「結婚しよう」

まひる

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第三章

5.危険、か【5】

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「探しに……行くのですか?」

「行きたい。が、許可を得るのが大変だな」

 少しだけウンザリとした様子のヴォルです。
 許可?…………あ、そうでした。ヴォルは皇帝様のご子息でしたよ。一般人のように、そう易々とお城から出ていく事なんて出来ないかもです。
 いえ──出会いが出会いだったので、すっかり抜けていました。

「そうなんですか……」

「今はそれよりメルの事だ」

 とても真っ直ぐ見つめられます。
 はい?……何故、私の事なのでしょう。あ、皇帝様とお二人で何かお話をされていましたね。そ、そこで何かあったのですか?もしかしてダメ出しとか……うぅっ。

「婚儀までに色々と学ばなくてはならない」

 ですが続けられたヴォルの話は、私の思ったものと異なりました。

「…………学ぶ?勉強、ですか?あ、あの……自慢ではありませんが、あまり頭は良くないのですけど」

「国の歴史の事もあるだろうが、それよりも礼儀作法だ。……俺はどちらでも良いのだが、ベンダーツがうるさい」

 ヴォルがわずかに目を細めます。これ、不機嫌アピールですよね。
 それにしても礼儀作法って。自慢ではありませんが私、そんなものを習った事は勿論ありません。お箸とナイフ、フォークくらいは持てますけど。

「皇帝との話では、婚儀の時に大きな失態がなれけば問題ないと言う事だ」

 さらりと皇帝様との話の内容が明かされました。
 しかしながら、大きな失態って。──無理です、無理無理っ。あぁ、もうっ!私にそんな立派なものを求めないで下さいよっ。
 私は一人で青くなったり赤くなったりしていました。

「俺も協力する」

「あの……、大きな失態って……?…………あぁ、良いです。き、聞いたらしてそれをしてしまいそうです。ですがちょっと……いえ、かなり怖いです」

 向かい合わせに座ったままですが、力強く宣言してくれるヴォルにしがみついてしまいました。
 もう既に弱気な私です。だってそうでしょう?普通の小さな──いえ、ここでっても仕方がありません。な農村の生まれの私ですよ。誰も礼儀作法なんて気にしていないような、そんな村なんですよっ。

「俺は今のままのメルが良い」

 上目遣いに見上げる形になるのは、立っていても座っていても──身長差が半端無いですから──同じなのですが。ヴォルから真っ直ぐ視線を向けられ、さらに優しく頭を撫でられました。
 ……ま、またこの人は。だから何故、そう言う事をサラッと言ったりするのでしょうか。本っ当に心臓に悪いです。

「ヴォルは普段からそう言う事、女性に言ったりするのですか?」

「そう言う事とは何だ」

「ですから、今のままが良いとか……必要だとかです」

 何故だか私は少しモヤモヤしてしまい、ヴォルに思った事を問い掛けてしまいます。それに伴い寄り添っていた身体が離れ、再び私達は向かい合って座っている形になりました。私の手は自然とドレスのスカートを握り締めます。
 自分で言っていて恥ずかしくなりましたが、聞かないではいられませんでした。

「……記憶にない」

 ですがヴォルの反応は鈍く、小首をかしげそうなくらいです。
 な、何ですと?何処かのお偉いさんですかっ──と叫びたくなりましたが。

「女はけてきた。同意もなく付きまとうし、勝手に裸で寝室へ忍び込むし……」

 思い出したのか、突然苦い顔をされました。何があったのでしょう。聞かされた内容も凄まじかったのですが、それ以上にまだ何かあるのですか。

「一度、何処かの伯爵家が男を送り込んできた事もあった」

「はいっ?!」

 さらに嫌そうに眉間にシワを寄せて告げられた言葉は、私の予想を遥かに越えていました。
 男性ですと?まさか、ヴォルの事を女性だと思われたとかですか?いえいえ、そんな訳はないですよねっ。

「思い切り叩きのめして追い出してやった」

「は、はぁ……」

「女になびかないからか、男色家だと思われたようだ。……寝室に入ったら裸の男がいてみろ。さすがにキレた」

 プイッと顔をそむけるヴォル。
 ですが彼が怒ったら凄そうです。お相手の方、無事だったのでしょうか。いいえ、聞きませんよ。はい、私は空気の読める子です。
 でも地位などこだわる方々は多そうなので、ヴォルを伴侶にしたい方はそれは必死なのでしょうね。
 色々驚いたので、先程感じた私の変なモヤモヤは何処かにいってしまいました。
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