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第十章
7.不得手を狙うしかない【2】
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あの蜥蜴──やってくれる。
さっきまで俺はこの火山を粉砕する為、かなりの魔力を左手に集めていたのだ。それが霧散してしまったという事実に、かなりの苛立ちを覚える。
大気に散々になった魔力元素は魔力所持者であれば誰でも集められるのだが、その身に溜め込むまでに何しろ時間が掛かるのだ。
『ヴォル、アイツが凍り付いて来たよっ!』
ベンダーツの嬉しそうな声で我に返る。
魔力の自然回復まで待っていられる余裕はなかった。
『……あぁ。鱗が変色してきたら砕ける前兆だ。目一杯撃ち込んでおけ』
『了解~。丸裸にしてやるっ!』
俺は気力を奮い立たせ、ベンダーツを煽ってやる。
実際に活を入れられたのは自分の方なのだが、僅かでも気持ちで負けそうになったと悟られたくはなかった。
そして俺は、再度火山へ鋭い視線を向ける。山に恨みはないが、現状を打開する為に必要な破壊だ。
最後となった魔力を込めた宝石を取り出し、噛み砕く。ガリッと砕かれたそれは、即座に俺の魔力となって充填されていった。勿論味はないのだが、気持ち『苦く』感じた事は事実である。
この火山を崩壊させたとしても、あの魔物が滅する訳ではないのだ。それでもここまで力の差があるならば、やれるだけの事をやるのみ。半永久的に回復されては俺の魔力が尽きるだけだ。
魔力を使い果たせば『魔力所持者』は役立たずとなる。それならば『俺』は。
──フッ。知れた事。
俺は、俺だ。
頭の中でメルの声がリフレインする。そして迷いが消えた。やらなければならない。──彼女の傍に戻る為にもだ。
俺は再び左手に氷の魔力を集中させる。
『やるぞ!』
魔物がベンダーツへ掛かりっきりになっている隙に、俺は巨大な氷の玉を作り上げた。そして山肌へ向けて放つ。
魔物は魔法に反応をしたものの、避けたり攻撃したりする余裕はないようだった。それくらいタイミング良く、ベンダーツの攻撃がなされていたのである。
そうして放たれた白く輝く魔法球は深々と大地にめり込み──一瞬の静寂が訪れた。
『マーク、伏せろ!』
次に起こる展開を予想し、俺はベンダーツへ警告を促す。その一拍後、ドン──という震動が身体を通して伝わってきた。
グツグツ、グラグラと立っていられない程に大地が鳴動している。──と、次の瞬間に全てが吹き飛んだ。
元より俺に音は聞こえなかったが、身体中に有り得ない程の衝撃波を感じる。
結界の障壁を再度十枚にしてあったが、この距離で水蒸気爆発の直撃を浴びる気は毛頭なかった。
近くにベンダーツもいる為、俺は火山一帯を覆う結界を即座に作る。──だがそれは、予想以上の爆発だった。
身体に響く振動と強烈な光の洪水が、俺の感覚の全てを覆い尽くす。
そして周囲の視界を取り戻した時、辺りの景色が一変した事に少なからず驚いた。──目前に立ち塞がっていた山が跡形もなくなり、小さな島の景色が広がっていたのである。
今視界に映るのは、小高い丘程度の土砂とその奥の海だ。熔岩すら見えない。
『ヒュー、さすがだねぇ』
ベンダーツの茶化した声が聞こえた。
姿は確認出来ないが、声音から無事である事は分かった。
『生きてる……な』
俺は溜め息と共に言葉を吐き出す。そして俺は感じた魔力に視線を上げた。
当たり前のように魔物が滞空している。だが決して無傷ではない竜が、空中にその全身を表していた。
頑丈な筈の身体は鱗が剥がれ落ち、肉体的にも半分以上の黒く焦げた部位は確認出来る。
ベンダーツが攻撃によって落とした赤い鱗の下、火の耐性が低い内側にダメージが見てとれたのは快挙だ。
『まだやれる?』
『やるしかないからな』
ベンダーツの問いに、俺は自嘲気味に答える。
そうだ。やれるかどうか──ではなく、やるしかないのである。
さっきまで俺はこの火山を粉砕する為、かなりの魔力を左手に集めていたのだ。それが霧散してしまったという事実に、かなりの苛立ちを覚える。
大気に散々になった魔力元素は魔力所持者であれば誰でも集められるのだが、その身に溜め込むまでに何しろ時間が掛かるのだ。
『ヴォル、アイツが凍り付いて来たよっ!』
ベンダーツの嬉しそうな声で我に返る。
魔力の自然回復まで待っていられる余裕はなかった。
『……あぁ。鱗が変色してきたら砕ける前兆だ。目一杯撃ち込んでおけ』
『了解~。丸裸にしてやるっ!』
俺は気力を奮い立たせ、ベンダーツを煽ってやる。
実際に活を入れられたのは自分の方なのだが、僅かでも気持ちで負けそうになったと悟られたくはなかった。
そして俺は、再度火山へ鋭い視線を向ける。山に恨みはないが、現状を打開する為に必要な破壊だ。
最後となった魔力を込めた宝石を取り出し、噛み砕く。ガリッと砕かれたそれは、即座に俺の魔力となって充填されていった。勿論味はないのだが、気持ち『苦く』感じた事は事実である。
この火山を崩壊させたとしても、あの魔物が滅する訳ではないのだ。それでもここまで力の差があるならば、やれるだけの事をやるのみ。半永久的に回復されては俺の魔力が尽きるだけだ。
魔力を使い果たせば『魔力所持者』は役立たずとなる。それならば『俺』は。
──フッ。知れた事。
俺は、俺だ。
頭の中でメルの声がリフレインする。そして迷いが消えた。やらなければならない。──彼女の傍に戻る為にもだ。
俺は再び左手に氷の魔力を集中させる。
『やるぞ!』
魔物がベンダーツへ掛かりっきりになっている隙に、俺は巨大な氷の玉を作り上げた。そして山肌へ向けて放つ。
魔物は魔法に反応をしたものの、避けたり攻撃したりする余裕はないようだった。それくらいタイミング良く、ベンダーツの攻撃がなされていたのである。
そうして放たれた白く輝く魔法球は深々と大地にめり込み──一瞬の静寂が訪れた。
『マーク、伏せろ!』
次に起こる展開を予想し、俺はベンダーツへ警告を促す。その一拍後、ドン──という震動が身体を通して伝わってきた。
グツグツ、グラグラと立っていられない程に大地が鳴動している。──と、次の瞬間に全てが吹き飛んだ。
元より俺に音は聞こえなかったが、身体中に有り得ない程の衝撃波を感じる。
結界の障壁を再度十枚にしてあったが、この距離で水蒸気爆発の直撃を浴びる気は毛頭なかった。
近くにベンダーツもいる為、俺は火山一帯を覆う結界を即座に作る。──だがそれは、予想以上の爆発だった。
身体に響く振動と強烈な光の洪水が、俺の感覚の全てを覆い尽くす。
そして周囲の視界を取り戻した時、辺りの景色が一変した事に少なからず驚いた。──目前に立ち塞がっていた山が跡形もなくなり、小さな島の景色が広がっていたのである。
今視界に映るのは、小高い丘程度の土砂とその奥の海だ。熔岩すら見えない。
『ヒュー、さすがだねぇ』
ベンダーツの茶化した声が聞こえた。
姿は確認出来ないが、声音から無事である事は分かった。
『生きてる……な』
俺は溜め息と共に言葉を吐き出す。そして俺は感じた魔力に視線を上げた。
当たり前のように魔物が滞空している。だが決して無傷ではない竜が、空中にその全身を表していた。
頑丈な筈の身体は鱗が剥がれ落ち、肉体的にも半分以上の黒く焦げた部位は確認出来る。
ベンダーツが攻撃によって落とした赤い鱗の下、火の耐性が低い内側にダメージが見てとれたのは快挙だ。
『まだやれる?』
『やるしかないからな』
ベンダーツの問いに、俺は自嘲気味に答える。
そうだ。やれるかどうか──ではなく、やるしかないのである。
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