「結婚しよう」

まひる

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第三章

6.いずれ知る事だ【2】

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「すまない。反論は勿論したのだが、アイツ以外に適任がいない事もあって無理だった」

 頭を撫でられながらも、ヴォルから告げられる言葉に諦めにも似た感情をいだいてしまいました。
 あ……、それでも反対をしてくれたのですよね。それは嬉しいです。どちらにしても私、このお城にヴォル以外の知り合いがいませんから。実際、誰であっても変わりがないのだと思います。
 あれだけ敵意がこもった視線を向けられたここに来た時の事を考えたら、誰でも同じなのだと諦めがつきますよ。

「反対してくれてありがとうございます、ヴォル。でも結局のところ、私自身が皆さんに認めてもらわないとならないのですよね。やってみます」

 精一杯の強がりで微笑んでみました。
 私、ヴォルに恩返しをしたいのです。あの村から連れ出して世界を見せてくれたのですから感謝していますもの。あ、勿論初めの手段は問題でしたけど。

「俺も出来るだけそばにいたいのだが……。不在時の仕事を三年分まとめて持ってこられた」

 言い渋るヴォルは、続けて苦々しく告げました。
 あぁ、ヴォルもしっかり嫌がらせをされているのではないですか。──しかも三年分って。

「皇帝様のご子息でも、執事さんがお仕事に口を出してくるのですか?」

「あれは俺の選んだ執事ではないからな。教育係であったから必然的に近くにいただけだが、次期皇帝にしようとあれこれ手を回してくる。こんな事なら俺に都合の良い人間を選任しておくべきだった」

 不思議に思った問い掛けも、溜め息をくように諦めをにじませつつ答えてくれました。
 何やら、ヴォルの方も大変なようです。それでも私を気を遣ってくれるなんて、本当にヴォルは優しいですね。

「ヴォルも大変なのですね。大丈夫です。私、やれるだけやってみます」

 両方の拳を掲げ、根拠のないやる気だけはみせました。
 礼儀作法や勉強なんてもの、マスター出来る自信は全くないですけど。

「だが、無理はするな」

「分かりました」

 今度は頬を撫でるように指先を伸ばされました。非常に照れますが、心配させているのかもしれません。
 そうかといってこれ以上ヴォルの負担になりたくないですし、私が出来る事をしなくてはならないと思います。とって食われる訳ではないでしょうから、魔物より安心──は出来ませんね。船旅の時の事を思い出して少しウンザリました。

「えっと、いつから始めるのですか?」

「明日だ」

 答えつつも、何やら顎に手を当てるヴォルでした。

「……精霊一人の加護で足りるだろうか」

 ともあれ明日って……、はい?何か言いましたか?呟かれた言葉を聞き取る事が出来ませんでしたが、考え込んでいるヴォルに話し掛けるのは良くないですよね。

 それよりも明日からです。私はまた、片眼鏡モノクルの刺々しい雰囲気に触れなくてはならないのですよ。戦々恐々です。
 あの人、何を考えているのか分からなくて怖いのです。まぁ、ヴォルも初めはそうだったかもですけど。

 あ……基本的に私、男性に免疫がないからなのかもしれないです。食事処に来るお客様はあくまでお客様でしたし、同じ仕事場の人達もそれ以上の接点を持ちませんでした。

 何だ、私もヴォルとたいして変わらないです。今まで人との深い接触を拒んで来たのですから、異性に対して拒絶反応を起こしてもやむを得ないのですよね。
 えぇ、自己弁護ですが。
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