「結婚しよう」

まひる

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第一章

5.つけておけ【5】

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「大丈夫か、メル」

 ヴォルの声が耳と身体を通して聞こえてきました。私は安心のあまり言葉が出ず、それでもそれを伝えたくて頭を上下に何度も振りました。ヴォルの胸に抱かれたまま、涙が溢れて仕方がなかったのです。

「何だ、お前……っ!」

 ヴォルに対して問い掛ける男の人の声が聞こえましたが、途中で息を呑むように途切れます。疑問に思ってヴォルを見上げようとしたら、ガシッと頭を押さえられてしまいました。ん~、苦しいですね。

 動くなと言う合図だと思いしばらくジッとしていましたが、このままだと苦しさが限界を迎えそうです。抱き締められたまま窒息とか、笑い話にもなりません。わずかに動く両手でヴォルの胸を叩きます。ギブアップですよ。

「すまない」

「プハッ?!」

 それに気付いてくれたヴォルが腕の力を緩めてくれたので、私は思い切り新鮮な空気を吸いました。ハッ、顔が涙でみっともなくなっている筈です。慌てて両手でこすろうとして、またヴォルに手を掴まれてしまいました。えっと、顔を拭きたいのですけど。恐る恐る見上げると、ヴォルの顔がすぐに近くにありました。と言うか、近すぎます。

「えっ、あの……んっ!」

 ワタワタしながら言葉を紡ごうとしたら、そのままヴォルの唇が私の目元に触れました。ええっ、これって?!パニックになっている私のもう片方の目元にもヴォルの唇が舞い落ちます。

こすったら腫れる」

 そ、それにしたってですよ?!私はもう、お魚のように口をパクパクしていました。涙はビックリして止まってしまいましたけど。

「これ……、つけておけ」

 そして次に私の左手首に触れたヴォルは、一つの冷たい感触を残していきました。何でしょう……っ!?私はまたまた心臓が止まるかと思いました。ここここここれって、もしかしなくても婚約の腕輪じゃないですかっ。

 いくら男性とのお付き合いの経験がなくても、これくらい知っています。結婚の約束をしたら男性が女性に贈る腕輪、それが婚約の腕輪です。幅の太めの腕輪で、お互いが揃ってつけます。ちなみに結婚式の時からは既婚の証として、幅の細い揃いの腕輪をするのでした。

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