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第九章
10.目障りだ【2】
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扉を叩く音が聞こえ、誰かが入って来ました。
「片付けてきたよ」
「あぁ」
ノックの主はベンダーツさんだったようです。そして返答は、勿論ヴォルでした。
私は今、柔らかい場所に横たわっています。恐らく部屋のベッドだと思われました。
でも私、何故だか身体が動かせません。意識的には起きているのに、身体だけが眠っているような感じでした。断じて狸寝入りとかではありません。
「やっぱり、下層にはごろつきが多いなぁ。で、メルはどうしちゃった訳?」
「……守護魔法の発動を抑えていた」
僅かに苦しそうなヴォルの声でした。
会話の内容からして、私が原因でヴォルを傷付けてしまったようです。また何かやらかしたようでした。
「は?…………守護魔法って……、ヴォルの?」
とても不思議そうなベンダーツさんです。
──守護魔法ですか。
驚いているようにも聞こえるベンダーツさんですが、彼は私の腕輪に魔法が込められている事を知っていました。
「そうだ。俺がメルの腕輪にかけた風の魔法。それを精神力で抑え込んでいた」
「……魔力のない、メルが?……真面目に?」
「俺が嘘や冗談は嫌いな事を知っているだろ」
ヴォルが私の倒れた経緯を説明しているのですが、ベンダーツさんは冗談とでも思ったようです。
けれども不満をのせたヴォルの声が、すぐベンダーツさんに息を呑ませました。
「ちょ……、明らかな威圧は止めてくれないかな。俺が悪い訳じゃないだろう?」
椅子を引く音と、焦ったようなベンダーツさんの声です。
どうやら戻ってきたベンダーツさんは椅子に腰掛けていたようでした。
「…………すまない」
溜め息と共に告げられたヴォルの謝罪です。
そこには先程の不機嫌さはなく、ただただ後悔の念が込もっていました。
「八つ当たりだ……。分かっている」
そしてポツリと続けられた言葉です。
沈んだようなヴォルの声に、私は無性に彼を抱き締めたくなりました。現時点で身体が動かない私が、ここで何を言っても伝わらないので空回りなのです。
「あ~、もぅ。しっかりしてくれよっ。ヴォルがそんなんじゃ、メルが不安がるだろうが。高圧的な態度か女々しいか、二つに一つしかないのか?……あ、ムッとするくらいには俺の言葉は届いている訳ね」
今度はベンダーツさんが溜め息をつきました。
ヴォルは女々しくなんてないです。反論したいのに、どうして私の身体は起きないのでしょうか。
「それで、メルが精神力で守護魔法を抑えた結果……倒れた?」
「……そうだ。魔法の煽りを受けたのだと思う」
ベンダーツさんの分かりやすい説明に、私は自分のした事の重大さを知りました。どうやら、やってはいけなかったようです。
私が内心戦慄いている中、努めて冷静であろうとしているようなヴォルでした。
──すみません軽率な行動でした、ごめんなさいヴォル。
「そっかぁ。……でも、魔力のないメルがねぇ。本当に彼女、いつもこっちの予想を上回った事をしてくれるよなぁ。しかも斜め上に。毎回こっちは驚かされて振り回される」
平謝りしている私の心情は伝わりませんが、ベンダーツさんの呆れ半分感心半分といったような言葉が返されます。
酷い言われような気がしますが、それだけ色々やらかしていますから文句は言えませんでした。
「でもまぁ、仕方ないよな。ヴォルが選んだ女だし」
ですが、続けられたベンダーツさんの声音に不快感は乗っていません。
「初めから、一筋縄とはいかない主で教え子なヴォルだからさ。勿論、一筋縄でいく女で満足する筈もないよなっ」
そう言ってベンダーツさんは大声で笑い始めました。
これは貶されている気もしますが、実は少しは認められているという事でしょうか。
か、勝手に思ってしまいますからねっ。
だってなんだか──、嬉しいのですから。
「片付けてきたよ」
「あぁ」
ノックの主はベンダーツさんだったようです。そして返答は、勿論ヴォルでした。
私は今、柔らかい場所に横たわっています。恐らく部屋のベッドだと思われました。
でも私、何故だか身体が動かせません。意識的には起きているのに、身体だけが眠っているような感じでした。断じて狸寝入りとかではありません。
「やっぱり、下層にはごろつきが多いなぁ。で、メルはどうしちゃった訳?」
「……守護魔法の発動を抑えていた」
僅かに苦しそうなヴォルの声でした。
会話の内容からして、私が原因でヴォルを傷付けてしまったようです。また何かやらかしたようでした。
「は?…………守護魔法って……、ヴォルの?」
とても不思議そうなベンダーツさんです。
──守護魔法ですか。
驚いているようにも聞こえるベンダーツさんですが、彼は私の腕輪に魔法が込められている事を知っていました。
「そうだ。俺がメルの腕輪にかけた風の魔法。それを精神力で抑え込んでいた」
「……魔力のない、メルが?……真面目に?」
「俺が嘘や冗談は嫌いな事を知っているだろ」
ヴォルが私の倒れた経緯を説明しているのですが、ベンダーツさんは冗談とでも思ったようです。
けれども不満をのせたヴォルの声が、すぐベンダーツさんに息を呑ませました。
「ちょ……、明らかな威圧は止めてくれないかな。俺が悪い訳じゃないだろう?」
椅子を引く音と、焦ったようなベンダーツさんの声です。
どうやら戻ってきたベンダーツさんは椅子に腰掛けていたようでした。
「…………すまない」
溜め息と共に告げられたヴォルの謝罪です。
そこには先程の不機嫌さはなく、ただただ後悔の念が込もっていました。
「八つ当たりだ……。分かっている」
そしてポツリと続けられた言葉です。
沈んだようなヴォルの声に、私は無性に彼を抱き締めたくなりました。現時点で身体が動かない私が、ここで何を言っても伝わらないので空回りなのです。
「あ~、もぅ。しっかりしてくれよっ。ヴォルがそんなんじゃ、メルが不安がるだろうが。高圧的な態度か女々しいか、二つに一つしかないのか?……あ、ムッとするくらいには俺の言葉は届いている訳ね」
今度はベンダーツさんが溜め息をつきました。
ヴォルは女々しくなんてないです。反論したいのに、どうして私の身体は起きないのでしょうか。
「それで、メルが精神力で守護魔法を抑えた結果……倒れた?」
「……そうだ。魔法の煽りを受けたのだと思う」
ベンダーツさんの分かりやすい説明に、私は自分のした事の重大さを知りました。どうやら、やってはいけなかったようです。
私が内心戦慄いている中、努めて冷静であろうとしているようなヴォルでした。
──すみません軽率な行動でした、ごめんなさいヴォル。
「そっかぁ。……でも、魔力のないメルがねぇ。本当に彼女、いつもこっちの予想を上回った事をしてくれるよなぁ。しかも斜め上に。毎回こっちは驚かされて振り回される」
平謝りしている私の心情は伝わりませんが、ベンダーツさんの呆れ半分感心半分といったような言葉が返されます。
酷い言われような気がしますが、それだけ色々やらかしていますから文句は言えませんでした。
「でもまぁ、仕方ないよな。ヴォルが選んだ女だし」
ですが、続けられたベンダーツさんの声音に不快感は乗っていません。
「初めから、一筋縄とはいかない主で教え子なヴォルだからさ。勿論、一筋縄でいく女で満足する筈もないよなっ」
そう言ってベンダーツさんは大声で笑い始めました。
これは貶されている気もしますが、実は少しは認められているという事でしょうか。
か、勝手に思ってしまいますからねっ。
だってなんだか──、嬉しいのですから。
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