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第十章
7.不得手を狙うしかない【3】
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己の居場所がなくなった事への怒りか、魔物は自我を忘れて暴れ始める。
『あっぶな……っ!』
その声に振り返ると、竜の光線を間一髪で避けたらしきベンダーツの間抜けな姿が見えた。
しかしながら、普通の人間ではあの反射速度での回避は不可能である。さすがだと誉めてやりたい気もするが、ベンダーツが調子に乗りそうなので口にするのをやめた。
『狂ってんなぁ、もうっ!』
怒りを顕わに睨み付けるベンダーツだが、所詮相手は話が通じない魔物である。
ひたすら頭や尾を振り回し、更にブレスと光線を周囲に放出しているただの脅威でしかなかった。
デタラメな攻撃なので回避は何とか出来るが、徐々に周囲の大陸を削り落としていっている。
ここは火山の噴火活動により出来上がって間もない島の為、海の上にある陸地が薄いのだ。
『ヴォル、このままだと……っ!』
『あぁ』
ベンダーツの言葉の意味しているところは分かる為、俺は苦い顔で素直に頷く。
このままでいくと島が沈むばかりか、隣のマグドリア大陸まで被害が及んでしまう事が予測された。
もしくは、現時点で既に大陸まで攻撃が届いているかもしれない。俺としては、特にマヌサワ村への被害はやめてほしかった。
『マークはメルの傍へ行け。俺はアレを鎮める』
それだけ伝えると俺は風の魔力を身に纏い、宙へ舞い上がる。
ベンダーツからの返事は聞いていないが、上空にいる魔物に攻撃が可能なのは俺だけだ。彼に渡してある魔法石すら、込められた魔力を使い果たせば砂となって消えてしまうのだから。
内心の苦い思いを隠しつつ視線を向けると、竜はその翼を羽ばたかせる事なく滞空していた。まさかとは思うが、魔物も風魔法を使っているのかも知れない。
そんな風に考えていると、不意に視線を感じた。その感覚から下を見ると、まだベンダーツがその場で俺を見上げていたのである。
『行け、マークっ。邪魔だ!』
心での叫びが通じるかは分からないが、俺は苛立ちものせた。
実際、ここに待機されても危険なだけだ。竜は今、見境なく周囲を攻撃してる。更には俺も周囲を慮ってはいられないのだ。
『分かった……』
腑に落ちない感じを目一杯見せているベンダーツである。
しかしながら、それでも良い。──ここからは魔力所持者の本気の戦いだ。
俺はベンダーツが背を向けたのを確認した後、手にしていた天の剣に土魔力を込めた宝石を取り付ける。先程水刃を放った時、効果なく打ち消された為の元素替えだ。
そして土の元素を吸収した天の剣は、岩のようにゴツゴツとした刃先に変化し、柄部分も長く伸びて槍のような形状へ変化する。
元素ごとのこういった変化も面白いものだが、残念ながら今は楽しんでいられる余裕はなかった。
『目標は対象物の停止』
俺は意識的にターゲットを明確に定める。そして槍へと形の変わった天の剣を構え、竜へ目掛けて突進した。
狂ったように暴れる魔物ではあるが、俺の殺気は感じている様子だった。俺は更に風を纏い、速度を増す。
しかしながら間合いに入った途端、突如巨大な口腔が俺へと向けられた。鋭く尖った牙が並ぶそこは、人一人など軽く飲み込んでしまう大きさである。
──不味い。
そう思った瞬間、俺は剣の魔力を解放していた。即座に目前に岩で出来た壁が現れ、俺の視界を塞ぐように聳え立つ。
同時に身体へ震動が伝わった。
竜の放った光線が俺の作り出した土魔法の壁に直撃。それを削り取るようにして衝撃が消える。
だがその直後、俺は再度土元素の魔法石を天の剣に乗せてから竜へ突進していた。──ヤられっぱなしでは癪に障る。
これまでの経験則に基づく予想通り、この魔物は光線を放ったすぐには次の攻撃を繰り出せないようだった。
『あっぶな……っ!』
その声に振り返ると、竜の光線を間一髪で避けたらしきベンダーツの間抜けな姿が見えた。
しかしながら、普通の人間ではあの反射速度での回避は不可能である。さすがだと誉めてやりたい気もするが、ベンダーツが調子に乗りそうなので口にするのをやめた。
『狂ってんなぁ、もうっ!』
怒りを顕わに睨み付けるベンダーツだが、所詮相手は話が通じない魔物である。
ひたすら頭や尾を振り回し、更にブレスと光線を周囲に放出しているただの脅威でしかなかった。
デタラメな攻撃なので回避は何とか出来るが、徐々に周囲の大陸を削り落としていっている。
ここは火山の噴火活動により出来上がって間もない島の為、海の上にある陸地が薄いのだ。
『ヴォル、このままだと……っ!』
『あぁ』
ベンダーツの言葉の意味しているところは分かる為、俺は苦い顔で素直に頷く。
このままでいくと島が沈むばかりか、隣のマグドリア大陸まで被害が及んでしまう事が予測された。
もしくは、現時点で既に大陸まで攻撃が届いているかもしれない。俺としては、特にマヌサワ村への被害はやめてほしかった。
『マークはメルの傍へ行け。俺はアレを鎮める』
それだけ伝えると俺は風の魔力を身に纏い、宙へ舞い上がる。
ベンダーツからの返事は聞いていないが、上空にいる魔物に攻撃が可能なのは俺だけだ。彼に渡してある魔法石すら、込められた魔力を使い果たせば砂となって消えてしまうのだから。
内心の苦い思いを隠しつつ視線を向けると、竜はその翼を羽ばたかせる事なく滞空していた。まさかとは思うが、魔物も風魔法を使っているのかも知れない。
そんな風に考えていると、不意に視線を感じた。その感覚から下を見ると、まだベンダーツがその場で俺を見上げていたのである。
『行け、マークっ。邪魔だ!』
心での叫びが通じるかは分からないが、俺は苛立ちものせた。
実際、ここに待機されても危険なだけだ。竜は今、見境なく周囲を攻撃してる。更には俺も周囲を慮ってはいられないのだ。
『分かった……』
腑に落ちない感じを目一杯見せているベンダーツである。
しかしながら、それでも良い。──ここからは魔力所持者の本気の戦いだ。
俺はベンダーツが背を向けたのを確認した後、手にしていた天の剣に土魔力を込めた宝石を取り付ける。先程水刃を放った時、効果なく打ち消された為の元素替えだ。
そして土の元素を吸収した天の剣は、岩のようにゴツゴツとした刃先に変化し、柄部分も長く伸びて槍のような形状へ変化する。
元素ごとのこういった変化も面白いものだが、残念ながら今は楽しんでいられる余裕はなかった。
『目標は対象物の停止』
俺は意識的にターゲットを明確に定める。そして槍へと形の変わった天の剣を構え、竜へ目掛けて突進した。
狂ったように暴れる魔物ではあるが、俺の殺気は感じている様子だった。俺は更に風を纏い、速度を増す。
しかしながら間合いに入った途端、突如巨大な口腔が俺へと向けられた。鋭く尖った牙が並ぶそこは、人一人など軽く飲み込んでしまう大きさである。
──不味い。
そう思った瞬間、俺は剣の魔力を解放していた。即座に目前に岩で出来た壁が現れ、俺の視界を塞ぐように聳え立つ。
同時に身体へ震動が伝わった。
竜の放った光線が俺の作り出した土魔法の壁に直撃。それを削り取るようにして衝撃が消える。
だがその直後、俺は再度土元素の魔法石を天の剣に乗せてから竜へ突進していた。──ヤられっぱなしでは癪に障る。
これまでの経験則に基づく予想通り、この魔物は光線を放ったすぐには次の攻撃を繰り出せないようだった。
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