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第十章
11.どうだと思っている【2】
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「で……今回使用するこっちの木材は相互共生型だから、より少ない魔力で扱える。それでも動きはこれまでの義手より少し悪いけど、非能力者用の物と違って魔力が運動神経伝達物質になってくれるから比較的自由に動かせるしね」
ベンダーツさんはそう説明しながらも、ヴォルの額に吹き出す汗を拭っています。
私はただ苦しむヴォルの頭を撫でる事しか出来ませんでした。
「……そういう事は、薬草の知識と同じように調べたのですか?」
「そ。俺、植物の能力に敬意を払っているからさ」
ベンダーツさんは私の質問に軽く答えてくれます。
でも実際、そんなに簡単とは思えませんでした。凄くたくさん勉強しないと、これ程詳しくなれない筈です。
「それも全てヴォルの為ですか?」
「さぁね~?……あ、根が完全に張ったようだ。もう大丈夫かな」
思ったままを素直にベンダーツさんへ問い掛けたのですが──見事にはぐらかされました。
ベンダーツさんは基本的に自らの苦難を語ってはくれません。勿論一言では言い表せないのでしょうが、彼はそういった事での賛辞を喜びとはしないようでした。
こうして私と言葉を交わしつつも、ベンダーツさんはヴォルから視線を外しません。そして今、彼の手がヴォルの肩口に触れました。
ベンダーツさんの動きに、自然と私の視線も引き寄せられます。確かに言われる通り、先程のような皮膚の動きはなくなっていました。
表面上──木製の義手部分と肌を繋ぐ金属は変わらず、その先の肩から胸の方へ向かって幾重にも張り巡らされた筋が見えます。けれども皮膚は青みがかってはいますが、打ち身程度の色でした。
新たな出血は確認出来ません。状況的に、本当に落ち着いたように見えました。
「ヴォル……、どう?」
ベンダーツさんは静かにヴォルへ声をかけます。
「……どうだと思っている」
「ハハハ……、痛いでしょう」
それに薄く瞳を開けたヴォルが返しますが、ベンダーツさんは苦笑を溢しながら答えるしかなかったようでした。
しかしながら、こんな時でもヴォルが苦痛を直接訴える事はないようです。でも未だに全身から吹き出す汗からして、確かに強い痛みを感じている筈でした。
「ここが精霊の結界内で良かったね。これ程回復が早いと、こっちも安心して施術が出来るよ」
笑みを浮かべているベンダーツさんですが、先程までとても痛そうにヴォルを見ていたのを私は知っています。
けれどもそういう部分をヴォルに見せたりはしませんし、大抵の場合のベンダーツさんは軽口を返す事しかしませんでした。
「そうか。……まぁ、そう何度も受けたいものではない」
淡々と答えているヴォルですが、顔色が悪い事は見ればすぐに分かります。
けれどもヴォルを良く知らない人は分からないでしょうから、本当に感情を隠すのが上手でした。
──これ、誉めて良いものか私的に不明なのです。
「はい、はい。平生通りの強気発言、どうもありがとう。けど、顔色の悪さが徒になったな。無理しないで、暫く横になってなよ。って、この結界はいつまで持つの?すぐに消えたりしない?」
今更のように周囲を気にし出したベンダーツさんでした。
どうやらこれまではヴォルの事が心配で、他の事が気にならなかったようです。本当にいつでもヴォルが一番の人でした。
「……この結界は問題ない。精霊の力は魔法石から供給されているようだ」
一度視線を逸らしたヴォルは、再度ベンダーツさんへ視線を戻して答えます。
その様子から、精霊さんに確認をとったようでした。
私にも周囲にたくさんの精霊さんがいる事は分かります。けれども光にしか見えないので、その声を聞き取る事が出来ませんでした。
ベンダーツさんはそう説明しながらも、ヴォルの額に吹き出す汗を拭っています。
私はただ苦しむヴォルの頭を撫でる事しか出来ませんでした。
「……そういう事は、薬草の知識と同じように調べたのですか?」
「そ。俺、植物の能力に敬意を払っているからさ」
ベンダーツさんは私の質問に軽く答えてくれます。
でも実際、そんなに簡単とは思えませんでした。凄くたくさん勉強しないと、これ程詳しくなれない筈です。
「それも全てヴォルの為ですか?」
「さぁね~?……あ、根が完全に張ったようだ。もう大丈夫かな」
思ったままを素直にベンダーツさんへ問い掛けたのですが──見事にはぐらかされました。
ベンダーツさんは基本的に自らの苦難を語ってはくれません。勿論一言では言い表せないのでしょうが、彼はそういった事での賛辞を喜びとはしないようでした。
こうして私と言葉を交わしつつも、ベンダーツさんはヴォルから視線を外しません。そして今、彼の手がヴォルの肩口に触れました。
ベンダーツさんの動きに、自然と私の視線も引き寄せられます。確かに言われる通り、先程のような皮膚の動きはなくなっていました。
表面上──木製の義手部分と肌を繋ぐ金属は変わらず、その先の肩から胸の方へ向かって幾重にも張り巡らされた筋が見えます。けれども皮膚は青みがかってはいますが、打ち身程度の色でした。
新たな出血は確認出来ません。状況的に、本当に落ち着いたように見えました。
「ヴォル……、どう?」
ベンダーツさんは静かにヴォルへ声をかけます。
「……どうだと思っている」
「ハハハ……、痛いでしょう」
それに薄く瞳を開けたヴォルが返しますが、ベンダーツさんは苦笑を溢しながら答えるしかなかったようでした。
しかしながら、こんな時でもヴォルが苦痛を直接訴える事はないようです。でも未だに全身から吹き出す汗からして、確かに強い痛みを感じている筈でした。
「ここが精霊の結界内で良かったね。これ程回復が早いと、こっちも安心して施術が出来るよ」
笑みを浮かべているベンダーツさんですが、先程までとても痛そうにヴォルを見ていたのを私は知っています。
けれどもそういう部分をヴォルに見せたりはしませんし、大抵の場合のベンダーツさんは軽口を返す事しかしませんでした。
「そうか。……まぁ、そう何度も受けたいものではない」
淡々と答えているヴォルですが、顔色が悪い事は見ればすぐに分かります。
けれどもヴォルを良く知らない人は分からないでしょうから、本当に感情を隠すのが上手でした。
──これ、誉めて良いものか私的に不明なのです。
「はい、はい。平生通りの強気発言、どうもありがとう。けど、顔色の悪さが徒になったな。無理しないで、暫く横になってなよ。って、この結界はいつまで持つの?すぐに消えたりしない?」
今更のように周囲を気にし出したベンダーツさんでした。
どうやらこれまではヴォルの事が心配で、他の事が気にならなかったようです。本当にいつでもヴォルが一番の人でした。
「……この結界は問題ない。精霊の力は魔法石から供給されているようだ」
一度視線を逸らしたヴォルは、再度ベンダーツさんへ視線を戻して答えます。
その様子から、精霊さんに確認をとったようでした。
私にも周囲にたくさんの精霊さんがいる事は分かります。けれども光にしか見えないので、その声を聞き取る事が出来ませんでした。
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