「結婚しよう」

まひる

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第一章

1.俺と来い【2】

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 昨日もって、どういう事ですか。私はこの男、今初めて見て……。昨日?思い返しましたよ、私の少ない記憶を。




 昨日の私も、いつものように朝から夜まで仕事先である食事処に勤めていました。昨日はやたら人の入りがあって、とても忙しかったです。

「ねぇ、メルシャ。あの人……格好良くない?」

 そう言えば、同じ職場のマーサが声をかけてきたんでした。忙しいのに、です。私はその視線の先を追い、一人で食事をする男性を見つけました。

 でも格好良いかどうかなんて、全く分からなかったのです。だってアレですよ?頭から首にかけて布をいっぱい巻き付けて、簡素だけど鎧を身に付けていたのです。腰には二本の長剣ですよ?完全に危ない人です。って言うか、冒険者ですね。村には結界が張り巡らされているから安全なんですけど、一歩でも村の外に出ようものなら魔物の餌です。私なんか、ペシッで死んじゃう自信があります。

 村や町を冒険者が行き来しているのは勿論知っていますけど、そんな危ない人とお知り合いになんてなりたくないです。全く興味がありません。

「そうかしら、私は普通の人が良いわ。ほらマーサ、お客様が呼んでいるわよ?」

 別のテーブルから声がかかり、マーサを行かせました。あの子、恋愛むだ話が多いのです。さぁさぁ、私も仕事。夕食の時間だから本当に忙しくて、あちらこちらのテーブルに料理を運んだり片付けたりしていました。

 そんな中、先程の一人で食事をする男性から呼ばれました。マーサのお気に入りさんだったんですけど、ちょうど別のお客様の対応中です。私しか空いてなくて、嫌とかじゃないんですけど内心ちょっと溜め息です。だって後で、マーサから絶対に色々聞かれるのですから。

「はい、お呼びでしょうか」

 でも、ここは営業スマイル。これだけは得意なのです、私。その人のテーブルの横に立ち、ニッコリと微笑んでご用伺いをします。って、ここまでは普通です。でも、次の瞬間に男性から出た言葉に固まってしまいました。

「Kekkon shiyou.」

 はい?と、とにかく異国の言葉ですね。まぁ、冒険者なら有り得ます。私はこの村から出たことがありませんが、世界はたくさんの大陸に別れていると聞いたことがあります。言葉が違っても不思議ではありません、きっとそうです。

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