「結婚しよう」

まひる

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第三章

3.抜け出してきた【3】

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「私、掃除とか洗濯とか出来ますけど……」

「とんでもないですっ。メルシャ様にその様な事をして頂く訳には参りません」

 数少ない出来るだろう仕事を告げましたが勢い良く否定され、逆に私は驚いてしまいました。もしかして既に私が不器用な事、知っているのですかね。

「その綺麗なお肌に傷でもつけたなら、ヴォルティ様に合わせる顔がありませんっ」

 ……と思ったら、全くとんでもない考え違いをしているようです。だいたい、ヴォルと私はその様な関係ではないのですけど。

「えっと……」

 どう説明しようか困ってしまいます。言葉に詰まった私に、ガルシアさんはにっこりしたまま待機しています。
 でも、ヴォルとのあの話をそのままする訳にもいかないですよね。だってただ結婚式を挙げるだけだなんて、この人は納得してくれそうにもありません。

「それにしても初め、ヴォルティ様が旅をされると聞いた時は驚きました。しかも供をつけずにお一人でだなんて、皇帝様も何故お認めになられたのかと思いました」

 私が話さない事が分かったのか、ガルシアさんは別の会話を始めます。
 あ、そうでした。皇帝様のご子息なら、わざわざ危険をおかしてまで一人旅だなんてする必要がないです。ヴォルは外の世界が見たかったとか言っていましたが、腕に自信がなければ考えもしない事なのではないでしょうか。まぁ、実際彼は強いのですけど。

「目的が結婚相手を捜すだなんて、私はこのままもう二度とお会い出来ないかもしれないと毎日を嘆いておりました。三年も放任するなど、皇帝様の正気を疑いましたよ。逆にそのまま放逐ほうちくされてしまうのではないかと気が気でありませんでしたから。ヴォルティ様が言い出したら聞かないお方なのは百も承知でしたが、それでも他に何とかしようがあったのではと一人で鬱々としておりました」

 何故か熱く語られています。けれど、それ程ヴォルの事を大切に思っていてくれたという事なのでしょう。何だか今まで見てきたヴォルとは違って、皇帝様のご子息であるって事が酷く距離を感じさせました。

 そしてそんな熱いガルシアさんの話を聞いていると、静かに扉を叩かれました。ガルシアさんがすぐに対応に動き、私は密かに息を吐きます。ヴォルの事を知れば知る程、自分との違いをまざまざと見せつけられる感じでした。

「メルシャ様。お部屋の用意が整いましてございます」

「あ、はい」

 どうやら別の侍女さんの知らせが入ったようで、この部屋から移動するとの事です。客室ここに居座っても仕方ないですし、素直に案内される事にしました。
 それにしてもヴォル、遅いですね。お説教が長引いているのでしょうか。あ……、そうですよね。もうここはヴォルの生家でもあるのです。今までのように、いつも私のそばにいる事はないのですよね。もう旅は終わったのですから。魔物の姿もないのですから。……セントラル、なのですから。
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