「結婚しよう」

まひる

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第九章

≪Ⅸ≫溶け合って【1】

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「けどまぁ……魔力所持者が関係者でないとはいえ、魔力所持者の乗客も絶対にいなくはないんだから迷惑かもしれないよなぁ。それでも高価な魔封石を使う理由があって、本当はこの船の乗っ取りを防ぐ為であるんだ」

 淡々と説明をするベンダーツさんでした。
 でもいったい誰が、大陸間の大型客船を乗っとると言うのでしょうか。けれど、もしそんな事をしたら移動方法に困ると思います。
 こんな大きな船でも五日掛かる程離れてい大陸間なのですから、他に手段があれば実行に移されている筈でした。

「それ程、この移動船は重要っていう事だね。けれども狙い目ではあるんだけど、この船を奪う際は魔法が使えないからね。武力行使でセントラルの騎士に勝つような自信がないと。まぁ、実際に魔力所持者が起こした事件をもとに対処された結果だけどさ」

 そんな事を考えていたら、本当に船を襲った魔力所持者さんがいたようです。
 魔法を使われてしまえば、普通の騎士では対処が難しいと思いました。

「騎士はそれ程強くない」

「そりゃ勿論、ヴォルに勝てる人間はまれだろうね。けどあれでも普通の人間相手では不釣り合いな程、強靭な肉体を持っているんだぜ?」

「お前が言うのもな。そもそも、騎士に一目おかれていたのは出自しゅつじが原因ではないだろ。文官だなんて、お前の剣の腕を知っている奴からしたら歯がみして悔しがる」

 確かにベンダーツさんは書類相手の職業です。そして御実家は子爵位から伯爵位に昇格した貴族ですが、騎士の方々かたがたも貴族の御子息が大半なのでした。
 貴族の御子息は基本的に頭脳派をうたっているので、ベンダーツさんのように剣の腕が立つ訳ではないようです。しかもあの戦闘力ですから、普段から身体を鍛えている騎士さんからは尊敬の眼差しを向けられるようでした。

「そうかなぁ?あ、俺はこれを片付けて来るよ。さすがに魔封石の部屋では、今まで通りに魔法で片付けられないからね」

 さらりと流したようでしたが、ベンダーツさんの耳が赤くなっている事に私は気付きます。
 けれども早口気味にそれだけ告げたベンダーツさんは、ヒラヒラと手を振りながら、逃げるように食器を一纏ひとまとめに抱えて退室してしまいました。
 ベンダーツさんの照れた姿は珍しいです。でも彼はヴォルが幼い頃からつかえている訳で、言葉を交わさずとも意思の疎通が出来たりする仲でした。

「あの……マークさんは、ずっとヴォルと一緒にいるのですよね?」

「そうだ。俺が城へ入ってからになるから、メルが生まれた頃には共にいた事になる」

 凄い長い付き合いです。
 しかも普通の関係ではなく、ベンダーツさんは常にヴォルを気にかけていた人物でした。
 ──比べるものではない事は分かっていますが……、負けそうです。

「どうした、メル。……まさかアイツとの時間を比べているのか?」

 私が押し黙った事で、ヴォルは察したようでした。
 こういう時の私は、本当に単純なのかすぐに内心を読まれています。

「そ……です」

「……メル以上に近しい存在はないのだがな」

 そう言われた途端、ベッドに抱き込まれました。
 そばに立っていた私にも隙があったのですが、素早さに差がありすぎです。気付いた時にはもう横たわっているって、結構怖くないですかと問い掛けたくなりました。

「どれ程接しても足りない。いっそ溶け合ってしまいたい程に」

 けれどもその疑問を口に出来る雰囲気でもなく、ヴォルからギュッと強くその腕に包まれてピタリと頬がくっつきます。
 不安を体現したような彼の行動ですが、このままヴォルと私の境界がなくなってしまったらと考えて──嫌だと思い至りました。

「だ、ダメですっ」

 勢い良く胸を押し返した私です。
 そしてヴォルのわずかに細められた目が向けられました。
 怒り──不満、でしょうか。でも私はそれにひるんではいられませんでした。

「だ……だって一つになってしまったら、ヴォルにれられないではないですか」

 ヴォルがヴォルであるように、私が私でないとれ合えないのです。
 一つになってしまったら、それって結局は一人という事でした。
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