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第九章
9.溶け合って【5】
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そうして他にも食堂などを見て回りながら、私達は一番下の客室部分までやって来ました。
結論から言えば──ここはどう見ても客層が良くないです。ヴォルが一緒だから来れた私でした。
「ここは衛生面を考慮した方が良い」
ヴォルが事も無げに告げてくれます。
その指摘は私も同感で、とにかく臭いが──でした。
この船は立派にも各階に廊下にお手洗いがあるのですが、この階全体がその──同じ様な臭いがするで、既に私は鼻が辛いです。
「戻ろう」
「はい」
結果的に奥までこの階を歩けませんでした。
勿論大部屋とはいえ客室のみの階なので、廊下から扉が開いている部屋を少しだけ覗く程度しか出来ません。それでもこの階は酷すぎました。
廊下にも服やゴミが散乱しています。まだ一日しか経ってないのにこの汚れようで、最終的にどうしたいのかと疑問に思ってしまいました。
しかしながら残念ではありますが、私達は廊下の途中で引き返す事にします。更には、もう来る事はないと断言出来ました。
「……何だ」
冷たく問うヴォルでした。然り気無く彼の背に庇われた私です。
勿論、問い掛けた相手は私ではありません。何故か目の前に障壁──大きな体躯の男性が三人程立ち塞がっていました。
通路幅は大人が三人並んで歩ける程度なので、体格の良い人が三人いると完全に詰まってしまいます。
「別に、アンタにゃ用ないよ。俺達はその後ろの女に興味があるんだ」
顎で指され、私は小首を傾げてしまいました。
当たり前ながら、知り合いでも何でもないです。
「この船室、ちょっと色気が足りなくてなぁ」
不意に後ろからも声が聞こえましたが、私は振り向くよりも先に強い力で引っ張られてしまいます。
強く両肩を捕まれ、動く事が出来ません。何よりも身体中が拒絶していました。知らない誰かに触られています。
分かっています、ヴォルではありませんでした。彼は目の前にいますし。
あ──振り返ったそのヴォルの目が、物凄く怒っていました。
「放せ」
ヴォルが圧し殺した声を放ちます。
ユラユラと身体の周りに陽炎が立ち上っていました。
これは彼の魔力で、感情が膨れ上がると溢れてしまうと私は知っています。
「何だぁ?お前、魔力所持者か?」
「ふん、問題ないだろう。この船は魔封石で出来てるからな」
今のヴォルを見て、魔力所持者なのだと分かったようでした。
どうやらこの人達、通常は魔法が使えない事を分かっているようです。単なる脳筋の方々ではないようでした。
「お前等、やっちまえ」
私の肩を掴んでいる人が声を張り上げます。──と同時に、私は奥の部屋へ引き込まれました。
ダメです。私の目の前からヴォルがいなくなりました。この緊迫した状況の中で、私にとって唯一の精神安定剤だったのです。
そして見えない壁の向こう側から、激しく金属同士を打ち合う音が聞こえてきました。広いとはいえない船の廊下での剣戟です。
そう言えば、ヴォルは腰に剣を帯びていました。冒険者として見慣れたいつもの装いだったので特に気になりませんでしたが、今のヴォルは魔法を使えないですから必需品だったようです。
──なんて現実逃避していましたが、もう限界でした。
ゾワゾワと這い上がる悪寒を我慢出来ません。この人はいつまで私の肩を掴んでいるつもりでしょうか。
しかしながら──この狭い船の中で、アレは危険でした。
一応、この状況でも頭の奥では冷静な私が訴えかけています。現状はそんな余裕は爪の先程もないのですけど。
結論から言えば──ここはどう見ても客層が良くないです。ヴォルが一緒だから来れた私でした。
「ここは衛生面を考慮した方が良い」
ヴォルが事も無げに告げてくれます。
その指摘は私も同感で、とにかく臭いが──でした。
この船は立派にも各階に廊下にお手洗いがあるのですが、この階全体がその──同じ様な臭いがするで、既に私は鼻が辛いです。
「戻ろう」
「はい」
結果的に奥までこの階を歩けませんでした。
勿論大部屋とはいえ客室のみの階なので、廊下から扉が開いている部屋を少しだけ覗く程度しか出来ません。それでもこの階は酷すぎました。
廊下にも服やゴミが散乱しています。まだ一日しか経ってないのにこの汚れようで、最終的にどうしたいのかと疑問に思ってしまいました。
しかしながら残念ではありますが、私達は廊下の途中で引き返す事にします。更には、もう来る事はないと断言出来ました。
「……何だ」
冷たく問うヴォルでした。然り気無く彼の背に庇われた私です。
勿論、問い掛けた相手は私ではありません。何故か目の前に障壁──大きな体躯の男性が三人程立ち塞がっていました。
通路幅は大人が三人並んで歩ける程度なので、体格の良い人が三人いると完全に詰まってしまいます。
「別に、アンタにゃ用ないよ。俺達はその後ろの女に興味があるんだ」
顎で指され、私は小首を傾げてしまいました。
当たり前ながら、知り合いでも何でもないです。
「この船室、ちょっと色気が足りなくてなぁ」
不意に後ろからも声が聞こえましたが、私は振り向くよりも先に強い力で引っ張られてしまいます。
強く両肩を捕まれ、動く事が出来ません。何よりも身体中が拒絶していました。知らない誰かに触られています。
分かっています、ヴォルではありませんでした。彼は目の前にいますし。
あ──振り返ったそのヴォルの目が、物凄く怒っていました。
「放せ」
ヴォルが圧し殺した声を放ちます。
ユラユラと身体の周りに陽炎が立ち上っていました。
これは彼の魔力で、感情が膨れ上がると溢れてしまうと私は知っています。
「何だぁ?お前、魔力所持者か?」
「ふん、問題ないだろう。この船は魔封石で出来てるからな」
今のヴォルを見て、魔力所持者なのだと分かったようでした。
どうやらこの人達、通常は魔法が使えない事を分かっているようです。単なる脳筋の方々ではないようでした。
「お前等、やっちまえ」
私の肩を掴んでいる人が声を張り上げます。──と同時に、私は奥の部屋へ引き込まれました。
ダメです。私の目の前からヴォルがいなくなりました。この緊迫した状況の中で、私にとって唯一の精神安定剤だったのです。
そして見えない壁の向こう側から、激しく金属同士を打ち合う音が聞こえてきました。広いとはいえない船の廊下での剣戟です。
そう言えば、ヴォルは腰に剣を帯びていました。冒険者として見慣れたいつもの装いだったので特に気になりませんでしたが、今のヴォルは魔法を使えないですから必需品だったようです。
──なんて現実逃避していましたが、もう限界でした。
ゾワゾワと這い上がる悪寒を我慢出来ません。この人はいつまで私の肩を掴んでいるつもりでしょうか。
しかしながら──この狭い船の中で、アレは危険でした。
一応、この状況でも頭の奥では冷静な私が訴えかけています。現状はそんな余裕は爪の先程もないのですけど。
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