「結婚しよう」

まひる

文字の大きさ
上 下
3 / 515
第一章

1.俺と来い【3】

しおりを挟む
「あの……、おっしゃる意味が分からないんですけど?」

 お酒かしら?料理の追加かしらって思っていた私です。

「Sou ka.gengo ga chigau no ka.」

 何やら呟いていましたが、私にはサッパリです。思い切り首を傾げてしまいました。この人、初めの注文はどうしたのでしょう。あ、マスターはこの人の言葉が分かったのですね。初めの注文は確か、この食事処のマスターが聞いていたのを思い出しました。あの人は色々な場所を旅するのが趣味だと何度かお客様達と話していましたから、きっと彼の言葉も理解出来たのです。それならば、です。

「すみません。マスターを呼んできますので、暫くお待ちください」

 ペコリと頭を下げ、その場を立ち去ろうとしました。けど、あれ?何故か左手を掴まれて引き留められてしまいました。何か不都合がありましたか。あ、もしかして何も聞かずに立ち去ろうとしたと思われたのでしょうか。でも言葉が通じないし、どうしようなんて困っていますと。

「Kekkon shiyou.」

 またあの言葉を言われて、その左手の甲にキスをされました。どうして同じ言葉だって分かるかって?そんなの、ニュアンスの問題です。




 って言うか、思い出しました。あの時の人です!今日は頭に巻き巻きしてないし鎧も身に付けていないから分かりませんでしたが、この真っ直ぐな青緑の瞳に覚えがあります。

「あ、あなたは昨日のお客様?!」

 でも確か、昨日は言葉が通じなかったはずです。しかも騒ぎを聞き付けたマスターがやって来て、うやむやに話が終わりましたから。

「そう」

「でも昨日は言葉が……」

「勉強した。君に通じなかったみたいだから、ここの言葉をマスターした」

 か、簡単に言ってくれますね。一晩で?どんな天才ですか。って言うか昨日の言葉も、私に対する求婚だった訳ですか?良かったです、言葉が通じなくて。皆にからかわれて、この先仕事に行き辛くなるところだったじゃないですか。

「お断りします」

 ハッキリと断り、ニッコリと笑顔までつけてやりました。朝から何サカってるのかしら、この男。早くしないと、仕事に遅れてしまいます。男の横を通り過ぎて行こうとしましたが、不思議と身体が動かないです。あれ?って、まだ手を繋がれているじゃないですか。放してくださいませんか。キッと睨んでみましたが、逆に微笑み返されてしまいました。

「君の仕事場は今日から俺の所だから」

 はい?何ですか、それは。言葉は通じるんですけど、理解不能です。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

勘違い令嬢の心の声

にのまえ
恋愛
僕の婚約者 シンシアの心の声が聞こえた。 シア、それは君の勘違いだ。

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

公爵閣下の契約妻

秋津冴
恋愛
 呪文を唱えるよりも、魔法の力を封じ込めた『魔石』を活用することが多くなった、そんな時代。  伯爵家の次女、オフィーリナは十六歳の誕生日、いきなり親によって婚約相手を決められてしまう。  実家を継ぐのは姉だからと生涯独身を考えていたオフィーリナにとっては、寝耳に水の大事件だった。  しかし、オフィーリナには結婚よりもやりたいことがあった。  オフィーリナには魔石を加工する才能があり、幼い頃に高名な職人に弟子入りした彼女は、自分の工房を開店する許可が下りたところだったのだ。 「公爵様、大変失礼ですが……」 「側室に入ってくれたら、資金援助は惜しまないよ?」 「しかし、結婚は考えられない」 「じゃあ、契約結婚にしよう。俺も正妻がうるさいから。この婚約も公爵家と伯爵家の同士の契約のようなものだし」    なんと、婚約者になったダミアノ公爵ブライトは、国内でも指折りの富豪だったのだ。  彼はオフィーリナのやりたいことが工房の経営なら、資金援助は惜しまないという。   「結婚……資金援助!? まじで? でも、正妻……」 「うまくやる自信がない?」 「ある女性なんてそうそういないと思います……」  そうなのだ。  愛人のようなものになるのに、本妻に気に入られることがどれだけ難しいことか。  二の足を踏むオフィーリナにブライトは「まあ、任せろ。どうにかする」と言い残して、契約結婚は成立してしまう。  平日は魔石を加工する、魔石彫金師として。  週末は契約妻として。  オフィーリナは週末の二日間だけ、工房兼自宅に彼を迎え入れることになる。  他の投稿サイトでも掲載しています。

竜人のつがいへの執着は次元の壁を越える

たま
恋愛
次元を超えつがいに恋焦がれるストーカー竜人リュートさんと、うっかりリュートのいる異世界へ落っこちた女子高生結の絆されストーリー その後、ふとした喧嘩らか、自分達が壮大な計画の歯車の1つだったことを知る。 そして今、最後の歯車はまずは世界の幸せの為に動く!

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

【完結】身を引いたつもりが逆効果でした

風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。 一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。 平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません! というか、婚約者にされそうです!

旦那様の様子がおかしいのでそろそろ離婚を切り出されるみたいです。

バナナマヨネーズ
恋愛
 とある王国の北部を治める公爵夫婦は、すべての領民に愛されていた。  しかし、公爵夫人である、ギネヴィアは、旦那様であるアルトラーディの様子がおかしいことに気が付く。  最近、旦那様の様子がおかしい気がする……。  わたしの顔を見て、何か言いたそうにするけれど、結局何も言わない旦那様。  旦那様と結婚して十年の月日が経過したわ。  当時、十歳になったばかりの幼い旦那様と、見た目十歳くらいのわたし。  とある事情で荒れ果てた北部を治めることとなった旦那様を支える為、結婚と同時に北部へ住処を移した。    それから十年。  なるほど、とうとうその時が来たのね。  大丈夫よ。旦那様。ちゃんと離婚してあげますから、安心してください。  一人の女性を心から愛する旦那様(超絶妻ラブ)と幼い旦那様を立派な紳士へと育て上げた一人の女性(合法ロリ)の二人が紡ぐ、勘違いから始まり、運命的な恋に気が付き、真実の愛に至るまでの物語。 全36話

鈍感令嬢は分からない

yukiya
恋愛
 彼が好きな人と結婚したいようだから、私から別れを切り出したのに…どうしてこうなったんだっけ?

処理中です...