「結婚しよう」

まひる

文字の大きさ
上 下
488 / 515
第十章

7.不得手を狙うしかない【3】

しおりを挟む
 己の居場所がなくなった事への怒りか、魔物は自我を忘れて暴れ始める。

『あっぶな……っ!』

 その声に振り返ると、竜の光線を間一髪でけたらしきベンダーツの間抜けな姿が見えた。
 しかしながら、普通の人間ではあの反射速度での回避は不可能である。さすがだと誉めてやりたい気もするが、ベンダーツが調子に乗りそうなので口にするのをやめた。

『狂ってんなぁ、もうっ!』

 怒りをあらわに睨み付けるベンダーツだが、所詮しょせん相手は話が通じない魔物である。
 ひたすら頭や尾を振り回し、更にブレスと光線を周囲に放出しているただの脅威でしかなかった。
 デタラメな攻撃なので回避は何とか出来るが、徐々に周囲の大陸を削り落としていっている。
 ここは火山の噴火活動により出来上がって間もない島の為、海の上にある陸地が薄いのだ。

『ヴォル、このままだと……っ!』

『あぁ』

 ベンダーツの言葉の意味しているところは分かる為、俺は苦い顔で素直に頷く。
 このままでいくと島が沈むばかりか、隣のマグドリア大陸まで被害が及んでしまう事が予測された。
 もしくは、現時点で既に大陸まで攻撃が届いているかもしれない。俺としては、特にマヌサワ村への被害はやめてほしかった。

『マークはメルのそばへ行け。俺はアレをしずめる』

 それだけ伝えると俺は風の魔力を身にまとい、ちゅうへ舞い上がる。
 ベンダーツからの返事は聞いていないが、上空にいる魔物に攻撃が可能なのは俺だけだ。彼に渡してある魔法石すら、込められた魔力を使い果たせば砂となって消えてしまうのだから。
 内心の苦い思いを隠しつつ視線を向けると、竜はその翼を羽ばたかせる事なく滞空していた。まさかとは思うが、魔物コレも風魔法を使っているのかも知れない。
 そんな風に考えていると、不意に視線を感じた。その感覚から下を見ると、まだベンダーツがその場で俺を見上げていたのである。

『行け、マークっ。邪魔だ!』

 心での叫びが通じるかは分からないが、俺は苛立ちものせた。
 実際、ここに待機されても危険なだけだ。竜は今、見境なく周囲を攻撃してる。更には俺も周囲をおもんぱかってはいられないのだ。

『分かった……』

 に落ちない感じを目一杯見せているベンダーツである。
 しかしながら、それでも良い。──ここからは魔力所持者の本気の戦いだ。
 俺はベンダーツが背を向けたのを確認した後、手にしていた天の剣ラミナに土魔力を込めた宝石を取り付ける。先程水刃を放った時、効果なく打ち消された為の元素替えだ。
 そして土の元素を吸収した天の剣ラミナは、岩のようにゴツゴツとした刃先に変化し、つか部分も長く伸びて槍のような形状へ変化する。
 元素ごとのこういった変化も面白いものだが、残念ながら今は楽しんでいられる余裕はなかった。

『目標は対象物の停止』

 俺は意識的にターゲットを明確にさだめる。そして槍へと形の変わった天の剣ラミナを構え、竜へ目掛けて突進した。
 狂ったように暴れる魔物ではあるが、俺の殺気は感じている様子だった。俺は更に風をまとい、速度を増す。
 しかしながら間合いに入った途端、突如とつじょ巨大な口腔が俺へと向けられた。鋭く尖った牙が並ぶそこは、人一人など軽く飲み込んでしまう大きさである。
 ──不味まずい。
 そう思った瞬間、俺は剣の魔力を解放していた。即座に目前に岩で出来た壁が現れ、俺の視界を塞ぐようにそびえ立つ。
 同時に身体へ震動が伝わった。
 竜の放った光線が俺の作り出した土魔法の壁に直撃。それを削り取るようにして衝撃が消える。
 だがその直後、俺は再度土元素の魔法石を天の剣ラミナに乗せてから竜へ突進していた。──ヤられっぱなしではしゃくさわる。
 これまでの経験則に基づく予想通り、この魔物は光線を放ったすぐには次の攻撃を繰り出せないようだった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

悪妃になんて、ならなきゃよかった

よつば猫
恋愛
表紙のめちゃくちゃ素敵なイラストは、二ノ前ト月先生からいただきました✨🙏✨ 恋人と引き裂かれたため、悪妃になって離婚を狙っていたヴィオラだったが、王太子の溺愛で徐々に……

誰にも言えないあなたへ

天海月
恋愛
子爵令嬢のクリスティーナは心に決めた思い人がいたが、彼が平民だという理由で結ばれることを諦め、彼女の事を見初めたという騎士で伯爵のマリオンと婚姻を結ぶ。 マリオンは家格も高いうえに、優しく美しい男であったが、常に他人と一線を引き、妻であるクリスティーナにさえ、どこか壁があるようだった。 年齢が離れている彼にとって自分は子供にしか見えないのかもしれない、と落ち込む彼女だったが・・・マリオンには誰にも言えない秘密があって・・・。

王宮勤めにも色々ありまして

あとさん♪
恋愛
スカーレット・フォン・ファルケは王太子の婚約者の専属護衛の近衛騎士だ。 そんな彼女の元婚約者が、園遊会で見知らぬ女性に絡んでる·····? おいおい、と思っていたら彼女の護衛対象である公爵令嬢が自らあの馬鹿野郎に近づいて····· 危険です!私の後ろに! ·····あ、あれぇ? ※シャティエル王国シリーズ2作目! ※拙作『相互理解は難しい(略)』の2人が出ます。 ※小説家になろうにも投稿しております。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

新しい人生を貴方と

緑谷めい
恋愛
 私は公爵家令嬢ジェンマ・アマート。17歳。  突然、マリウス王太子殿下との婚約が白紙になった。あちらから婚約解消の申し入れをされたのだ。理由は王太子殿下にリリアという想い人ができたこと。  2ヵ月後、父は私に縁談を持って来た。お相手は有能なイケメン財務大臣コルトー侯爵。ただし、私より13歳年上で婚姻歴があり8歳の息子もいるという。 * 主人公は寛容です。王太子殿下に仕返しを考えたりはしません。

【完結】夫が私に魅了魔法をかけていたらしい

綺咲 潔
恋愛
公爵令嬢のエリーゼと公爵のラディリアスは2年前に結婚して以降、まるで絵に描いたように幸せな結婚生活を送っている。 そのはずなのだが……最近、何だかラディリアスの様子がおかしい。 気になったエリーゼがその原因を探ってみると、そこには女の影が――? そんな折、エリーゼはラディリアスに呼び出され、思いもよらぬ告白をされる。 「君が僕を好いてくれているのは、魅了魔法の効果だ。つまり……本当の君は僕のことを好きじゃない」   私が夫を愛するこの気持ちは偽り? それとも……。 *全17話で完結予定。

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

【完結】消された第二王女は隣国の王妃に熱望される

風子
恋愛
ブルボマーナ国の第二王女アリアンは絶世の美女だった。 しかし側妃の娘だと嫌われて、正妃とその娘の第一王女から虐げられていた。 そんな時、隣国から王太子がやって来た。 王太子ヴィルドルフは、アリアンの美しさに一目惚れをしてしまう。 すぐに婚約を結び、結婚の準備を進める為に帰国したヴィルドルフに、突然の婚約解消の連絡が入る。 アリアンが王宮を追放され、修道院に送られたと知らされた。 そして、新しい婚約者に第一王女のローズが決まったと聞かされるのである。 アリアンを諦めきれないヴィルドルフは、お忍びでアリアンを探しにブルボマーナに乗り込んだ。 そしてある夜、2人は運命の再会を果たすのである。

処理中です...