「結婚しよう」

まひる

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第三章

4.俺の精霊を一人つけた【4】

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 コンコン。
 強めのノックの音が響きました。私はまだ後ろから伸ばされたヴォルの腕に抱かれているままです。ワタワタと慌てますが、ヴォルは全く力を緩めてくれません。
 あの~、人に見られるのはかなり恥ずかしいのですけれど?

「気にするな。どうした」

 前半は私に小声で、後半は扉の向こう側に向かってヴォルの声が放たれました。だから、気にするなって言うのは無理なんですって。

「ガルシアでございます。サーファの事で……」

「入れ」

 ヴォルはガルシアさんの話の途中で告げました。彼女の言いたい事が分かっているからなのでしょうか。

「失礼致しますヴォルティ様、メルシャ様。先程はサーファがお心をわずらわせたようで、申し訳ございませんでした」

 深々と頭を下げるガルシアさんですが、サーファさんは大丈夫だったのでしょうか。それに、ガルシアさんが謝罪するのもおかしい気がします。

「どうせ一人でキレているのだろう。放っておけ。それと、二度とメルに近付けさせるな」

「それは……申し訳ございませんが、出来かねます」

「ベンダーツの指示か」

「……はい」

「アイツ……。文句があるなら俺のところへ来いと言っておけ」

「ですが……」

「以上だ」

 まだ納得いかない様子のガルシアさんでしたが、ヴォルはそれ以上の言葉を打ち切ってしまいました。しかも何故か片眼鏡モノクルの名前が出ていた気がします。あの人は私が視界に入っていなくても、嫌がらせに余念がないのですかね?
 ガルシアさんは渋々ながらも頭を深く下げた後、退室していきます。大変でしょうが、彼女も立場上引き受けざるを得ない事があるのだと思いました。
 そして何かヴォル、偉そうですね。いえ、初めて会った時もそうでした。とても横暴な人だと思ったのですよ。そう言えば今はそうでもないですね。……私、彼の強引さに慣れたのでしょうか。

「どうした、メル」

 呼び掛けられて顔を上げると、先程とは違って私の知っているいつものヴォルでした。
 いつの間にか私の正面にいて──身体を回転されても気付かない私ってどうなのでしょうか──、不思議そうに小首をかしげています。でもこれ、最近良く見ますね。瞳だけではなく、ジェスチャーで感情を表現しているようです。

「大丈夫です、少し考え事をしていただけです。……あの、ヴォル。この魔力の液体は誰にでも作れるのですか?」

「……そうでもないようだ」

 私から視線を外したヴォルは、精霊さんの一人に意識を向けていました。え?精霊さんに聞いてくれたのですか?

「ヴォルは、精霊さんとお話が出来るのですよね?私には聞こえませんが」

「そうか、聞こえないのか」

「凄いです。ヴォルは色々な事が出来るのですね」

 この部屋で今は精霊さんを見る事が出来ますが、恐らく限定条件があるのでしょう。普段から見えるヴォルと違い、私の耳に精霊さんの声は届きませんでした。

 ヴォルは剣も魔法も強く、血筋も見目も素晴らしい。しかもたくさんの精霊さんにも好かれてるなんて、本当に私にとって雲の上の存在です。皆が彼に好かれようとするの、当たり前ですよね。
 私は自分に不釣り合い過ぎて、逆に畏縮してしまいますけど。本当に……、何で私なのでしょう。
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