「結婚しよう」

まひる

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第一章

3.抱き枕になるんだろ【2】

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「そう……ですか」

「何故だ」

 再びうつむいた私が不思議なのか、今度はヴォルに問い掛けられました。

「いえ……あの……」

 言ってしまっても良いのでしょうか。これは単に、私の我が儘なのではないでしょうか。不安が心の中に積み重なっていきました。

「言え」

 命令。その言葉に私の肩がビクリと揺れます。

 ですがこの数日、共に旅をして来て私は気付きました。ヴォルは言葉が少ないだけで、心が冷たい人ではなさそうだと。決定的なものはありませんが、単調に紡がれる言葉に隠された優しさのようなものが時折感じられるのです。

「いつも……色々としていただいているので……。私が出来る事であれば、お手伝いしたいのです」

 意を決して告げてみます。ヴォルの表情は変わりませんが、わずかに……ホンのかすかに瞳が揺れました。

「俺が勝手に連れてきたんだ。それなのに、何故手伝いを申し出るのかが理解出来ない」

 あ、珍しく長い言葉でした。……え?私、変な事を言ったのでしょうか。

「あの……おかしいでしょうか」

 自分の言葉に自信がなくなってしまいます。けれど今まで、私は自分の事を自分でしてきました。その為か、この至れり尽くせりの状態がとても居心地悪いのです。

「いや……」

 言い淀むヴォル。いつも端的な言葉で簡潔に話す彼なので、私は始めてみるその姿に驚きを隠せません。

「抱き枕くらいだ」

 ………………はい?今、何と……。

「二度も言わすな」

 首を傾げた私に、ヴォルがプイと視線を背けました。あの……、何でしょう。私、『抱き枕』──聞こえてましたよ、信じられなかっただけで──くらいにしか役に立てないと言う事でしょうか。いえ、この場合……それでも役に立てる事を喜ぶべきなんでしょうか。

 互いに無言の中、パチパチと焚き火が弾けます。その時ヴォルがスッと立ち上がったので、私の身体はビクッと跳ねてしまいました。

「片付ける」

「えっ……、あ……はい」

 差し出された手にドギマギしつつ、私は食べ終わったお皿をヴォルに手渡しました。

「Mizu yo athumare.」

 いつものようにヴォルが何もない空中に魔力を集中し始めたようです。私は勿論魔法を使えないので、何もない場所に何かを存在させるこの力が不思議でなりません。
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