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第十章
≪Ⅰ≫思うようにいかない【1】
しおりを挟む「ごめんなさい……」
私は深く頭を下げました。
それ以外に言葉が出なかったのです。ヴォルに心配を掛けた事もですし、ベンダーツさんへも迷惑を掛けてしまいました。
「まぁ……知らなかった事とは言え、普通は非能力者が魔法を抑えようとなんてしないんだけとね。ってか根本的に出来ないんだけどさ」
冷静なご指摘をありがとうございます、ベンダーツさん。
普通はしない事をしてしまってすみませんでした。──そもそも考えもしなかったです。
単に私の感情がトリガーだと思っていたので、思いを我慢しようと思っただけなのでした。
「俺が説明をしなかったからだ」
「いえ、私が無茶な事をしてしまったからです」
「俺が……」
「はい、ちょっと待った」
ヴォルと私の謝り合いが始まりましたが、それを冷たい視線を流しながらベンダーツさんが止めます。
このパターンは良くあるので、今更感があってヴォルと顔を見合わせてしまいました。
「あのなぁ……」
「すまない」「ごめんなさい」
心底呆れたようなベンダーツさんの声に、ヴォルと私は二人して謝罪をします。
けれども声が合わさった事で驚き、再び視線を合せました。怒られている最中なので笑う訳にもいかないのですが、明らかに空気が和らぎます。
「はい、はい。……ったく、これって俺がバカみたいじゃないか」
ベンダーツさんに再び大きな溜め息をつかれましたが、先程よりは怒っていないように感じました。
怒る気力が失くなったとかではない事を願います。脳内ツッコミの私と違い、ベンダーツさんの的確な指摘は毎回大変ありがたく思っていました。
「本当に頼むよ、二人共さ。真面目な話、どちらが潰れてもダメだと思うから。二人で一人って訳じゃないけど、表裏一体って言うのかな。互いの事だけ思いやるんじゃなくて、自分もあっての事だと分かってよ」
「……分かった」
「はい……」
素直にベンダーツさんにお説教をされる私達です。
何だかんだと言葉で突き放したりもするベンダーツさんですが、ヴォルの事を一番に考えていると知っているからこその安心感がありました。
そして私も気を付けなくてはなりません。
短絡的行動によって、ヴォルに先程のような悲しい顔をさせたくはありませんでした。
「そうは考えていても思うようにいかないものだ。お前も味わってみれば分かる」
「あ~、そう。それじゃ、俺がそう言う相手を見つけられるような環境を作らなきゃねぇ?……勿論、やってくれるんだろう?」
前にベンダーツさんが言っていた、ヴォルに結婚相手が見つかるまで自分は後回し的なあれです。そして既にヴォルは私と結婚しているので、その話からすると次は本当にベンダーツさんの順番でした。
ベンダーツさんが挑発するような笑い方をします。まだまだ旅の目的は達成されていませんが、私もベンダーツさんに良い人が見つかると良いと思いました。
それでもヴォルはフッと笑みを見せます。
「そうだな。……あぁ、やるさ。お前も手伝え」
「勿論。俺はヴォルの補佐だからね」
悪そうな笑みを交わす二人でした。
こういう場面を見ると、本当に仲が良いと思います。
そうして漸く食事が始まりました。私が寝過ぎた為にすっかり冷めてしまっていましたが、ベンダーツさん特性薬草粥は冷めても美味しいです。
「あ……話は変わるけど、メルは危ないから下の階には行かない事。分かった?」
食事が終わった頃を見計らってか、ベンダーツさんから突然真剣な表情を向けられました。
けれども、ベンダーツさんに言われなくてももう行きません。やはりヴォル以外の男の人は基本的に怖いと再認識しました。
「はい、行かないです。……でも、甲板は良いのですか?」
私は勇気を出して聞いてみます。
ずっと船室というは息苦しいので外の空気も吸いたいですし、何よりも景色が綺麗でした。──勿論、一人では行かないですけど。
「……ヴォルと一緒なら良いかな」
一瞬の間は、思考の時間でしょうか。
チラリとヴォルへ視線を向けたような気もしました。
それでも予想通りのお言葉が返ってきて安心します。
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