「結婚しよう」

まひる

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第一章

6.気に入らなかったか【2】

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「あ、すみません。考え事をしていました」

 笑顔を作ってみますが、どうも苦笑いになります。今の自分の中の結論に、どうしても引きずられてしまうからです。

 大丈夫です。私はまだヴォルが好きと言う訳ではありません。…………まだ?いえ、恋愛感情は持ってませんから。家族の意味で好き、です。私は彼の庇護のもとでこうしてここにいるのですから。……そうですね、突然色々な事が起きて混乱してしまっただけです。この婚約の腕輪ですら、ただのアイテムなのですよ。あぁ、新たな結論が出てスッキリしました。

「大丈夫です」

 私はようやくいつもの笑顔を返せました。ヴォルが何やら不思議そうに私を見ていましたが、心の中で何を考えていようが私の自由ですから。

「そうか」

「はい」

「宿に戻る」

「分かりました」

 後ろで女主人がニコニコと私達を見ていましたが、もう大丈夫です。いつものようにヴォルの後ろをついて歩きますよ。ですが、いつもなら先に一歩を出すヴォルが動きません。

「手」

「て?」

 首を傾げながら見上げました。ヴォルは前を向いたままです。て、て、て、て……手、ですか?思い当たってヴォルの手に視線を移しました。掌を上に向けたまま、止まっています。あ、手首に私と同じ腕輪が……。

 ちょうど右側にヴォルがいたので、あげた方の手首にある婚約の腕輪に視線が釘付けです。お揃い、ですね。

「遅い」

「え、きゃっ」

 わずかに苛立ちを乗せた声が聞こえたかと思うと、いきなり手を引かれました。あ、手を繋ごうとしていたのですか?それならそうと……いえ、言うキャラじゃないですね。

 ヴォルに手を引かれながら宿に向かう私は、どうしても彼の腕輪に視線が行ってしまいます。確か先程の女主人は、ヴォルがこう言った風習を知らなかった的な事を言っていました。地域的なものですかね?ヴォルはここの出身ではないようですし。

「気に入らなかったか」

 気付いたら部屋の中でした。いつの間にか宿の部屋に戻ってきたようです。……ところで、何か怒ってませんか?ヴォルは視線を合わせる事なく、一言私に告げました。
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