「結婚しよう」

まひる

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第九章

≪Ⅹ≫目障りだ【1】

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 ブワリ、と私の周囲に風が巻き起こります。既に腕輪が光り始めている事には気付いていました。
 ──あぁ、大変です。

「何だぁ?」

 肩を掴んでいる男性の不審な声と共に、私を捕らえる力が増しました。

「……も……、限界……です……っ」

 押さえられる力が強くなった事で、更に私の中の嫌悪感が増加します。それまで自分の中で必死に悪寒を抑え込んでいたのですが、ダメでした。鳥肌が立ち始めます。
 プルプルと震える私に気付いたのか、その人が背後から顔を近付かせる気配を感じました。
 ──止めてください。それ以上……、近付かないで……っ。
 私は心で叫びながらギュッと瞳を閉じます。
 キィイイイイインッ。
 甲高い耳鳴りのような音が鳴り響きました。
 そして次の瞬間、私の周囲にあった全ての圧迫が消し飛びます。

「メル」

 馴染んだ体温にれられ、知った匂いに包まれました。
 ヴォルだ──と身体が悟ります。でも極限の緊張の中にいた私は、そのまま意識を手放してしまったのでした。



「メル……」

 声を掛けるが返答はない。
 風の守護魔法が吹き荒れそうになる中でれた彼女は、途端に糸が切れたように崩れ落ちた。勿論その身体を即座に抱き止め、この小汚ないエリアに倒れさせはしない。

「……な、何なんだ……お前……っ」

 恐怖にひきつったような声が聞こえた。同時に視界のすみに男が映る。
 だが、それは些末さまつな事だった。今、俺の腕の中にはメルがいる。それだけで今まさに爆発しようとしていた心の空白が埋められた。
 心情的には、メルにれたコイツ等を放置などしたくはない。しかしながらメルはいさかいを好まないのだ。
 俺は可能な限り、彼女の意に反したくははい。

「お、おいっ……待てよっ!」

 メルを抱き上げてきびすを返した俺に、それは声を荒げて近付いてきた。今しがたまでメルの身体にれていた男である。
 俺は冷めた視線を向けた。
 だがその反応が気に入らなかったのか、腰に下げた剣を引き抜いてきたそれへ、俺は遠慮なく回し蹴りを食らわせる。──俺の両の手は今、メルで塞がっているのだ。
 壁の方へ飛んでいったが、そちらを確認する事なく俺はこの階を去る事にする。廊下にあるうめやからまたぎつつ、最上階の部屋を目指した。
 しかし結果として守護魔法には魔封石が効かない事が分かった。個別に魔力を放出しないからか、本来の能力を発揮しようとしていたのである。
 メルを取り囲むように、腕輪に込めた風魔法は軽く渦をまいていた。あと少しでも俺がメルにれるのが遅ければ、確実にこの周囲を吹き飛ばしていただろう。
 それを案じてだろうメルは、周囲への損害を与える事自体避ける為か、己の心で無理に魔法を抑えていたようだった。結局それが精神に負荷をかけ、意識を失ったようである。
 いつの間にか彼女は強くなった。──いや、初めて出会った時から強かったか。
 今では、ただ守られるだけでは足りないと言うのか。
 俺は腕の中の彼女を見遣る。

 こんなにも華奢で、すぐにも折れそうな身体をしているのに……彼女の心はとても強く、そして温かい。
 俺は主従のリングを通し、ベンダーツを呼んだ。最上階からここまでは多少の距離があるが、緊急時の発信をしたから到着は早いだろう。
 アイツが来たら、ここの後始末をさせるつもりだ。

「どうっ……したんだよ」

「目障りだ。片付けておけ」

 息き切って駆けてきたようなベンダーツに、俺は視線でそれ等を示す。
 足下に転がっている、デカイだけの暴漢だ。動きの機敏さも統率もなく、大声を上げて武器を振り回すだけの単細胞である。

「……はぁい、了解~」

 一通り見回したベンダーツは、当たり前ながら無傷の俺とメルを確認した後に大きく息を吐いた。
 そして気を取り直したように、何処からか細い紐を取り出して男達を縛っていく。その動きは慣れたもので、親指同士を繋げるだけなのだから紐の量はたいして必要なかった。
 こちらの過失の有無は別にして、ここでは船員が秩序の番人である。つまりは、ただの乗客である俺達が裁く事は出来ない規則だ。
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