでもなく当たり前と言った感じなのでしょう。
「どうだ、メル」
別室で御自分の衣装を選んでいたヴォルがやって来ました。実際には私の衣装との関連付けが大切なのですが、殿方の選択肢は非常に狭いのです。
私はというと、目の前の広がるドレスに呑まれそうな感じな訳でして。
「えっと……、たくさんありすぎまして……」
先程からあれもこれもと侍女さん達が勧めて下さるのですが、抜粋してもこれ程かといった数に着替える気力も沸かないのでした。
「着替えさせてやろうか」
「……はい?」
何か耳を疑う言葉が聞こえたような気がします。
驚いて見上げるとニヤリと聞こえそうな笑みを浮かべたヴォルがいて、こんな顔もするのかと違う感動をしてしまいました。──って言うか、何ですと?
「着てみなければ分からないだろう。だから、着替えさせてやろうと言った」
「ま、まさかヴォルにそんな言葉を投げ掛けられるとは思ってもみませんでした」
「嫌か?」
「嫌……では、ないですけど……」
「それならば問題ないだろ」
軽く仰いますが、最低でも時と場所を考えて下さい。問題大有りですって。ほら、他の侍女さん達が物凄く驚いています。無表情且つ無口でクールなキャラではないのですか?
──あ、私はヴォルに着替えさせてもらいたい訳ではないですからねっ?そんな事、今までもないですからねっ?
「み、皆さんが驚いています」
「構わない」
そう言いながら胸に抱き寄せられ、私は一人で慌ててしまいました。こうなっては、スキンシップが多いどころではないですよね。
他の人が見ていようがお構いなしに私に触れてくるので、こちら側としてはどの様な対応をしたら良いのか考えてしまうのです。恥ずかしがって良いのか、怒って良いのか──試されている気分にもなってしまいました。
「着て見せてくれ」
「は……い……」
抱き寄せられた状態からのヴォルの囁きです。瞬間、ゾワゾワと背筋を甘い痺れが走ります。
み、耳元で喋らないで下さいよ~。私、おかしいのでしょうか。それとも、単に耳が弱いとかですかね?だいたいそんなところ、人に触られた事なんてないですから分かりませんけど。
とにかく、ヴォルの勧めるドレスを着てみました。勿論、ヴォルには退室してもらっています。
──が、これはやたらと背中が開いていませんか?どうやって下着を隠せば良いのでしょうか。って言うか、今は丸見えなはずです。
羞恥のあまりすぐに脱ぐ事も出来ず、自分の姿を鏡越しに見て愕然としてしまいました。あまりにも恥ずかしい格好ですっ!
「着たか?」
「き、着ましたけど……ダメですっ!」
「何がだ。開けるぞ?」
ヴォルの問い掛けが聞こえましたが、私の準備は全く整っていませんでした。
そしてヴォルは中からの返答を待たずに、既に扉を開けていませんか?これでは着替える為に私が隣の部屋にいる意味がないではないですかっ。
何故か目の前に広がるドレスの数に疲弊しながらも、私の意思とは違って賑やかに楽しむ侍女さん達を見やります。私、遠い所を見るような目になっていませんかね?
いつの間に用意されたのか分からないドレスの数々に、これ全てに袖を通すのは苦行だと言いたいです。そして招待客の一覧表を昨夜ヴォルが眺めていた事を思い出して、そっと溜め息を吐きました。
えぇ、当たり前のように今でも変わりなくヴォルと同室ですよ。もう誰も言わないのでしょうかね。
もしかしなくても私の意見とは関係なく、この婚儀は前々から準備されていたのでしょう。
──それはそうですよね。皇帝様との初めての挨拶から既に、私はヴォルの婚約者として登場したのですから。ましてや時間の掛かる婚儀の準備に早々に取り掛かるのは、考えるまでもなく当たり前と言った感じなのでしょう。
「どうだ、メル」
別室で御自分の衣装を選んでいたヴォルがやって来ました。実際には私の衣装との関連付けが大切なのですが、殿方の選択肢は非常に狭いのです。
私はというと、目の前の広がるドレスに呑まれそうな感じな訳でして。
「えっと……、たくさんありすぎまして……」
先程からあれもこれもと侍女さん達が勧めて下さるのですが、抜粋してもこれ程かといった数に着替える気力も沸かないのでした。
「着替えさせてやろうか」
「……はい?」
何か耳を疑う言葉が聞こえたような気がします。
驚いて見上げるとニヤリと聞こえそうな笑みを浮かべたヴォルがいて、こんな顔もするのかと違う感動をしてしまいました。──って言うか、何ですと?
「着てみなければ分からないだろう。だから、着替えさせてやろうと言った」
「ま、まさかヴォルにそんな言葉を投げ掛けられるとは思ってもみませんでした」
「嫌か?」
「嫌……では、ないですけど……」
「それならば問題ないだろ」
軽く仰いますが、最低でも時と場所を考えて下さい。問題大有りですって。ほら、他の侍女さん達が物凄く驚いています。無表情且つ無口でクールなキャラではないのですか?
──あ、私はヴォルに着替えさせてもらいたい訳ではないですからねっ?そんな事、今までもないですからねっ?
「み、皆さんが驚いています」
「構わない」
そう言いながら胸に抱き寄せられ、私は一人で慌ててしまいました。こうなっては、スキンシップが多いどころではないですよね。
他の人が見ていようがお構いなしに私に触れてくるので、こちら側としてはどの様な対応をしたら良いのか考えてしまうのです。恥ずかしがって良いのか、怒って良いのか──試されている気分にもなってしまいました。
「着て見せてくれ」
「は……い……」
抱き寄せられた状態からのヴォルの囁きです。瞬間、ゾワゾワと背筋を甘い痺れが走ります。
み、耳元で喋らないで下さいよ~。私、おかしいのでしょうか。それとも、単に耳が弱いとかですかね?だいたいそんなところ、人に触られた事なんてないですから分かりませんけど。
とにかく、ヴォルの勧めるドレスを着てみました。勿論、ヴォルには退室してもらっています。
──が、これはやたらと背中が開いていませんか?どうやって下着を隠せば良いのでしょうか。って言うか、今は丸見えなはずです。
羞恥のあまりすぐに脱ぐ事も出来ず、自分の姿を鏡越しに見て愕然としてしまいました。あまりにも恥ずかしい格好ですっ!
「着たか?」
「き、着ましたけど……ダメですっ!」
「何がだ。開けるぞ?」
ヴォルの問い掛けが聞こえましたが、私の準備は全く整っていませんでした。
そしてヴォルは中からの返答を待たずに、既に扉を開けていませんか?これでは着替える為に私が隣の部屋にいる意味がないではないですかっ。
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