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第十章
6.逃げろっ【4】
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ベンダーツは汗と砂埃で黒ずんではいるものの、大きな負傷をしていなさそうである。──と言うか、良くここまで来れたなと変に感心してしまった。
当初コイツは麓にいた筈だし、山肌自体火山口から流れ出た溶岩で未だ熱を持っている。
徒歩で山を登るのは、少々ではなく酷な環境だった。それに視界を塞ぐ木々などがある訳でもないので、最悪の場合山頂から狙い撃ちされる危険があった筈である。
「ったく、あの魔物……本当に冗談じゃないよな」
山頂を見上げたベンダーツは、苦笑混じりに何かを告げた。
──コイツ、俺が聞こえないと分かっていての独り言か。
苛立ちから、俺は思わずベンダーツを睨み付ける。
「あ、そう言えばこのリング………心で喋っても聞こえるみたいだよ?』
途中から、直接頭に響くようにベンダーツの声が聞こえた。
一瞬何が起こったか把握出来ず、気持ちの悪い感じがする。
『俺の声、聞こえてるでしょ?』
目を見開いた俺に、ニヤッと音のしそうな笑みを向けてくるベンダーツだった。
『……聞こえる』
俺は半信半疑ながらも、ベンダーツに向けて心の中で語りかけてみる。
とはいっても、思う事と口に出す事の違いが分からなかった。
『うん、聞こえた。ちなみに、ヴォルが色々言っていたのも聞こえてたから』
そう言って、ベンダーツは意地の悪そうな笑いを浮かべる。
──色々って何だ、色々って。
何が届いたのかは不明だが、何かしら聞こえていたようである。だが明確な違いが分からないのは事実である為、内心の吐露を本当に聞かれていないと否定出来なかった。
『俺の……声』
果たして何処まで伝わってしまっているものだろうか。
その時々で何を考えたかなど、後になって覚えていないものだ。更に言えば口に出さない事は可能でも、思考を止める事は出来ない。
『フフッ、冗談だよ。そんな驚いた顔しちゃってぇ。大体そんなんじゃ、俺の考えも駄々漏れになるでしょ?あ~、そんなに怒らないでよ』
声を出して笑うベンダーツ──俺には聞こえないが──に、苛立ちを隠さずに鋭い視線を向けた。
それに対し、漸くベンダーツが慌てたように両手を上げて降参の姿勢をする。
しかしながら、これすらも冗談か本気かの区別はつかなかった。
──ダメだ、考えても分からない。
とにかく、口にするようなイメージで良いのだろうと思う事にする。
『いつもは聞こえないから、この島の魔力がやたらと高いからかな?』
俺の思いに反応する事なく、ベンダーツが周囲を見回しながら告げた。
やはり、全ての思考が伝わる訳ではなさそうである。いや、これすらも聞いていない振りかもしれなかった。と言うか、仮に全てが伝わるならば不味いのだ──色々と。
待て、この問題は置いておくとして──今、ベンダーツは何を指摘した。
『……魔力が見えるのか』
『まさか、それはないよ。けど、空気が違うって言うのかな?あくまで俺の感覚なんだけどね』
事も無げにベンダーツは告げる。
しかし、それこそが魔力所持者の本来あるべき資質でもあった。もしかすると、非能力者のベンダーツでも感じる程の魔力の濃さなのかもしれない。
『まぁ、こうしてのんびり話している場合でもないんだけどね』
頭に響く音は緊迫感を感じさせなかった。
それでもベンダーツが何を告げたいのか分かり、俺も視線を移した先を見る。
そこには、依然としてこちらを観察している竜が見えた。先程の光線を回避した事より、新たな人間の登場に興味を持ったようでもある。
『今いるこの位置から下がると、先程の光線攻撃が来る。アレが何を考えているのかは分からないが、俺達人間を観察しているようだ。攻撃自体も決定的なものが連発出来ないのか、今のところしてはこない』
俺は天の剣を構えながら告げた。
これまで戦闘をしてきての感想である。現に今も、俺達を殺そうと思えば攻撃可能な筈だからだ。
当初コイツは麓にいた筈だし、山肌自体火山口から流れ出た溶岩で未だ熱を持っている。
徒歩で山を登るのは、少々ではなく酷な環境だった。それに視界を塞ぐ木々などがある訳でもないので、最悪の場合山頂から狙い撃ちされる危険があった筈である。
「ったく、あの魔物……本当に冗談じゃないよな」
山頂を見上げたベンダーツは、苦笑混じりに何かを告げた。
──コイツ、俺が聞こえないと分かっていての独り言か。
苛立ちから、俺は思わずベンダーツを睨み付ける。
「あ、そう言えばこのリング………心で喋っても聞こえるみたいだよ?』
途中から、直接頭に響くようにベンダーツの声が聞こえた。
一瞬何が起こったか把握出来ず、気持ちの悪い感じがする。
『俺の声、聞こえてるでしょ?』
目を見開いた俺に、ニヤッと音のしそうな笑みを向けてくるベンダーツだった。
『……聞こえる』
俺は半信半疑ながらも、ベンダーツに向けて心の中で語りかけてみる。
とはいっても、思う事と口に出す事の違いが分からなかった。
『うん、聞こえた。ちなみに、ヴォルが色々言っていたのも聞こえてたから』
そう言って、ベンダーツは意地の悪そうな笑いを浮かべる。
──色々って何だ、色々って。
何が届いたのかは不明だが、何かしら聞こえていたようである。だが明確な違いが分からないのは事実である為、内心の吐露を本当に聞かれていないと否定出来なかった。
『俺の……声』
果たして何処まで伝わってしまっているものだろうか。
その時々で何を考えたかなど、後になって覚えていないものだ。更に言えば口に出さない事は可能でも、思考を止める事は出来ない。
『フフッ、冗談だよ。そんな驚いた顔しちゃってぇ。大体そんなんじゃ、俺の考えも駄々漏れになるでしょ?あ~、そんなに怒らないでよ』
声を出して笑うベンダーツ──俺には聞こえないが──に、苛立ちを隠さずに鋭い視線を向けた。
それに対し、漸くベンダーツが慌てたように両手を上げて降参の姿勢をする。
しかしながら、これすらも冗談か本気かの区別はつかなかった。
──ダメだ、考えても分からない。
とにかく、口にするようなイメージで良いのだろうと思う事にする。
『いつもは聞こえないから、この島の魔力がやたらと高いからかな?』
俺の思いに反応する事なく、ベンダーツが周囲を見回しながら告げた。
やはり、全ての思考が伝わる訳ではなさそうである。いや、これすらも聞いていない振りかもしれなかった。と言うか、仮に全てが伝わるならば不味いのだ──色々と。
待て、この問題は置いておくとして──今、ベンダーツは何を指摘した。
『……魔力が見えるのか』
『まさか、それはないよ。けど、空気が違うって言うのかな?あくまで俺の感覚なんだけどね』
事も無げにベンダーツは告げる。
しかし、それこそが魔力所持者の本来あるべき資質でもあった。もしかすると、非能力者のベンダーツでも感じる程の魔力の濃さなのかもしれない。
『まぁ、こうしてのんびり話している場合でもないんだけどね』
頭に響く音は緊迫感を感じさせなかった。
それでもベンダーツが何を告げたいのか分かり、俺も視線を移した先を見る。
そこには、依然としてこちらを観察している竜が見えた。先程の光線を回避した事より、新たな人間の登場に興味を持ったようでもある。
『今いるこの位置から下がると、先程の光線攻撃が来る。アレが何を考えているのかは分からないが、俺達人間を観察しているようだ。攻撃自体も決定的なものが連発出来ないのか、今のところしてはこない』
俺は天の剣を構えながら告げた。
これまで戦闘をしてきての感想である。現に今も、俺達を殺そうと思えば攻撃可能な筈だからだ。
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