「結婚しよう」

まひる

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第十章

≪Ⅵ≫逃げろっ【1】

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 竜の外的損傷は、すでに体表の五割を超える程になっている。だが同時に、俺の残存魔力もかなり消耗していた。
 そんな事を思考の片隅で思っていると、魔物に当てた一撃の直後に動きがある。竜がその巨大な翼をこれまで以上に広げたのだ。
 口を大きく開き、咆哮ほうこうしているようにも見える。生憎あいにくと音は聞こえないが、周囲の空気が震えている事は感じられた。
 音が聞こえない不利に眉根を寄せつつ、俺は攻撃の手を止めて魔物の動きを見極めようとする。
 そしてそれは──飛んだ。幾度も翼で空気を打ち、その巨体がちゅうに浮き上がっていく。
 やはり飛べるのかと思っていると、不意に白い閃光が竜へ向かって飛んできた。だが攻撃が当たる直前に一際ひときわ大きく羽ばたいた魔物は、その閃光のはるか上空に飛び上がっていたのである。
 白い閃光は風の魔力──ベンダーツが放った、俺の風魔法の矢だった。これまでも幾度となくその攻撃を受けていた魔物だが、体表を覆ううろこがなければ苦痛なのかもしれない。
 しかしながらあれ程力を込めたのならば、最早もはや魔法石は崩壊してしまっているかもしれない──などと思考に沈みかけた時、再び空気が大きく震えた。
 竜の咆哮ほうこうなのは分かるが──と、魔物の視線の先を追ってみた。
 そこには火山の中央に存在する赤と茶の斑模様をした球体、そしてそれに突き刺さる魔法の矢。
 ──卵……?
 予想外の展開に思考が停止する中、ピリピリと魔法の矢を中心に殻がひび割れていく。
 グパッ──音が聞こえたら、そんな感じではないだろうか。
 割れた中から赤黒い何かがあふれ、そして火山の中に消えていった。
 突如襲い掛かる威圧感。
 先程までの敵意はたわむれだったと言わんばかりの、高圧的な殺意が広がる。

「逃げろっ!!」

 勢い良く矢が飛んできた──ベンダーツのいると思われる方向へ顔を向け、俺は叫んでいた。
 だが、音速は光速よりもはるかに遅い。そもそも聞こえていたとしても、避ける事など不可能だった。
 周囲が異常に白く光ったかと思うと、俺の視線の先へ何かが飛ばされる。それは──光線。
 今まで見たブレスなどとは比べ物にならない質量だった。
 一気いっきに周辺の大地が吹き飛び、き消える。
 えぐられた大地を海が洗い、いびつになった地形に白い波が立っていた。

「ベ……ダー……?」

 音の聞こえない俺の耳では判別が出来なかったが、自然と声が漏れてしまった──と思う。
 実際に姿が見える程の距離ではなかった為、正確な場所ではなかったかもしれない。だが──。
 次の瞬間、俺の意識とは別に身体が反応した。先程と同様の光線が、俺のすぐ目の前を通過したのである。

「っ!!」

 目を見開いて息を呑むが、けられたのは一度だけだった。
 竜へ意識を戻した時には既に遅く、次の光線が真正面からぶつかってくる。とてもではないが対応出来なかった。
 視界が白く塗り潰される。熱波が身体を包み込んだ。
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