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第十章
8.約束は守ろう【5】
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「いやぁ~、メルも無事で良かったよ。こっちは本当にもう、途中でどうなる事かと思ったんだからさ」
大きな溜め息と共に告げるベンダーツさんです。
結構な時間をかけて漸く辿り着いた二人は、精霊さんの結界の中に入った途端に座り込んでしまいました。
今気付きましたが、この結界はヴォルの結界と似た感じです。外に出てはダメだという精霊さん言葉に従ってここにいたのですが、ヴォルとベンダーツさんは問題なく中へ入って来られました。
「精霊の……結界……」
「あ、そうなんだ。ここ、精霊の結界なんだね」
不意にベンダーツさんはヴォルへ視線を向け、次に私へ笑みを向けます。
ポツリと呟いたヴォルの声に、ベンダーツさんが明るく反応したのには驚きました。その疲れを見せない内面の強さには感心してしまいます。
「は、はい。そう……みたいです」
私は呆気に取られながらも答えました。
実際には私も頭の中の声に教えてもらったのですが、理解出来ている訳ではありませんでした。
「そっかぁ、精霊ねぇ。……あ、なるほどね。だから身体の痛みが小さくなってきてるんだ。へぇ~」
時折、間を挟みながらのベンダーツさんの独り言です。──と言うか、誰かとお話ししているようでした。
お二人が回復しているのは良いのですが、妙な違和感を感じて私は首を傾げます。
いつもならもう少し──そういえば、戻ってきてからヴォルの声を一度しか聞いていませんでした。
〈あ、今あの人間はヴォルティと話してる〉
当たり前のように私の頭の中へ精霊さんの声が響きます。
そうでした──まだ他にもいつもと違うところがありました。普段は一人ツッコミ属性の私も、今は脳内で別の意思と会話をしているのです。人の事を言えませんでした。
「……メル」
静かに響いた声です。
不意に耳に届いた温かい声に、私は勢い良く顔を上げました。少し掠れていましたが、確かにヴォルの声です。
「……っ。ヴォル……っ」
私は途端に溢れた涙に、言葉まで奪われてしまいました。
自分に向けられた言葉で、急に感情が爆発してしまったようです。別に無視されていた訳でもないのに、私の心情的には直接声を掛けられる事に意味があるようでした。
それで感情のままにヴォルに抱き付きます。今までなんとなく近付きにくかった事もあり、私は二人から少し離れていたのでした。
「大丈夫、か?」
優しいヴォルの声です。
温かい手で頭をゆっくり撫でられ、私は言葉を失ってしまったかのように頷く事しか出来ませんでした。
「すまない、また……不安にさせた」
「……え、いいえ……っ。ヴォルが帰って来てくれただけで、それだけでもう大丈夫ですっ」
痛みを乗せたヴォルの声に、私は必死に首を横に振りながら言葉を紡ぎます。
首に抱き付いている私ですが、今は感情に身を任せているので羞恥心を何処かに置き忘れていました。
ただ──気持ちを、伝えたかったのです。
「俺も……、メルが無事で……」
言葉が途切れました。その先は私の唇に直接伝えられたのです。
力強く抱き締められ、全身からヴォルの熱が私へ入ってくるようでした。
「あの~……、俺の存在を忘れてないかなぁ。ここにもう一人いるんだけどぉ……?」
呆れたような照れたような声音です。
そうでした、ベンダーツさんがいるのでした。勝手に盛り上がってしまいましたが、今はヴォルと二人ではありません。
私は慌ててヴォルから放れようとしたのですが、しっかりと後頭部を押さえられていて動けませんでした。
──うぅ、ちょっ……舌が……っ!!
「……っ……ん……、ふ……っ」
意図せず声が漏れてしまいます。
──嫌~っ、恥ずかしいですっ!
暴れる私をよそに──と言っても大した抵抗は出来ませんでしたが、そのままヴォルの気が済むまでそれは続いたのでした。
大きな溜め息と共に告げるベンダーツさんです。
結構な時間をかけて漸く辿り着いた二人は、精霊さんの結界の中に入った途端に座り込んでしまいました。
今気付きましたが、この結界はヴォルの結界と似た感じです。外に出てはダメだという精霊さん言葉に従ってここにいたのですが、ヴォルとベンダーツさんは問題なく中へ入って来られました。
「精霊の……結界……」
「あ、そうなんだ。ここ、精霊の結界なんだね」
不意にベンダーツさんはヴォルへ視線を向け、次に私へ笑みを向けます。
ポツリと呟いたヴォルの声に、ベンダーツさんが明るく反応したのには驚きました。その疲れを見せない内面の強さには感心してしまいます。
「は、はい。そう……みたいです」
私は呆気に取られながらも答えました。
実際には私も頭の中の声に教えてもらったのですが、理解出来ている訳ではありませんでした。
「そっかぁ、精霊ねぇ。……あ、なるほどね。だから身体の痛みが小さくなってきてるんだ。へぇ~」
時折、間を挟みながらのベンダーツさんの独り言です。──と言うか、誰かとお話ししているようでした。
お二人が回復しているのは良いのですが、妙な違和感を感じて私は首を傾げます。
いつもならもう少し──そういえば、戻ってきてからヴォルの声を一度しか聞いていませんでした。
〈あ、今あの人間はヴォルティと話してる〉
当たり前のように私の頭の中へ精霊さんの声が響きます。
そうでした──まだ他にもいつもと違うところがありました。普段は一人ツッコミ属性の私も、今は脳内で別の意思と会話をしているのです。人の事を言えませんでした。
「……メル」
静かに響いた声です。
不意に耳に届いた温かい声に、私は勢い良く顔を上げました。少し掠れていましたが、確かにヴォルの声です。
「……っ。ヴォル……っ」
私は途端に溢れた涙に、言葉まで奪われてしまいました。
自分に向けられた言葉で、急に感情が爆発してしまったようです。別に無視されていた訳でもないのに、私の心情的には直接声を掛けられる事に意味があるようでした。
それで感情のままにヴォルに抱き付きます。今までなんとなく近付きにくかった事もあり、私は二人から少し離れていたのでした。
「大丈夫、か?」
優しいヴォルの声です。
温かい手で頭をゆっくり撫でられ、私は言葉を失ってしまったかのように頷く事しか出来ませんでした。
「すまない、また……不安にさせた」
「……え、いいえ……っ。ヴォルが帰って来てくれただけで、それだけでもう大丈夫ですっ」
痛みを乗せたヴォルの声に、私は必死に首を横に振りながら言葉を紡ぎます。
首に抱き付いている私ですが、今は感情に身を任せているので羞恥心を何処かに置き忘れていました。
ただ──気持ちを、伝えたかったのです。
「俺も……、メルが無事で……」
言葉が途切れました。その先は私の唇に直接伝えられたのです。
力強く抱き締められ、全身からヴォルの熱が私へ入ってくるようでした。
「あの~……、俺の存在を忘れてないかなぁ。ここにもう一人いるんだけどぉ……?」
呆れたような照れたような声音です。
そうでした、ベンダーツさんがいるのでした。勝手に盛り上がってしまいましたが、今はヴォルと二人ではありません。
私は慌ててヴォルから放れようとしたのですが、しっかりと後頭部を押さえられていて動けませんでした。
──うぅ、ちょっ……舌が……っ!!
「……っ……ん……、ふ……っ」
意図せず声が漏れてしまいます。
──嫌~っ、恥ずかしいですっ!
暴れる私をよそに──と言っても大した抵抗は出来ませんでしたが、そのままヴォルの気が済むまでそれは続いたのでした。
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