「結婚しよう」

まひる

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第一章

10.期限が近かったからな【2】

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「はいっ」

 緊張してしまうのは、やはり魔物が怖いからですよ。私とウマウマさんに襲い掛かって来ないのは、ヴォルの黒い剣レイドの力だと聞きました。でもその分彼に負担がいっているのだと、ヴォルが怪我をして初めて気付いたのです。それはそうですよね、冒険者も人間なのですから。

「メルはここにいろ。koko no basyo wo kakuri suru.」

 私に指示すると同時に、ヴォルはその場に結界を作っていました。まだ肩が治っていなくて本調子ではないのに、私の事を気にしてくれています。申し訳ないです。私、何も出来ないのにですよ。

 ヴォルが察した通り、岩影から四足タイプの魔物が五体程出てきました。これは集団で獲物を襲う種類で、前にヴォルの肩に噛みついたのもこれだったと思います。

「ヴォル……」

 さすがに苦い顔を見せたヴォルですが、そこは彼の強さなのでしょう。すぐに表情を消すと、右手に透明な天の剣ラミナだけ持ちました。私とウマウマさんに結界を張っているので、魔物の意識を自分に向ける必要がないのでしょうか。それとも、左肩は剣が持てない程痛むのでしょうか。

 ヴォルの戦闘は踊っているように見えます。力任せに剣を振るうのではなく、相手の動きを見ながら無駄のない動きでスルリと刃が光の線として通っていきます。とても綺麗です。そして斬りつけられた魔物は、その場所から光を発していきます。『浄化の光』と言っていましたね。

 不思議な事に、魔物は光を発し始めると少しずつ弱くなっていくような気がします。そうこうしている間に、五体いた魔物は残り二体になりました。

 私はただ見つめるしか出来ません。怪我をしないように、そう祈る事しか出来ません。

 あぁ、肩が痛いのでしょうか。ヴォルが左肩を押さえています。私はウマウマさんの荷物袋から、ヴォルに教えてもらった解熱鎮痛効果のある薬草を取り出します。戻ってきたら、すぐに薬草を塗れるように準備ですよ。些細な事しか出来ないのですから、少しでも力になりたいのです。

 不思議ですよね。私、誘拐されて強制的に婚約者にさせられているのです。でもどうしてでしょうか。ヴォルからは私に対する優しさしか感じません。初めの頃は怖かったのもあって、命令口調の傲慢な態度が嫌いだったのですけど……。
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