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第十章
7.不得手を狙うしかない【5】
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願う願わざる関係なく、俺は魔力所持者としてこの世に生を受けた。母と暮らしていた幼少の頃はまだ市井の中に紛れていた分、幸福に暮らしていたのかもしれない。
だが城に連れていかれてからは、本当に息が詰まる程の窮屈さを感じた。同時に『精霊に好かれし者』とも呼ばれる。
初めはその言葉の意味が分からなかったが、この単語自体が蔑みを含んでいると気付いたのは比較的早くからだ。そして王城には魔力所持者が多くいるにも関わらず、彼等と自分では向けられる視線が違う事を知ったのはいつの頃だったか。
そうかといってどう呼ばれようが、魔力は俺にとって存在している事が当たり前のものだった。
物心ついた時から、精霊と魔法は常に背中合わせの状態だと知っていたのである。勿論教えてくれたのは精霊で、俺は人間達から遠巻きに扱われながらも様々な事柄を知識としていった。
身を守る為。抗う為。生命体としての本能だったのだろう。それも成長と共に、『諦め』という名の感情に誤魔化されていった。
そして今──俺の身体からその根源たる魔力が失われようとしている。
全身に渡る血の、その一滴残らず吸い出されようとしているかの如き喪失感。体温が下がっていくと同時に、己の思考が霞んでいくのを感じた。
身体が揺らめく。
──今、俺は何をしている?立って……いたよな?
己の現状が分からないまま、意識が揺蕩う水の中に沈んでいく──いや、浮いているのかも知れない不思議な感覚だった。
『ヴォル、しっかりしろよっ!まだ諦めるには早いだろっ?!』
ベンダーツが必死に叫んでいる。
だがそれも分厚い壁を挟んだ向こう側からの音のように聞こえ、全く現実感がなかった。
結界の障壁が一枚、また一枚と砕け散っていく。
──これが全部塵になったら、俺は少し楽になるのだろうか。……波瀾万丈の人生だったな。
思い返せば、メルに出会ってからの今までが、俺の人生の最高潮となる生だった。晩年は幸せだったと、見ず知らずの人に言われるかもしれない。でもそう考えると、何だか良い一生だったとも思え、自然と口角が上がった。
『ヴォルのアホっ!俺を置いて行くなよっ。そんな勝手、許さないからなっ?何を諦めてるんだよっ。確認もしてないだろっ。捜しに行くくらいの根性はないのかよっ。俺を置いて……逝くなよっ!!』
ベンダーツが泣いている気がした。
──しかしアイツも、俺の従者に選抜されてからは何かと大変だっただろう。
敵ばかりの城内では、自分の命までも狙われる。しかも主となった相手は、皆から嫌われ者の精霊つき魔力所持者だ。
血筋からしても本来ならペルニギュートの従者になれたんだろう。だが、先に俺が見つかったのがお互いの運の尽きだった。そう──妾でもない、庶民の血を引く子供の俺。
──あぁ、また一枚障壁が砕け散った。
周囲が見えていないのに、何故それだけが分かるんだろうか。この感覚、まるで夢の中にいるようだ。
──俺がいなくなったら、俺についていた精霊はどうするのか。……あぁ、精霊の世界に帰るのか。
そもそも精霊世界など、本当にあるのかは分からない。聞いた事もなかった。
俺が精霊と放れる時は死ぬ時だと割り切っていられたのは、いずれ魔法石にされる運命なのだと諦めていたから。
メルと出会う前の俺は、本当の意味で生きていなかった。──ただ時の流れに身を任せていただけ。
──メルがいないのなら、俺はいらない。
彼女の存在しない世界など、俺にとって何の価値もないのだから。
だが城に連れていかれてからは、本当に息が詰まる程の窮屈さを感じた。同時に『精霊に好かれし者』とも呼ばれる。
初めはその言葉の意味が分からなかったが、この単語自体が蔑みを含んでいると気付いたのは比較的早くからだ。そして王城には魔力所持者が多くいるにも関わらず、彼等と自分では向けられる視線が違う事を知ったのはいつの頃だったか。
そうかといってどう呼ばれようが、魔力は俺にとって存在している事が当たり前のものだった。
物心ついた時から、精霊と魔法は常に背中合わせの状態だと知っていたのである。勿論教えてくれたのは精霊で、俺は人間達から遠巻きに扱われながらも様々な事柄を知識としていった。
身を守る為。抗う為。生命体としての本能だったのだろう。それも成長と共に、『諦め』という名の感情に誤魔化されていった。
そして今──俺の身体からその根源たる魔力が失われようとしている。
全身に渡る血の、その一滴残らず吸い出されようとしているかの如き喪失感。体温が下がっていくと同時に、己の思考が霞んでいくのを感じた。
身体が揺らめく。
──今、俺は何をしている?立って……いたよな?
己の現状が分からないまま、意識が揺蕩う水の中に沈んでいく──いや、浮いているのかも知れない不思議な感覚だった。
『ヴォル、しっかりしろよっ!まだ諦めるには早いだろっ?!』
ベンダーツが必死に叫んでいる。
だがそれも分厚い壁を挟んだ向こう側からの音のように聞こえ、全く現実感がなかった。
結界の障壁が一枚、また一枚と砕け散っていく。
──これが全部塵になったら、俺は少し楽になるのだろうか。……波瀾万丈の人生だったな。
思い返せば、メルに出会ってからの今までが、俺の人生の最高潮となる生だった。晩年は幸せだったと、見ず知らずの人に言われるかもしれない。でもそう考えると、何だか良い一生だったとも思え、自然と口角が上がった。
『ヴォルのアホっ!俺を置いて行くなよっ。そんな勝手、許さないからなっ?何を諦めてるんだよっ。確認もしてないだろっ。捜しに行くくらいの根性はないのかよっ。俺を置いて……逝くなよっ!!』
ベンダーツが泣いている気がした。
──しかしアイツも、俺の従者に選抜されてからは何かと大変だっただろう。
敵ばかりの城内では、自分の命までも狙われる。しかも主となった相手は、皆から嫌われ者の精霊つき魔力所持者だ。
血筋からしても本来ならペルニギュートの従者になれたんだろう。だが、先に俺が見つかったのがお互いの運の尽きだった。そう──妾でもない、庶民の血を引く子供の俺。
──あぁ、また一枚障壁が砕け散った。
周囲が見えていないのに、何故それだけが分かるんだろうか。この感覚、まるで夢の中にいるようだ。
──俺がいなくなったら、俺についていた精霊はどうするのか。……あぁ、精霊の世界に帰るのか。
そもそも精霊世界など、本当にあるのかは分からない。聞いた事もなかった。
俺が精霊と放れる時は死ぬ時だと割り切っていられたのは、いずれ魔法石にされる運命なのだと諦めていたから。
メルと出会う前の俺は、本当の意味で生きていなかった。──ただ時の流れに身を任せていただけ。
──メルがいないのなら、俺はいらない。
彼女の存在しない世界など、俺にとって何の価値もないのだから。
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