118 / 515
第三章
≪Ⅳ≫俺の精霊を一人つけた【1】
しおりを挟む「あ、あのっ?」
一人でワタワタしてしまいます。それに気付いたのか、ヴォルは漸く私を抱き締める力を緩めてくれました。
「護符代わりだ」
「え?」
「……やはり簡単にはいかないな」
何故だか少し難しい表情をしているヴォルです。
何がですかね、意味が分かりません。ヴォルだけ分かっている事があり過ぎますね、色々と。今回のそれは私に本当に関係ない事ですか?
でも気になる事はとりあえず聞いておきましょう。聞かないと教えてもらえませんし。……いえ、教えてくれない事も多々ありますけどね。
「護符って何ですか?」
「俺の精霊を一人つけた」
事も無げに私の問いに答えてくれます。
……ん?何だかサラリと凄い事を言われましたね。精霊って、そんな風に簡単に取ったりつけたり出来る存在なのですか?
「精霊さん、嫌って言ってないですか?」
そんな私の問いに、ヴォルは少しだけ瞳を開きました。あれ?私、おかしな事を聞きました?
「問題ない。……そんなメルだからな」
フッと柔らかく瞳が細められました。
な、何ですか?それって、私に呆れてしまった訳ではないですよね?まぁ……自慢ではないですが、頭は良くないです。知られてますって?
首を傾げる私に、ヴォルは優しく頭を撫でてくれました。子供扱い……なんでしょうか。
「ところでこの後、私はどうすれば良いのですか?」
「変わらない。メルはメルのしたいようにすれば良い」
ガルシアさんに聞きましたが、ヴォルにも問い掛けてみました。
ですがしたいようにって言われましても、それすら分からないのですけれど。
「ヴォルはどうするのですか?」
「俺は研究に戻る」
「研究?」
「…………そうだ。俺は精霊と魔力の研究をしている」
初めて聞きました。いえ、初めて答えてくれたというべきでしょうか。
ヴォルがセントラルでしていた仕事は、研究なのですね。って言うか、『精霊』と『魔力』の?
「難しそうですね」
「好きでしている。俺は皇帝にはなりたくないからな」
私には分からない分野なので、思わず渋い顔をしてしまいました。でもそれに対してヴォルは淡々と答えます。
ん?次期皇帝って、選べるのですか?
「メルはどう思う」
「えっと……、何がですか?」
「俺が……皇帝の息子だと聞いても変わらないだろ」
「まぁ……、ヴォルはヴォルですし」
誰が父親であっても変わらないです。例え悪い人が両親であったとしても、ヴォルはヴォルです。親や環境は人格を形成する時に関係はしますが、全てを統べる訳ではありません。
それにしても。向き合っているので、ヴォルの細かな表情の変化が分かります。今は少し困ったようなお顔ですね。
「……メルだから、か」
はい?何か貶された気がしますが、そう思って見上げたヴォルは意外なくらい穏やかな瞳でした。
誉められた──のですかね?まぁ、先程私も似たような事を言いましたし。お互い様でしょう。
「それより、私も研究を手伝いたいです」
「研究を?」
「はい。あ、実際にはお役に立てるか分からないですけど」
話を戻すように、先程の問い掛けを再度繰り返しました。
そうです。当たり前ですが、お仕事の邪魔をしてはいけません。そんな私の言葉に、ヴォルは暫く考える素振りをします。
「分かった」
ですが、考えていたのは本当に僅かな時間でした。首肯され、逆に驚いてしまいます。
えっと……、本当に良いのですか?断られるかもしれないと思っていましたので、了承して頂けたのが凄く驚きでした。
「ありがとうございますっ」
「近くにいた方が良いだろう」
何故か一瞬、ヴォルの表情に笑みが浮かびます
えっ?今、何か言いましたか?小首を傾げた私に、ヴォルはポンポンと軽く頭を撫でるだけでした。
彼の思惑は分かりませんが、とにかくこれで私のやる事が出来ましたね。
0
お気に入りに追加
409
あなたにおすすめの小説
悪妃になんて、ならなきゃよかった
よつば猫
恋愛
表紙のめちゃくちゃ素敵なイラストは、二ノ前ト月先生からいただきました✨🙏✨
恋人と引き裂かれたため、悪妃になって離婚を狙っていたヴィオラだったが、王太子の溺愛で徐々に……
誰にも言えないあなたへ
天海月
恋愛
子爵令嬢のクリスティーナは心に決めた思い人がいたが、彼が平民だという理由で結ばれることを諦め、彼女の事を見初めたという騎士で伯爵のマリオンと婚姻を結ぶ。
マリオンは家格も高いうえに、優しく美しい男であったが、常に他人と一線を引き、妻であるクリスティーナにさえ、どこか壁があるようだった。
年齢が離れている彼にとって自分は子供にしか見えないのかもしれない、と落ち込む彼女だったが・・・マリオンには誰にも言えない秘密があって・・・。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
王宮勤めにも色々ありまして
あとさん♪
恋愛
スカーレット・フォン・ファルケは王太子の婚約者の専属護衛の近衛騎士だ。
そんな彼女の元婚約者が、園遊会で見知らぬ女性に絡んでる·····?
おいおい、と思っていたら彼女の護衛対象である公爵令嬢が自らあの馬鹿野郎に近づいて·····
危険です!私の後ろに!
·····あ、あれぇ?
※シャティエル王国シリーズ2作目!
※拙作『相互理解は難しい(略)』の2人が出ます。
※小説家になろうにも投稿しております。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
新しい人生を貴方と
緑谷めい
恋愛
私は公爵家令嬢ジェンマ・アマート。17歳。
突然、マリウス王太子殿下との婚約が白紙になった。あちらから婚約解消の申し入れをされたのだ。理由は王太子殿下にリリアという想い人ができたこと。
2ヵ月後、父は私に縁談を持って来た。お相手は有能なイケメン財務大臣コルトー侯爵。ただし、私より13歳年上で婚姻歴があり8歳の息子もいるという。
* 主人公は寛容です。王太子殿下に仕返しを考えたりはしません。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】夫が私に魅了魔法をかけていたらしい
綺咲 潔
恋愛
公爵令嬢のエリーゼと公爵のラディリアスは2年前に結婚して以降、まるで絵に描いたように幸せな結婚生活を送っている。
そのはずなのだが……最近、何だかラディリアスの様子がおかしい。
気になったエリーゼがその原因を探ってみると、そこには女の影が――?
そんな折、エリーゼはラディリアスに呼び出され、思いもよらぬ告白をされる。
「君が僕を好いてくれているのは、魅了魔法の効果だ。つまり……本当の君は僕のことを好きじゃない」
私が夫を愛するこの気持ちは偽り?
それとも……。
*全17話で完結予定。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
はずれのわたしで、ごめんなさい。
ふまさ
恋愛
姉のベティは、学園でも有名になるほど綺麗で聡明な当たりのマイヤー伯爵令嬢。妹のアリシアは、ガリで陰気なはずれのマイヤー伯爵令嬢。そう学園のみなが陰であだ名していることは、アリシアも承知していた。傷付きはするが、もう慣れた。いちいち泣いてもいられない。
婚約者のマイクも、アリシアのことを幽霊のようだの暗いだのと陰口をたたいている。マイクは伯爵家の令息だが、家は没落の危機だと聞く。嫁の貰い手がないと家の名に傷がつくという理由で、アリシアの父親は持参金を多めに出すという条件でマイクとの婚約を成立させた。いわば政略結婚だ。
こんなわたしと結婚なんて、気の毒に。と、逆にマイクに同情するアリシア。
そんな諦めにも似たアリシアの日常を壊し、救ってくれたのは──。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる