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第三章
≪Ⅴ≫危険、か【1】
しおりを挟む「危険、か。俺も良く言われた」
「えっ?」
小さな呟きでしたが、ハッキリと聞こえましたよ?ヴォルが危険だなんて、誰が言ったのですか。私の驚きを見てか、ヴォルが渋々といった感じで口を開きます。
「精霊に好かれた人間ってのは、存外精神不安定者が多い。しかも俺の場合、精霊の数が尋常ではないからな。……恐れられていた」
「でも私は、ヴォルが優しい事を知っています」
対面して座っているのですが、ヴォルの表情が良く見えました。パッと見はいつもと変わらない無表情なのですが、私にはとても固く映ったのです。だから即座に怖くないと伝えました。
今までヴォルと旅をしてきて、ずっと隣で見てきましたから。誰が何を言おうと、とても温かい優しい人です。
「優しい?」
「はい、ヴォルは優しいです。何も出来ない私ですが、ヴォルは色々な事をしてくれます。助けてくれます。守ってくれます。温かいです。どうして怖いと言うのでしょうか」
訝しげな視線を向けられても、私の考えは変わりません。断言してしまいます。
他の人がヴォルの何を見て怖いと言うのか、私には全く理解出来ませんでした。
「俺は……、優しくない」
「そうなのですか?」
首を傾げた私に、ヴォルは少しだけ困った顔をしました。
「メルにだけだ」
そして告げられた言葉。
はい?──この人は、どうしてこうも私の心を掻き乱すのでしょう。自分の言葉が、相手にどう伝わるのか分かって言っているのですかね。だいたい、私にだけ優しいなんて有り得ません。
「ヴォルは、他の人との関わりがないのですか?」
「……そうだな。他の奴等は俺を遠巻きに見るだけだ。この城の中で俺の傍にいたのは、ベンダーツとガルシアだけだ」
「片眼鏡は怖いです。私に怒っているみたいですし。でも、ガルシアさんは優しいです。お母さんみたいです」
普通に片眼鏡と言いましたが、私の中での呼び名は変わりません。ヴォルも訂正しませんでしたし。
「ベンダーツは皇帝からの命で俺の見張りをしているだけだ」
そうして淡々と私の問いに答えてくれるヴォルです。
でもそれ、前にも聞きました。実際に今日皇帝様をみて、ヴォルの事を避けている様子は見られなかったのですけど。──いえ、緊張して観察しか出来ませんでした。
「ヴォルは、皇帝様の事が好きではないのですか?」
「好き嫌いの問題ではない」
「どうしてです?お父様なのですよね?」
「そうだが」
「ヴォルは少し固いです。事実だけではなくて、感情も結果に含まれるのではないですか?魔力が強くて、精霊さんに好かれて。でも精霊さんを周りの人が怖がるから、ヴォルは一人でいる事が多くなって。一人でいる事が多いから、少し人が苦手で」
今までに聞いた情報を並べます。でも、段々自分でも何を言っているのか分からなくなってきました。あ、あれ?
「え、えっと……だからですね。ヴォルは良い人だって事なんで、自分の事を酷く言うのは良くないです」
「……メルは不思議だ。何故、そうも俺を真っ直ぐに見る。強制的にこんな所に連れて来たのは俺だ。憎んでも間違いではない」
混乱してきた私に、少しだけ困ったような、でも呆れたような複雑な声音が返ってきました。
ごめんなさい。あ、そこの所は確かに──って思います。でも私は単純ですから、今は全くヴォルに悪感情を抱いていません。むしろ、少しでもヴォルの助けになりたいと思っていますよ。
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