「結婚しよう」

まひる

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第一章

≪Ⅰ≫ 俺と来い

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「結婚しよう」

 はぁ?!何、これ?誰よ、この無駄に見目の良い男は?!そ、そもそも私はいつものように食事処をしている仕事場に向かう途中なのです。それを何がどう間違って、朝の公共の道の真ん中で求婚なんかされてる訳ですか?!

「結婚しよう」

 に、二度目を言われちゃいました。真っ直ぐ私を見てると思うから間違いじゃないだろうけど、思わず後ろを振り返って確認してしまいましたよ。でも、やっぱり後ろには誰もいないです。つまりは私に言ってる、のよね?

「あ、あなたは誰ですか」

 どもっちゃいました。でも、これって大切です。まかりなりにも求婚されてるんですから。

「昨日会ったじゃないか」

 え?何、それ。…………考えたけど、出てきません。大体、昨日会って求婚っておかしくないですか?

「すみませんが、あなたの事を知らないんですけど」

 あ、何かの冗談ですね。何処からか隠れ新聞記者とか出てきて、ドッキリニュースとかで明日の新聞にでも書かれるんです。こんな小さな農村です。娯楽が少ないのは知ってるけど、人を騙して楽しむなんて良くないですよっ。

「思い出させてあげようか?」

「えっ?」

 って、一人思考の中でムカついてたら。事もあろうかこの男、突然私の左手をとったかと思うと、その甲にキキキキキスなんてしてきたのです!真っ白ですよ、真っ白。私、今何?って感じで、しばらく何処か遠くの世界に旅立ってしまいました。

「バッ、バッカじゃないのっ!?」

 ビターンッて空いている右手でその男の頬を叩いてやりましたよ、勿論!メチャクチャ私の掌が痛いですけど、それよりも公衆の面前で何してくれちゃってるのですか?!

「痛いな」

 少しも痛くなさそうな顔で、それでも頬を手の甲で擦っているこの人。一体、誰?何者ですか?

「何なんですか?!いきなりひ、ひ、ひ……」

 あー、私は何を言ってるのでしょう。気持ち悪く笑っている訳じゃないのですよ?

「ひ?」

「人の手にキスなんかしておいてっ!」

 そう、これが言いたかったのです。って言うか、何を冷静に突っ込んでくるのですか。小首を傾げて「ひ?」なんて言われて、何か可愛いじゃないですか。って、違いますからね?!好意の欠片も持ち合わせていませんからっ。

「何だ、そんな事か」

「な、何だとは何ですかっ。そんな事って、とっても大切な事なんですけどっ」

「昨日もしたじゃないか」

 プチキレた私ですけど、次のその男の言葉にキョトンとなってしまいました。
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