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第十章
1.思うようにいかない【3】
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ヴォルと二人で甲板に出ると、昨夜とは違った青い景色が視界を覆い尽くします。
「ぅわ~……」
それは空と海との境がない空間でした。
何処までも青く、色のグラデーションがあるだけの様々な青い世界です。
「今日も天気が良い」
ヴォルが静かに私の肩を促し、甲板の中央へ誘いました。
いつまでも出入口に突っ立ったままでは邪魔になります。そして共に海へ近付いて行きながらも、私はその色のグラデーションに見とれていました。
見る限りの青、蒼、碧──。同じ青がないくらい、上下左右の視界を埋め尽くします。
青い色にこんなにも色があるとは、思いもよりませんでした。
「凄いです」
「そうだな」
感極まって呟く私に、ヴォルが柔らかく答えてくれます。
以前ヴォルと見た海は、陸から眺めた海でした。船にも乗った事はありますが、あの時はそんな余裕は欠片もなかったのです。残念ながら、主に船酔いが原因でした。
でも、今は違います。そして現在地は海の上でした。
「私、これ程周囲を海に囲まれた光景を見たのは初めてです」
「……そうか」
四方が青に囲まれた空間では、人も──この巨大な船すらも小さなものに思えます。
世界がどれだけ大きいか、どれだけ自分が小さいのかを突き付けられる感じでした。
「大陸を取り囲む海は、何よりも大きいと聞く」
大陸よりも──ですか。
誰も実際に見た事がないのでしょうが、確かに大陸間をこれだけ離しているのですから陸地より巨大なのかもしれないと推測されました。
人がどれ程智に秀でていようとも──自然に立ち向かって敵う筈がありません。
「あの……、もし……。もしも、ですよ?」
「あぁ」
振り返りながら、私はヴォルを見上げました。
そんな私の怖々とした問い掛けに、ヴォルは真っ直ぐ視線を向けてくれます。
「あの……、魔力の坩堝が……見つかったら……」
「ん?」
「壊すの、ですよね?」
今の私は、魔力と言うものを知りつつありました。
そしてその存在の危うさと、主張する意識達にも出会ったのです。もう、全く知らないとは言えませんでした。
「……メルはどうしたい」
しかしながら、逆にヴォルに問い掛けられてしまいます。
実際に彼の答えは以前聞いて知っているので、これから私が言葉にする内容は反する事でした。
「私は……、魔力は世界に必要なのだと思います」
私は勢いをつけて答えます。
けれども、どのような反応が返ってくるか不安でした。
ヴォルのしようとする事と真逆の考えなのでしょうが、私自身、世界に魔力はなくてはならないものだと感じてしまったのです。
「そうか……」
静かにそう答えた後、ヴォルは空を見上げました。
海の匂いを含んだ風が頬を撫でていきます。船の舳先に分けられる波の音が、酷く大きく聞こえました。
それでもヴォルは動きません。
「あの……」
沈黙に耐えきれなくなった私が口を開いた時、ヴォルは綺麗な青緑の瞳をこちらへ向けます。
海の色にも似た、とても深い綺麗な色でした。
「分かった」
一言だけヴォルが告げます。
何が──とは聞けませんでした。何故ならば、彼はとても綺麗な笑みを私に向けたのです。
私は完全にヴォルに呑まれてしまいました。
ただバカみたいに瞬きを繰り返す事が精一杯で、口はパクパクと音を発する事なく開閉を繰り返しています。
ヴォルのこれ程の笑顔を、私は後何回この目に映す事が出来るのかと思ってしまいました。いえ、それよりも──。
私の心臓が煩いです──顔が熱いです。
それはもう、壊滅的な痛手を負いました。精神力がレッドゾーンです、一撃必殺です。
私はヴォルの笑顔が凶器なのではないかと、本気で疑ってしまいました。
「ぅわ~……」
それは空と海との境がない空間でした。
何処までも青く、色のグラデーションがあるだけの様々な青い世界です。
「今日も天気が良い」
ヴォルが静かに私の肩を促し、甲板の中央へ誘いました。
いつまでも出入口に突っ立ったままでは邪魔になります。そして共に海へ近付いて行きながらも、私はその色のグラデーションに見とれていました。
見る限りの青、蒼、碧──。同じ青がないくらい、上下左右の視界を埋め尽くします。
青い色にこんなにも色があるとは、思いもよりませんでした。
「凄いです」
「そうだな」
感極まって呟く私に、ヴォルが柔らかく答えてくれます。
以前ヴォルと見た海は、陸から眺めた海でした。船にも乗った事はありますが、あの時はそんな余裕は欠片もなかったのです。残念ながら、主に船酔いが原因でした。
でも、今は違います。そして現在地は海の上でした。
「私、これ程周囲を海に囲まれた光景を見たのは初めてです」
「……そうか」
四方が青に囲まれた空間では、人も──この巨大な船すらも小さなものに思えます。
世界がどれだけ大きいか、どれだけ自分が小さいのかを突き付けられる感じでした。
「大陸を取り囲む海は、何よりも大きいと聞く」
大陸よりも──ですか。
誰も実際に見た事がないのでしょうが、確かに大陸間をこれだけ離しているのですから陸地より巨大なのかもしれないと推測されました。
人がどれ程智に秀でていようとも──自然に立ち向かって敵う筈がありません。
「あの……、もし……。もしも、ですよ?」
「あぁ」
振り返りながら、私はヴォルを見上げました。
そんな私の怖々とした問い掛けに、ヴォルは真っ直ぐ視線を向けてくれます。
「あの……、魔力の坩堝が……見つかったら……」
「ん?」
「壊すの、ですよね?」
今の私は、魔力と言うものを知りつつありました。
そしてその存在の危うさと、主張する意識達にも出会ったのです。もう、全く知らないとは言えませんでした。
「……メルはどうしたい」
しかしながら、逆にヴォルに問い掛けられてしまいます。
実際に彼の答えは以前聞いて知っているので、これから私が言葉にする内容は反する事でした。
「私は……、魔力は世界に必要なのだと思います」
私は勢いをつけて答えます。
けれども、どのような反応が返ってくるか不安でした。
ヴォルのしようとする事と真逆の考えなのでしょうが、私自身、世界に魔力はなくてはならないものだと感じてしまったのです。
「そうか……」
静かにそう答えた後、ヴォルは空を見上げました。
海の匂いを含んだ風が頬を撫でていきます。船の舳先に分けられる波の音が、酷く大きく聞こえました。
それでもヴォルは動きません。
「あの……」
沈黙に耐えきれなくなった私が口を開いた時、ヴォルは綺麗な青緑の瞳をこちらへ向けます。
海の色にも似た、とても深い綺麗な色でした。
「分かった」
一言だけヴォルが告げます。
何が──とは聞けませんでした。何故ならば、彼はとても綺麗な笑みを私に向けたのです。
私は完全にヴォルに呑まれてしまいました。
ただバカみたいに瞬きを繰り返す事が精一杯で、口はパクパクと音を発する事なく開閉を繰り返しています。
ヴォルのこれ程の笑顔を、私は後何回この目に映す事が出来るのかと思ってしまいました。いえ、それよりも──。
私の心臓が煩いです──顔が熱いです。
それはもう、壊滅的な痛手を負いました。精神力がレッドゾーンです、一撃必殺です。
私はヴォルの笑顔が凶器なのではないかと、本気で疑ってしまいました。
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