460 / 515
第十章
1.思うようにいかない【5】
しおりを挟む
「もう身体は平気なのか。横にならなくて良いか」
ヴォルに肩を抱かれ、引き寄せられます。
不安げな声音が色っぽいのですが、ここで悶えては変態っぽいので我慢でした。
なるべく平生を装いつつ、ヴォルを見上げて答えます。
「あ、はい」
何とか笑みを返せました。
と言うか体調不良ではなく、先程はヴォルの笑顔に当てられただけなので──などとは言えません。
「無理しないでよね、メル。君が倒れたりしたら、また俺がヴォルを宥めなきゃいけないのが大変なんだからさ」
「煩い」
ムッとするヴォルと、からかいを含んだベンダーツさんでした。
想像するに、いつもの過保護な彼が取り乱してしまうと事なのでしょう。でも私はそういうヴォルも普段見せてくれない分、新鮮な感じで好きでした。
──とても口には出して言えませんが。
「とにかく、部屋の外に出るのはヴォルか俺と一緒の時にしてね?狂暴な奴じゃなくても、男は全員危ないからさ」
「お前も男だろ」
「当たり前じゃん。でも俺はまだ死にたくはないからね。ヴォルのメルには手を出さないよ?」
笑顔で言って退けるベンダーツさんは、ヴォルの煽りどころを熟知しています。
本気で怒る手前の、それでもムッとする以上の感情を刺激する事が得意のようでした。
「お前……」
「あ、ほら。そんな怖い顔をしてると、メルに避けられちゃうぞ?」
ほら、また笑顔でヴォルをからかいます。
でもこれ、ヴォルの感情を揺さぶる方法の一つなのではないかと最近思い始めました。結果的に、ヴォルの感情表現が豊かになってきているのは事実なのですから。
「……メル、コイツを追い出すか?」
「あ……はは……」
ヴォルが私に確認をしてきますが、本気度合いが強い気がするのです。
けれども実際、完全に突き放す事はしないヴォルでした。何だかんだ言いつつも、仲の良い二人です。
「ほら……マークさんがいないと、安心して食べられる美味しい食事に困るではないですか」
今度は私がヴォルを宥める事にしました。
本人を前に、こんな事を言うのも失礼かもしれません。でもベンダーツさんの作るお城の料理的な美味しいご馳走を食べ続けていたら、誰だって同じように思うと予想されました。
この魔封石を使っている船内で、根本的にヴォルは魔法を使えません。そうなると、必然的に食堂へ行かざるを得ないのです。
しかしながら食堂は色々な人がくるので、この目立つ二人にどういう対応がされるのかかなり不安でした。
「食事……。そうだな」
「えぇっ!?俺って、食事係?……そりゃないよぉ、酷いよぉメルぅ」
ブツブツと呟きながらふて腐れてしまったベンダーツさんです。そんな様子を見て、私は自然とヴォルと顔を見合わせて笑いました。
本当に、自分だけの考えや気持ちだけではどうにもならない事はたくさんあります。それでもこの旅で、周りの人からあたえられる感情や思いというものはかけがえのないものだと知りました。
一人では予測のつかない事が本当に多いのです。笑い、涙──怒りでさえ、とても愛おしい感情でした。
私はこの様な自分を知り、これからも大切にしたいと思ったのです。
ヴォルに肩を抱かれ、引き寄せられます。
不安げな声音が色っぽいのですが、ここで悶えては変態っぽいので我慢でした。
なるべく平生を装いつつ、ヴォルを見上げて答えます。
「あ、はい」
何とか笑みを返せました。
と言うか体調不良ではなく、先程はヴォルの笑顔に当てられただけなので──などとは言えません。
「無理しないでよね、メル。君が倒れたりしたら、また俺がヴォルを宥めなきゃいけないのが大変なんだからさ」
「煩い」
ムッとするヴォルと、からかいを含んだベンダーツさんでした。
想像するに、いつもの過保護な彼が取り乱してしまうと事なのでしょう。でも私はそういうヴォルも普段見せてくれない分、新鮮な感じで好きでした。
──とても口には出して言えませんが。
「とにかく、部屋の外に出るのはヴォルか俺と一緒の時にしてね?狂暴な奴じゃなくても、男は全員危ないからさ」
「お前も男だろ」
「当たり前じゃん。でも俺はまだ死にたくはないからね。ヴォルのメルには手を出さないよ?」
笑顔で言って退けるベンダーツさんは、ヴォルの煽りどころを熟知しています。
本気で怒る手前の、それでもムッとする以上の感情を刺激する事が得意のようでした。
「お前……」
「あ、ほら。そんな怖い顔をしてると、メルに避けられちゃうぞ?」
ほら、また笑顔でヴォルをからかいます。
でもこれ、ヴォルの感情を揺さぶる方法の一つなのではないかと最近思い始めました。結果的に、ヴォルの感情表現が豊かになってきているのは事実なのですから。
「……メル、コイツを追い出すか?」
「あ……はは……」
ヴォルが私に確認をしてきますが、本気度合いが強い気がするのです。
けれども実際、完全に突き放す事はしないヴォルでした。何だかんだ言いつつも、仲の良い二人です。
「ほら……マークさんがいないと、安心して食べられる美味しい食事に困るではないですか」
今度は私がヴォルを宥める事にしました。
本人を前に、こんな事を言うのも失礼かもしれません。でもベンダーツさんの作るお城の料理的な美味しいご馳走を食べ続けていたら、誰だって同じように思うと予想されました。
この魔封石を使っている船内で、根本的にヴォルは魔法を使えません。そうなると、必然的に食堂へ行かざるを得ないのです。
しかしながら食堂は色々な人がくるので、この目立つ二人にどういう対応がされるのかかなり不安でした。
「食事……。そうだな」
「えぇっ!?俺って、食事係?……そりゃないよぉ、酷いよぉメルぅ」
ブツブツと呟きながらふて腐れてしまったベンダーツさんです。そんな様子を見て、私は自然とヴォルと顔を見合わせて笑いました。
本当に、自分だけの考えや気持ちだけではどうにもならない事はたくさんあります。それでもこの旅で、周りの人からあたえられる感情や思いというものはかけがえのないものだと知りました。
一人では予測のつかない事が本当に多いのです。笑い、涙──怒りでさえ、とても愛おしい感情でした。
私はこの様な自分を知り、これからも大切にしたいと思ったのです。
0
お気に入りに追加
405
あなたにおすすめの小説
皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
公爵閣下の契約妻
秋津冴
恋愛
呪文を唱えるよりも、魔法の力を封じ込めた『魔石』を活用することが多くなった、そんな時代。
伯爵家の次女、オフィーリナは十六歳の誕生日、いきなり親によって婚約相手を決められてしまう。
実家を継ぐのは姉だからと生涯独身を考えていたオフィーリナにとっては、寝耳に水の大事件だった。
しかし、オフィーリナには結婚よりもやりたいことがあった。
オフィーリナには魔石を加工する才能があり、幼い頃に高名な職人に弟子入りした彼女は、自分の工房を開店する許可が下りたところだったのだ。
「公爵様、大変失礼ですが……」
「側室に入ってくれたら、資金援助は惜しまないよ?」
「しかし、結婚は考えられない」
「じゃあ、契約結婚にしよう。俺も正妻がうるさいから。この婚約も公爵家と伯爵家の同士の契約のようなものだし」
なんと、婚約者になったダミアノ公爵ブライトは、国内でも指折りの富豪だったのだ。
彼はオフィーリナのやりたいことが工房の経営なら、資金援助は惜しまないという。
「結婚……資金援助!? まじで? でも、正妻……」
「うまくやる自信がない?」
「ある女性なんてそうそういないと思います……」
そうなのだ。
愛人のようなものになるのに、本妻に気に入られることがどれだけ難しいことか。
二の足を踏むオフィーリナにブライトは「まあ、任せろ。どうにかする」と言い残して、契約結婚は成立してしまう。
平日は魔石を加工する、魔石彫金師として。
週末は契約妻として。
オフィーリナは週末の二日間だけ、工房兼自宅に彼を迎え入れることになる。
他の投稿サイトでも掲載しています。
竜人のつがいへの執着は次元の壁を越える
たま
恋愛
次元を超えつがいに恋焦がれるストーカー竜人リュートさんと、うっかりリュートのいる異世界へ落っこちた女子高生結の絆されストーリー
その後、ふとした喧嘩らか、自分達が壮大な計画の歯車の1つだったことを知る。
そして今、最後の歯車はまずは世界の幸せの為に動く!
アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
【完結】身を引いたつもりが逆効果でした
風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。
一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。
平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません!
というか、婚約者にされそうです!
旦那様の様子がおかしいのでそろそろ離婚を切り出されるみたいです。
バナナマヨネーズ
恋愛
とある王国の北部を治める公爵夫婦は、すべての領民に愛されていた。
しかし、公爵夫人である、ギネヴィアは、旦那様であるアルトラーディの様子がおかしいことに気が付く。
最近、旦那様の様子がおかしい気がする……。
わたしの顔を見て、何か言いたそうにするけれど、結局何も言わない旦那様。
旦那様と結婚して十年の月日が経過したわ。
当時、十歳になったばかりの幼い旦那様と、見た目十歳くらいのわたし。
とある事情で荒れ果てた北部を治めることとなった旦那様を支える為、結婚と同時に北部へ住処を移した。
それから十年。
なるほど、とうとうその時が来たのね。
大丈夫よ。旦那様。ちゃんと離婚してあげますから、安心してください。
一人の女性を心から愛する旦那様(超絶妻ラブ)と幼い旦那様を立派な紳士へと育て上げた一人の女性(合法ロリ)の二人が紡ぐ、勘違いから始まり、運命的な恋に気が付き、真実の愛に至るまでの物語。
全36話
貴妃エレーナ
無味無臭(不定期更新)
恋愛
「君は、私のことを恨んでいるか?」
後宮で暮らして数十年の月日が流れたある日のこと。国王ローレンスから突然そう聞かれた貴妃エレーナは戸惑ったように答えた。
「急に、どうされたのですか?」
「…分かるだろう、はぐらかさないでくれ。」
「恨んでなどいませんよ。あれは遠い昔のことですから。」
そう言われて、私は今まで蓋をしていた記憶を辿った。
どうやら彼は、若かりし頃に私とあの人の仲を引き裂いてしまったことを今も悔やんでいるらしい。
けれど、もう安心してほしい。
私は既に、今世ではあの人と縁がなかったんだと諦めている。
だから…
「陛下…!大変です、内乱が…」
え…?
ーーーーーーーーーーーーー
ここは、どこ?
さっきまで内乱が…
「エレーナ?」
陛下…?
でも若いわ。
バッと自分の顔を触る。
するとそこにはハリもあってモチモチとした、まるで若い頃の私の肌があった。
懐かしい空間と若い肌…まさか私、昔の時代に戻ったの?!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる