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第三章
8.誰も見ていない【3】
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そう、見た目はです。
容姿が整っている者同士、隣に並んでいる方が素敵なのは分かっていますから。
「失礼ですけど、ヴォルの何処をお気に召したのですか?」
私はゆっくりと立ち上がると、サーファさんの正面に立ちました。
そして気持ちをなるべく抑え、ベンダーツさん仕込みの感情を見せない笑みを張り付けたまま問い掛けます。
「そんなの、決まってるじゃない。容姿と肩書きよ。それ以外に何があるの?今決まっているどの貴族の縁談だって、ヴォルティ様より上に行くものはないわ。……だから、ねぇ?代わってよ、わたくしと」
「いいえ。ヴォルの周りの環境しか見ていないような貴女に、彼を渡せません」
彼女の今までの話から予想はついていましたが、想定されたままを口にされると頭にきます。
──あ……、失敗しました。私ってば穏便に済ませたいと思っているのに、感情から彼女の言葉に吹っ掛けてしまいましたよ。
「何言ってるのよ、貴女。環境が一番に決まっているでしょう?家や土地などの資産、名声、容姿。それ以外に何が見えるのかしら?性格や性癖なんて見えないじゃない。結婚して失敗したな、とか思っても遅いのよ。後は我慢して、お金だけ好きに使えるようにするしかないじゃない。貴族の婚姻に恋愛感情は挟めないのよっ。」
物凄く呆れた表情を浮かべながらも、幼子を諭すように己の結婚観を語ってくれました。
え…………。もしかしてサーファさん、好きな人がいるのですか?
偉そうに言っている彼女、何となく辛そうに見えますけど。
「何をしている」
突然横から声を掛けられました。えぇ、見なくても分かります。この静かな声はヴォルですね。
私は驚く事なく声の聞こえた側を見上げます。
「ヴォル」
「何故お前がここにいる」
私の呼び声に手を伸ばして頬を撫でつつ、鋭くサーファさんへ問い掛けます。
ヴォルは感情の見えない視線を向けていました。えっと……、怒っています──よね?
「あ……、その……お父様が……」
先日キツく注意をされたからか、サーファさんは目をさ迷わせて僅かに後退りました。
普段から無表情がデフォルトのヴォルですが、その目と声はかなり感情を宿しているのです。はい、はっきり言って怖いです。
「メルに近付くなと言った筈だが」
「あの……、ごめんなさい……。あの時は……」
「去れ」
「でも……あの……」
「二度言わす気か」
「……っ。すみませんでした……、失礼します」
ブリザード並みの言葉の応酬の後、サーファさんが真っ青な顔で頭を下げて立ち去っていきます。
おぉ~、彼女の言い分を少しも聞こうとしませんでした。怖すぎます。──でも。
「ヴォル?」
私はヴォルを見上げながら、小首を傾げました。違和感を感じたのです。
少しだけ彼の服の裾を掴んでみました。
「……すまない。一人にさせた」
「いえ、大丈夫です。お客様に呼ばれていたのでしょう?もう宜しいのですか?」
とても不安そうにヴォルの瞳が揺れています。
私に謝罪した彼ですが、遊んでいた訳ではありません。お客様の相手をしていたのを私は知っていますから。
だいたい、ここはパーティー会場です。休んで壁際にいる私の事を気に掛けている場合ではありません。三年ぶりにお城に戻ってきたヴォルの披露の場でもあるのですから。
「問題ない。俺の事など誰も見ていない」
フイッと視線を逸らすヴォルでした。
あ……、傷付いています?でもその気持ち、私もここに来て分かりました。誰もがヴォルを見ているようで、彼自身ではないバックグラウンドを追っていますから。
「……っ。どうした、メル」
思わず延び上がり──背伸びをしないと届かないので──、ヴォルの頬に触れてしまいました。一瞬だけ息を呑んだヴォルは、すぐにいつものように問い掛けてきます。
でもその瞳には、先程の不安も苛立ちも見えませんでした。はい、良かったです。
容姿が整っている者同士、隣に並んでいる方が素敵なのは分かっていますから。
「失礼ですけど、ヴォルの何処をお気に召したのですか?」
私はゆっくりと立ち上がると、サーファさんの正面に立ちました。
そして気持ちをなるべく抑え、ベンダーツさん仕込みの感情を見せない笑みを張り付けたまま問い掛けます。
「そんなの、決まってるじゃない。容姿と肩書きよ。それ以外に何があるの?今決まっているどの貴族の縁談だって、ヴォルティ様より上に行くものはないわ。……だから、ねぇ?代わってよ、わたくしと」
「いいえ。ヴォルの周りの環境しか見ていないような貴女に、彼を渡せません」
彼女の今までの話から予想はついていましたが、想定されたままを口にされると頭にきます。
──あ……、失敗しました。私ってば穏便に済ませたいと思っているのに、感情から彼女の言葉に吹っ掛けてしまいましたよ。
「何言ってるのよ、貴女。環境が一番に決まっているでしょう?家や土地などの資産、名声、容姿。それ以外に何が見えるのかしら?性格や性癖なんて見えないじゃない。結婚して失敗したな、とか思っても遅いのよ。後は我慢して、お金だけ好きに使えるようにするしかないじゃない。貴族の婚姻に恋愛感情は挟めないのよっ。」
物凄く呆れた表情を浮かべながらも、幼子を諭すように己の結婚観を語ってくれました。
え…………。もしかしてサーファさん、好きな人がいるのですか?
偉そうに言っている彼女、何となく辛そうに見えますけど。
「何をしている」
突然横から声を掛けられました。えぇ、見なくても分かります。この静かな声はヴォルですね。
私は驚く事なく声の聞こえた側を見上げます。
「ヴォル」
「何故お前がここにいる」
私の呼び声に手を伸ばして頬を撫でつつ、鋭くサーファさんへ問い掛けます。
ヴォルは感情の見えない視線を向けていました。えっと……、怒っています──よね?
「あ……、その……お父様が……」
先日キツく注意をされたからか、サーファさんは目をさ迷わせて僅かに後退りました。
普段から無表情がデフォルトのヴォルですが、その目と声はかなり感情を宿しているのです。はい、はっきり言って怖いです。
「メルに近付くなと言った筈だが」
「あの……、ごめんなさい……。あの時は……」
「去れ」
「でも……あの……」
「二度言わす気か」
「……っ。すみませんでした……、失礼します」
ブリザード並みの言葉の応酬の後、サーファさんが真っ青な顔で頭を下げて立ち去っていきます。
おぉ~、彼女の言い分を少しも聞こうとしませんでした。怖すぎます。──でも。
「ヴォル?」
私はヴォルを見上げながら、小首を傾げました。違和感を感じたのです。
少しだけ彼の服の裾を掴んでみました。
「……すまない。一人にさせた」
「いえ、大丈夫です。お客様に呼ばれていたのでしょう?もう宜しいのですか?」
とても不安そうにヴォルの瞳が揺れています。
私に謝罪した彼ですが、遊んでいた訳ではありません。お客様の相手をしていたのを私は知っていますから。
だいたい、ここはパーティー会場です。休んで壁際にいる私の事を気に掛けている場合ではありません。三年ぶりにお城に戻ってきたヴォルの披露の場でもあるのですから。
「問題ない。俺の事など誰も見ていない」
フイッと視線を逸らすヴォルでした。
あ……、傷付いています?でもその気持ち、私もここに来て分かりました。誰もがヴォルを見ているようで、彼自身ではないバックグラウンドを追っていますから。
「……っ。どうした、メル」
思わず延び上がり──背伸びをしないと届かないので──、ヴォルの頬に触れてしまいました。一瞬だけ息を呑んだヴォルは、すぐにいつものように問い掛けてきます。
でもその瞳には、先程の不安も苛立ちも見えませんでした。はい、良かったです。
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