「結婚しよう」

まひる

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第二章

5.俺と一緒なら【3】

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 分かったって、どういう事なのでしょう。でもそれ以上何も言われる事なく、食事が終了しました。追求が終わったのと、ご飯が美味しかった事で私は満足ですよ。そして来た時と同じ様に二人で部屋に帰ります。そう言えば宿の人達、ヴォルと私を見てニヤニヤ笑みを浮かべているのはどうしてでしょう。

「もう一度ギルドに行って、その後出発する。メルは荷物を片付けておけ」

「はい。あ、あの……」

「どうした、メル」

 出て行こうとしたヴォルを引き留めてしまいました。先程の人達の視線と笑みが気になって仕方がないのです。

「あの、ヴォルに聞く事ではないかもしれませんが……。先程食事処にいた方々は、何故私達を見て笑っていたのでしょうか」

 一人になると、また悶々と考え込んでしまいそうなので。ですがヴォルは少しだけ視線を揺らしました。え?何か、聞いてはいけない事でしたか?

「気にするな。行ってくる、メル」

「あ、はい。行ってらっしゃい、ヴォル」

 結局教えてもらえませんでした。気にするな?何でしょう。あの言い方だと、ヴォルは知っているのですよね。もう、私だけがけ者じゃないですか。プンプン。なんて怒ったところで、何も変わらないのですけどね。さぁ、出発の準備をしましょう。気を取り直した私は、散らかった机の上を片付けるのでした。



 階段を降り切った俺は振り返る。部屋に残してきたメルが気になるが、片付けをするように言ったから問題はないだろう。それよりもあの質問には参った。

「答えられるか」

 思わず出した言葉に、片手で口元を押さえ付ける事で誤魔化す。メルの首筋に残る紅い華。昨夜寝入ったメルに俺が付けた。何故あんな事をしたのだろう。あれでは、所有の『シルシ』みたいではないか。

 俺は自分の行動に疑問を抱きながらも、それを表情に出す事なくギルドに向かう。報酬を受け取って早く町を出れば良いだけの事だ。



「う~ん、ようやく片付きました。って言うか、短期間のうちに散らかしすぎですよ」

 あ、勿論散らかしたのは私ですけど。色々考え事をしながら記録を書き記していたのもありますが、滞在が長くなると物を出したままにしてしまう癖があるようです。知りませんでした。気を付けなくてはなりません。まぁいつもは野宿なので、そんな心配ないのですが。

 荷物を纏め終わり、ホッとベッドに腰掛けたタイミングでヴォルが戻ってきました。

「終わったのか」

「はい」

「行くぞ」

「はい。あ、ありがとうございます」

 部屋に置いてあった荷物を肩に担いだヴォルは、何も言わずに私の荷物──大した量はないのですが──を持ってくれました。本当に優しいですね。
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