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第十章
11.どうだと思っている【4】
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食事を作り終えたベンダーツさんはヴォルへ声を掛けに行っていたのですが、何故か再び一人でこちらへ戻ってきました。
「……寝ちゃってた」
「そうですか……、やはりまだ身体が辛いのでしょうか」
「まぁ、ね。ってか、普通はもっと煩い程喚くんだけどねぇ。……俺が義手の勉強の為に行った医院ではさ。それこそ良い年した大人が、ギャアギャアとみっともなく泣いて叫んでたよ。それで気絶しちゃうなんてのもざらだし」
ヴォルが心配で仕方がない私の気を紛らす為か、笑って話すベンダーツさんです。
でも大人の男性が涙すると言う事は、それ程の苦痛を受けるという事でした。
あの時のヴォルを見ていた限り、皮膚の下で行われる義手との戦いだったと想像出来ます。
私では我慢というレベルではなく、ショックで死んでしまうかもしれないものでした。それを耐えられるだけで凄いです。
「元はと言えば、ヴォルが勝手に腕を魔法石にしちゃうからダメなんだけどさ。……あぁ。でもこれからは、あの魔物が変じた大きな魔法石があるから大丈夫かなぁ」
「それだけではない」
突然聞こえたヴォルの声に、ベンダーツさんと私は肩を跳ねさせて驚きました。
私達は馬車の裏手にいたので、ヴォルが横になっていた場所からは死角になっています。近付いて来るのも分かりませんでした。
しかしながらヴォルには、ベンダーツさんを手伝いに行く事は伝えてあります。それなので身体を動かすのに支障がないのならば、こちらへ来てもおかしくはありませんでした。
「な、何……起きたの?ってか、もしかして立ち聞き?」
「……腑に落ちない。お前だけがメルと楽しそうに話している」
驚きから逸早く立ち直ったベンダーツさんは、からかいを含みつつ問い掛けます。
けれどもそれに返すでもなく、ムッとした表情を浮かべるヴォルでした。
そしてまだ顔色が悪いので、体調が万全とはいかないようです。
「何、嫉妬?悋気って言った方が分かる?」
「嫉妬……」
ベンダーツさんの言葉にヴォルが眉を寄せました。
その意味をどう考えたのか、続けられた言葉に私は一気に顔が熱くなります。
「それでも良い。体裁の悪さなどは構わない。マーク。メルに変な気を起こしたら、ただでは済まさないぞ」
真面目な顔でベンダーツさんへ言い放つヴォルでした。
その視線が鋭いので、牽制の意味も含んでいるようです。
しかしながら、相手はベンダーツさんなのでした。
「……はい、はい。分かってるって、そんな事。大体、メルが俺に振り向きもしないから。良かったね、メル。ヴォルが嫉妬してるんだって。愛されてるねぇ」
呆れ顔をヴォルへ向けるベンダーツさんです。
更には、既に顔が真っ赤になってるだろう私に、柔らかく微笑んだのでした。
「で、何がそれだけじゃないって?……何だよ、メルに笑い掛けてもダメなのか?」
改めて問い掛けたベンダーツさんですが、ヴォルの表情は固いままです。
この三角形的な立ち位置だと、互いの表情が全て確認出来るのでした。
最早取り繕う余裕が私にはないので、情けない表情ですみませんと謝りたくなります。
「……良い。魔法石の事だ。戦ってみて分かった事だが……あれは魔物であり、この世界の魔力の坩堝だった」
小さく溜め息をついたヴォルは、それで気持ちを切り替えたのか話始めました。
「ヴォルの言うその坩堝って、ずっと探してたやつだろ?結局魔物だったの?」
「坩堝とは、言葉からしたら種々のものが入りまじっている状態やその場所の事だ。そしてこの世界の魔力は、全てを支える精神力でもある」
先に坩堝の説明をしてくれます。
以前にも少し聞いた事があるかも知れませんが、ヴォルは先程『魔物が坩堝だった』と言われました。
「協会が言っていた魔力の吸放出の件も、その呼吸と考えれば納得もいく。そしてあの巨大な魔物は、単体でありながら全ての魔力を吸放出していた。俺はそれを利用して魔法石化し、大地から魔力が放出される現象を制御する為の窓口に変えた」
複雑な感情を隠さずに問い掛けるベンダーツに、ヴォルは淡々と説明をします。
けれども私には内容が難し過ぎました。そもそも、窓口とはどういう意味なのでしょうか。
「……寝ちゃってた」
「そうですか……、やはりまだ身体が辛いのでしょうか」
「まぁ、ね。ってか、普通はもっと煩い程喚くんだけどねぇ。……俺が義手の勉強の為に行った医院ではさ。それこそ良い年した大人が、ギャアギャアとみっともなく泣いて叫んでたよ。それで気絶しちゃうなんてのもざらだし」
ヴォルが心配で仕方がない私の気を紛らす為か、笑って話すベンダーツさんです。
でも大人の男性が涙すると言う事は、それ程の苦痛を受けるという事でした。
あの時のヴォルを見ていた限り、皮膚の下で行われる義手との戦いだったと想像出来ます。
私では我慢というレベルではなく、ショックで死んでしまうかもしれないものでした。それを耐えられるだけで凄いです。
「元はと言えば、ヴォルが勝手に腕を魔法石にしちゃうからダメなんだけどさ。……あぁ。でもこれからは、あの魔物が変じた大きな魔法石があるから大丈夫かなぁ」
「それだけではない」
突然聞こえたヴォルの声に、ベンダーツさんと私は肩を跳ねさせて驚きました。
私達は馬車の裏手にいたので、ヴォルが横になっていた場所からは死角になっています。近付いて来るのも分かりませんでした。
しかしながらヴォルには、ベンダーツさんを手伝いに行く事は伝えてあります。それなので身体を動かすのに支障がないのならば、こちらへ来てもおかしくはありませんでした。
「な、何……起きたの?ってか、もしかして立ち聞き?」
「……腑に落ちない。お前だけがメルと楽しそうに話している」
驚きから逸早く立ち直ったベンダーツさんは、からかいを含みつつ問い掛けます。
けれどもそれに返すでもなく、ムッとした表情を浮かべるヴォルでした。
そしてまだ顔色が悪いので、体調が万全とはいかないようです。
「何、嫉妬?悋気って言った方が分かる?」
「嫉妬……」
ベンダーツさんの言葉にヴォルが眉を寄せました。
その意味をどう考えたのか、続けられた言葉に私は一気に顔が熱くなります。
「それでも良い。体裁の悪さなどは構わない。マーク。メルに変な気を起こしたら、ただでは済まさないぞ」
真面目な顔でベンダーツさんへ言い放つヴォルでした。
その視線が鋭いので、牽制の意味も含んでいるようです。
しかしながら、相手はベンダーツさんなのでした。
「……はい、はい。分かってるって、そんな事。大体、メルが俺に振り向きもしないから。良かったね、メル。ヴォルが嫉妬してるんだって。愛されてるねぇ」
呆れ顔をヴォルへ向けるベンダーツさんです。
更には、既に顔が真っ赤になってるだろう私に、柔らかく微笑んだのでした。
「で、何がそれだけじゃないって?……何だよ、メルに笑い掛けてもダメなのか?」
改めて問い掛けたベンダーツさんですが、ヴォルの表情は固いままです。
この三角形的な立ち位置だと、互いの表情が全て確認出来るのでした。
最早取り繕う余裕が私にはないので、情けない表情ですみませんと謝りたくなります。
「……良い。魔法石の事だ。戦ってみて分かった事だが……あれは魔物であり、この世界の魔力の坩堝だった」
小さく溜め息をついたヴォルは、それで気持ちを切り替えたのか話始めました。
「ヴォルの言うその坩堝って、ずっと探してたやつだろ?結局魔物だったの?」
「坩堝とは、言葉からしたら種々のものが入りまじっている状態やその場所の事だ。そしてこの世界の魔力は、全てを支える精神力でもある」
先に坩堝の説明をしてくれます。
以前にも少し聞いた事があるかも知れませんが、ヴォルは先程『魔物が坩堝だった』と言われました。
「協会が言っていた魔力の吸放出の件も、その呼吸と考えれば納得もいく。そしてあの巨大な魔物は、単体でありながら全ての魔力を吸放出していた。俺はそれを利用して魔法石化し、大地から魔力が放出される現象を制御する為の窓口に変えた」
複雑な感情を隠さずに問い掛けるベンダーツに、ヴォルは淡々と説明をします。
けれども私には内容が難し過ぎました。そもそも、窓口とはどういう意味なのでしょうか。
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