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第九章
8.こんな物……【5】
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「材料はこれくらいだね。後は煮込むだけっと。簡単だろう?」
ベンダーツさんから薬草粥の作り方を教わっていた私ですが、聞いた事もないような材料が幾つか交ざっていました。
私は書き控えた魔物の皮をまじまじと見つめます。──でもこれは、ベンダーツさんの様々な試みによる成果なのでした。懸命に幼いヴォルに食べてもらおうと、試行錯誤をした結果なのだと分かります。
「ありがとうございます、マークさん」
私はレシピを胸に抱くようにして、ベンダーツさんに改めて御礼を告げました。
小さいヴォル分の御礼なんて烏滸がましい事は言えませんが、色々と含めて心から感謝を伝えます。
「何だか照れるなぁ……。大丈夫だって、俺は自分のやれる事をしているだけだからさ」
「はい、私も出来る事を頑張ります」
「うん、メルにしか出来ない事もたくさんあるからさ。ってか、船酔いが吹き飛んだみたいだね」
単に私が元気になったような言い方ですが、先程の薬草粥の材料に酔い止めの薬草が入っていたのを私は気付いていました。
これでも私は、ベンダーツさんから直々に薬草の知識を教えてもらったのです。味からだけでも、何の薬草を使ったか知っている範囲でなら判別出来るのでした。
然り気無いベンダーツさんの心遣いに感謝なのです。
「ヴォルはどうですか?」
「俺の場合は魔力を抑えれば問題ない。倦怠感はあるが、船内で行動する分には支障がない程度には回復した」
ベッドで半身起こしたままのヴォルでしたが、先程のような顔色の悪さはないです。
やはり食事を何も取っていない事で、魔力消費が著しかったのだと思われました。
「良かったです。私は大丈夫ですから、ヴォルはご自分の回復を優先にさせてくださいね?」
立ち上がっている私を見れば、さすがにもう結界を張ろうとは思わないでしょう。
これからも船酔いをしない訳ではないでしょうが、今の私はこの程度の揺れに違和感を感じていませんでした。
「分かった。次に魔力を使う時は、先に魔封石を破壊する事にする」
「ちょっ、やめてくれよっ!?修理費用の請求が来るだろう?魔封石は高価なんだから、簡単に傷物にしないでくれよぉ」
慌てたベンダーツさんが止めます。
ですがいくらヴォルでも、さすがに船の床に敷き詰められた魔封石を全て撤去する事など出来ないと思いました。
実際、船にはたくさんの人が乗っていますから。それらの犠牲を考える事なく、ヴォルが無茶をする筈もありません。
「この船は魔物に襲われた時はどうするつもりだ」
「あ、魔法が使えないから?大丈夫だよ、元々関係者に魔力所持者は入ってないし。この船の防御は、攻撃しない事なんだ」
不思議そうなヴォルの問い掛けに、ベンダーツさんは笑顔で返しました。
しかしながら、私は戦わない事が守る事である理由が分かりません。ベンダーツさんは当たり前のように告げましたが、攻撃こそが最大の防御ではないかと思うのでした。
「魔封石が魔物を寄せないと言う事か」
「そう言う事さ。魔力を感じるから、魔物がそれを狙って集まってくる。それならば、魔力自体を消してしまえば良いだろうって考えで作られたんだ」
「……迷惑だ」
「アハハ、ヴォルはそうかもね。でも、魔力を持たない人間の方が多いからさ。必然的にそういった結果になっただけだよ」
ベンダーツさんの言葉の真意にヴォルが答えると、私にも分かるように説明してくれます。
嫌そうな顔をしたヴォルに対し、ベンダーツさんは楽しそうに笑っているだけでした。ヴォルには申し訳ないですが、魔力を持つ人の方が全体数は少ないのが事実です。
魔力に魔物が寄せられるのは自らの力──餌とする為で、それを感じさせなければ出会わないとの事でした。少々強引な考えにも思えますが、実際にこの船が運航を開始してからは魔物に襲われていないそうです。
ベンダーツさんから薬草粥の作り方を教わっていた私ですが、聞いた事もないような材料が幾つか交ざっていました。
私は書き控えた魔物の皮をまじまじと見つめます。──でもこれは、ベンダーツさんの様々な試みによる成果なのでした。懸命に幼いヴォルに食べてもらおうと、試行錯誤をした結果なのだと分かります。
「ありがとうございます、マークさん」
私はレシピを胸に抱くようにして、ベンダーツさんに改めて御礼を告げました。
小さいヴォル分の御礼なんて烏滸がましい事は言えませんが、色々と含めて心から感謝を伝えます。
「何だか照れるなぁ……。大丈夫だって、俺は自分のやれる事をしているだけだからさ」
「はい、私も出来る事を頑張ります」
「うん、メルにしか出来ない事もたくさんあるからさ。ってか、船酔いが吹き飛んだみたいだね」
単に私が元気になったような言い方ですが、先程の薬草粥の材料に酔い止めの薬草が入っていたのを私は気付いていました。
これでも私は、ベンダーツさんから直々に薬草の知識を教えてもらったのです。味からだけでも、何の薬草を使ったか知っている範囲でなら判別出来るのでした。
然り気無いベンダーツさんの心遣いに感謝なのです。
「ヴォルはどうですか?」
「俺の場合は魔力を抑えれば問題ない。倦怠感はあるが、船内で行動する分には支障がない程度には回復した」
ベッドで半身起こしたままのヴォルでしたが、先程のような顔色の悪さはないです。
やはり食事を何も取っていない事で、魔力消費が著しかったのだと思われました。
「良かったです。私は大丈夫ですから、ヴォルはご自分の回復を優先にさせてくださいね?」
立ち上がっている私を見れば、さすがにもう結界を張ろうとは思わないでしょう。
これからも船酔いをしない訳ではないでしょうが、今の私はこの程度の揺れに違和感を感じていませんでした。
「分かった。次に魔力を使う時は、先に魔封石を破壊する事にする」
「ちょっ、やめてくれよっ!?修理費用の請求が来るだろう?魔封石は高価なんだから、簡単に傷物にしないでくれよぉ」
慌てたベンダーツさんが止めます。
ですがいくらヴォルでも、さすがに船の床に敷き詰められた魔封石を全て撤去する事など出来ないと思いました。
実際、船にはたくさんの人が乗っていますから。それらの犠牲を考える事なく、ヴォルが無茶をする筈もありません。
「この船は魔物に襲われた時はどうするつもりだ」
「あ、魔法が使えないから?大丈夫だよ、元々関係者に魔力所持者は入ってないし。この船の防御は、攻撃しない事なんだ」
不思議そうなヴォルの問い掛けに、ベンダーツさんは笑顔で返しました。
しかしながら、私は戦わない事が守る事である理由が分かりません。ベンダーツさんは当たり前のように告げましたが、攻撃こそが最大の防御ではないかと思うのでした。
「魔封石が魔物を寄せないと言う事か」
「そう言う事さ。魔力を感じるから、魔物がそれを狙って集まってくる。それならば、魔力自体を消してしまえば良いだろうって考えで作られたんだ」
「……迷惑だ」
「アハハ、ヴォルはそうかもね。でも、魔力を持たない人間の方が多いからさ。必然的にそういった結果になっただけだよ」
ベンダーツさんの言葉の真意にヴォルが答えると、私にも分かるように説明してくれます。
嫌そうな顔をしたヴォルに対し、ベンダーツさんは楽しそうに笑っているだけでした。ヴォルには申し訳ないですが、魔力を持つ人の方が全体数は少ないのが事実です。
魔力に魔物が寄せられるのは自らの力──餌とする為で、それを感じさせなければ出会わないとの事でした。少々強引な考えにも思えますが、実際にこの船が運航を開始してからは魔物に襲われていないそうです。
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