「結婚しよう」

まひる

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第一章

5.つけておけ【2】

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「ヴォル、困りました。商品の価値が分かりません」

 素直に訴えてみます。高いのか安いのか、相場すらも分かりません。

「好きなものを言え。金は心配するな」

 え~っ、そんな事言われても本当に困るのです。大体この商店に並ぶ品物って、とても高価な気がします。だって町の人、誰も買い物をしていませんよ?商店を見て歩いているのは、冒険者やよそから来た商人の方のようです。

「ヴォル?この町の普通の人が買い物をする場所はないのですか?」

「何故だ」

「えっと……ここ、多分ですが高いのだと思います。町の人、誰も買い物をしていません」

 私の言葉を受け、ヴォルは周りを確認しているようです。

「なるほど」

 納得して頂けたようで、周囲を見回してから表通りではない細い路地に入っていきます。私も慌ててその背中を追い掛けました。

 そして路地の奥、観光客が来ないような場所に商店がありました。小さな──屋根もないような商店でしたが、子供や町の人と思われる方々が大勢いらっしゃいます。

「さすがだ、メル」

 ほ、誉められました。とても嬉しいです。

「俺が買う事は出来るか?」

「あぁ、構わないよ」

 ヴォルがお店の人と話をしています。私は知らない人と話すのは勇気がいるのですけど、ヴォルはさすが長旅を続けてきただけの事はあります。──いつもの無表情でしたが。

「それより珍しいね。よその人間がここに来るのは、滅多にないよ」

「ツレの鼻がく」

 あ、失礼な事を言っています。人をワンコみたいに言わなくても良いではないですか。

「良く出来た嫁さんだね。……ん?違うのかい?」

 嫁と言う単語に、私は思わず真っ赤になってしまいました。だってヴォルから妻になれと言われましたが、他の人に言われるのは初めてなのです。

「羨ましいね、私も昔は結構モテたんだがね」

 お店のご主人が勝手に話しているのを、ヴォルは黙って聞いていました。あの無表情は、真剣に話を聞いていると思わせるのでしょうか。

「ヴォル?」

 話が長くなりそうなので、私はヴォルの袖口をツンと引っ張ってみました。

「分かった」

「あー、ゴメンよ。話が長くなっちまったね。これ、持っていきな」

「ありがとうございます」

 お店のご主人がそう言ってくれたのは、そのお店に並んでいる温かくて甘い匂いのするフワフワのお饅頭でした。

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