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第十章
9.これはもう動かない【4】
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「あ~、そろそろ良いかな?」
それまで口をつぐんでいたベンダーツさんが、ヴォルと私の会話へ静かに割って入ります。
話し掛けるタイミングを見計らっていたようでした。
「とりあえず、ヴォルの腕を見たいんだけど。潜在魔力が極限まで削られたのなら、尚更早目に処置をしないとならないからね」
そう言いつつ──いつの間に持ってきたのか、ベンダーツさんの手には義手治療に必要と思われる道具箱が握られています。
元々ベンダーツさんはヴォルの専属技師でもありました。私も一度義手治療を見た事がありますが、あの時は同じ素材を使った筈です。
もう替えがないというこの高級素材は、自分の手と同じように使える義手でした。魔力所持者専用に開発されたとの事で、根本的に魔力がないと使用不可のようです。
「この義手に使用している木材は魔力を吸収するからさ。以前のヴォルなら問題は全くないんだけど、今は動かなくても魔力を吸い取られちゃうからキツいでしょ」
「ちょっとごめんよ」とばかりにヴォルの隣に腰掛けるベンダーツさんでした。
今は結界内で布を敷き、直接大地に座っています。ヴォルはベンダーツさんが横に座っても反応せず、ちらりと視線を動かしただけでした。
そしてヴォルの服はあちらこちらが破れている状態だったので、ベンダーツさんは遠慮なく左肩から服を裂きます。
──っ?!
初めて明るい中で見たヴォルの左肩に、私は息を呑みました。
頭では分かっていましたが、実際に目にするのとでは精神的に受けるものが違います。
「あ~……、メル?ダメそうなら離れていても良いよ?」
ベンダーツさんはそう苦笑いを浮かべました。
対する私は、何とか視線を逸らさずにいられただけでした。──情けないです。
私はそのまま無言で首を横に振り、涙の浮かんだ瞳をベンダーツさんの手元へ向けました。
ヴォルの左肩は関節部分はあるものの、そのすぐ先から木製の義手に替わっています。接続部は血管が浮いたような凹凸があり、青黒く変色してもいました。
「……実はこの素材、所有者の魔力を吸って意思を伝達してるんだ。だから所有者の肉体に根を張ってる。その対価として本当の腕のように動かせるんだけどね。で、今のままだとヴォルが干からびるまで魔力を吸い取られちゃう。だから早急な分離が必要って訳」
その場から立ち去らない私をどう思ったのか、ベンダーツさんは淡々と現状の説明をしてくれています。
そうして手際良く道具箱から接続部を外す為の工具を取り出し、まるで機械の修理をするかのように手際良く金具を外していました。──でも忘れるべからず、相手は人間です。
身体に埋め込まれた金具を回して取り外す度に赤い血が流れ、義手を筋状に染めていきました。
見ているだけの私でも痛いのに、ヴォルは一切顔色を変えません。
「麻酔薬があまりないから、痛み止効果が少ないかもだよ」
「問題ない。やってくれ」
ベンダーツさんは未だ出血の続く接続部に透明な液体を掛けました。
それが麻酔薬なのかもしれませんが、ベンダーツさんはそのまま微動だにしないヴォルの横顔に話し掛けます。
「分かったよ。……まぁ俺としては、ここが回復出来る精霊結界の中で良かったかな。んじゃ、いくよ?」
僅かに安堵を見せたベンダーツさんでしたが、その手はしっかりとヴォルの義手を握り締めていました。
それまで口をつぐんでいたベンダーツさんが、ヴォルと私の会話へ静かに割って入ります。
話し掛けるタイミングを見計らっていたようでした。
「とりあえず、ヴォルの腕を見たいんだけど。潜在魔力が極限まで削られたのなら、尚更早目に処置をしないとならないからね」
そう言いつつ──いつの間に持ってきたのか、ベンダーツさんの手には義手治療に必要と思われる道具箱が握られています。
元々ベンダーツさんはヴォルの専属技師でもありました。私も一度義手治療を見た事がありますが、あの時は同じ素材を使った筈です。
もう替えがないというこの高級素材は、自分の手と同じように使える義手でした。魔力所持者専用に開発されたとの事で、根本的に魔力がないと使用不可のようです。
「この義手に使用している木材は魔力を吸収するからさ。以前のヴォルなら問題は全くないんだけど、今は動かなくても魔力を吸い取られちゃうからキツいでしょ」
「ちょっとごめんよ」とばかりにヴォルの隣に腰掛けるベンダーツさんでした。
今は結界内で布を敷き、直接大地に座っています。ヴォルはベンダーツさんが横に座っても反応せず、ちらりと視線を動かしただけでした。
そしてヴォルの服はあちらこちらが破れている状態だったので、ベンダーツさんは遠慮なく左肩から服を裂きます。
──っ?!
初めて明るい中で見たヴォルの左肩に、私は息を呑みました。
頭では分かっていましたが、実際に目にするのとでは精神的に受けるものが違います。
「あ~……、メル?ダメそうなら離れていても良いよ?」
ベンダーツさんはそう苦笑いを浮かべました。
対する私は、何とか視線を逸らさずにいられただけでした。──情けないです。
私はそのまま無言で首を横に振り、涙の浮かんだ瞳をベンダーツさんの手元へ向けました。
ヴォルの左肩は関節部分はあるものの、そのすぐ先から木製の義手に替わっています。接続部は血管が浮いたような凹凸があり、青黒く変色してもいました。
「……実はこの素材、所有者の魔力を吸って意思を伝達してるんだ。だから所有者の肉体に根を張ってる。その対価として本当の腕のように動かせるんだけどね。で、今のままだとヴォルが干からびるまで魔力を吸い取られちゃう。だから早急な分離が必要って訳」
その場から立ち去らない私をどう思ったのか、ベンダーツさんは淡々と現状の説明をしてくれています。
そうして手際良く道具箱から接続部を外す為の工具を取り出し、まるで機械の修理をするかのように手際良く金具を外していました。──でも忘れるべからず、相手は人間です。
身体に埋め込まれた金具を回して取り外す度に赤い血が流れ、義手を筋状に染めていきました。
見ているだけの私でも痛いのに、ヴォルは一切顔色を変えません。
「麻酔薬があまりないから、痛み止効果が少ないかもだよ」
「問題ない。やってくれ」
ベンダーツさんは未だ出血の続く接続部に透明な液体を掛けました。
それが麻酔薬なのかもしれませんが、ベンダーツさんはそのまま微動だにしないヴォルの横顔に話し掛けます。
「分かったよ。……まぁ俺としては、ここが回復出来る精霊結界の中で良かったかな。んじゃ、いくよ?」
僅かに安堵を見せたベンダーツさんでしたが、その手はしっかりとヴォルの義手を握り締めていました。
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