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第九章
8.こんな物……【4】
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ベンダーツさんの話を聞きながら知らずに食事を続けていて、ハッと気付きます。
──まぁ、今更ですよね。
ヴォルと同じ食器を使った事になりますが、もう気にしない事にしました。そもそも私が事の発端です。
「ご馳走さまでした。美味しかったです、ベ……マークさん」
言いかけて、呼び名を変えました。
だってベンダーツさん、この口調の時はマークさんで良い筈ですから。
「はいはい、お粗末様」
そしてそれに気付いたベンダーツさんは、にっこりと微笑んで食器を受け取ってくれます。
「……ごちそうさま」
ボソッと聞こえた方を振り向くと、既に器を空にしたヴォルがいました。
もう食べ終わったようです。早過ぎる気もしますが、それだけ空腹だったのだと思う事にしました。
「どういたしまして。……どう?少しは落ち着いたかな?」
ヴォルの顔を覗き込むようにベンダーツさんが問い掛け、ニヤリと笑います。
先程の爽やか系笑顔は何処にいったのか疑問ですが、こうしたやり取りは彼等が仲良しである証拠なのでした。
ベンダーツさんがヴォルに都合の悪い事はしないという信頼もあります。
「……薬草粥……、旨かった」
それに対してヴォルの方は僅かにムッとして見せましたが、それでも素直にお礼を告げていました。
「そう、良かった」
再び向けられたのは、先程私に向けられた爽やか系ニッコリ笑顔です。
ベンダーツさんはいつも調理に色々と工夫をされているようでした。確かに薬草と共に煮込んでいるので、どうしても苦味が出てしまうのです。
子供の舌には少しばかりキツいかも知れませんが、今食べた薬草粥は全く苦味を感じませんでした。
そして子供の頃とは味覚が変わりますし、ベンダーツさんも更に調理の腕を磨いている筈です。薬草独特の苦味なども抑えられてマイルドな口当たりでしたし、食べた私の感想としても匂い通りの美味しいお粥でした。
何を使っているのか、教えてほしいくらいです。
「こんな物……と言って悪かった」
「良いって事よ、ヴォル。料理人は、旨いって言って残さず食べてくれる事がご褒美だからさ」
前言を謝罪するヴォルに対し、ベンダーツさんは気にしていないと笑顔を見せました。
いつの間にかベンダーツさんは料理人という事になっていましたが、全部食べてくれたという結果だけでも嬉しいものです。でも私的に、本当は言葉で美味しいと言って貰いたいのでした。言われないと、逆に不安になってしまいます。
幼い頃、口数の多くはないお父さんが食事の時には必ず料理を誉めていた事を思い出しました。そしてその言葉に、お母さんがとても嬉しそうに微笑んでいたのです。
「……善処する」
ヴォルはそう言って難しい表情をみせました。
難しくはないのです。本当に一言でも良いのですから。
「マークさん、私にもこの薬草粥の作り方を教えて下さいませんか?」
「あ、うん。良いよ?」
あまりに意気込んで告げたからか、少しだけ驚いた顔をされてしまいました。
──私、興奮しすぎのようです。
それでも笑顔の了承を得る事が出来て、私はとても嬉しくなりました。
それにしても──不思議と気分が良く、私の船酔いは何処にいったのでしょうか。薬草粥を食べてから、何だかとても元気になっている私でした。
これも薬草粥の効果でしょうか。
──まぁ、今更ですよね。
ヴォルと同じ食器を使った事になりますが、もう気にしない事にしました。そもそも私が事の発端です。
「ご馳走さまでした。美味しかったです、ベ……マークさん」
言いかけて、呼び名を変えました。
だってベンダーツさん、この口調の時はマークさんで良い筈ですから。
「はいはい、お粗末様」
そしてそれに気付いたベンダーツさんは、にっこりと微笑んで食器を受け取ってくれます。
「……ごちそうさま」
ボソッと聞こえた方を振り向くと、既に器を空にしたヴォルがいました。
もう食べ終わったようです。早過ぎる気もしますが、それだけ空腹だったのだと思う事にしました。
「どういたしまして。……どう?少しは落ち着いたかな?」
ヴォルの顔を覗き込むようにベンダーツさんが問い掛け、ニヤリと笑います。
先程の爽やか系笑顔は何処にいったのか疑問ですが、こうしたやり取りは彼等が仲良しである証拠なのでした。
ベンダーツさんがヴォルに都合の悪い事はしないという信頼もあります。
「……薬草粥……、旨かった」
それに対してヴォルの方は僅かにムッとして見せましたが、それでも素直にお礼を告げていました。
「そう、良かった」
再び向けられたのは、先程私に向けられた爽やか系ニッコリ笑顔です。
ベンダーツさんはいつも調理に色々と工夫をされているようでした。確かに薬草と共に煮込んでいるので、どうしても苦味が出てしまうのです。
子供の舌には少しばかりキツいかも知れませんが、今食べた薬草粥は全く苦味を感じませんでした。
そして子供の頃とは味覚が変わりますし、ベンダーツさんも更に調理の腕を磨いている筈です。薬草独特の苦味なども抑えられてマイルドな口当たりでしたし、食べた私の感想としても匂い通りの美味しいお粥でした。
何を使っているのか、教えてほしいくらいです。
「こんな物……と言って悪かった」
「良いって事よ、ヴォル。料理人は、旨いって言って残さず食べてくれる事がご褒美だからさ」
前言を謝罪するヴォルに対し、ベンダーツさんは気にしていないと笑顔を見せました。
いつの間にかベンダーツさんは料理人という事になっていましたが、全部食べてくれたという結果だけでも嬉しいものです。でも私的に、本当は言葉で美味しいと言って貰いたいのでした。言われないと、逆に不安になってしまいます。
幼い頃、口数の多くはないお父さんが食事の時には必ず料理を誉めていた事を思い出しました。そしてその言葉に、お母さんがとても嬉しそうに微笑んでいたのです。
「……善処する」
ヴォルはそう言って難しい表情をみせました。
難しくはないのです。本当に一言でも良いのですから。
「マークさん、私にもこの薬草粥の作り方を教えて下さいませんか?」
「あ、うん。良いよ?」
あまりに意気込んで告げたからか、少しだけ驚いた顔をされてしまいました。
──私、興奮しすぎのようです。
それでも笑顔の了承を得る事が出来て、私はとても嬉しくなりました。
それにしても──不思議と気分が良く、私の船酔いは何処にいったのでしょうか。薬草粥を食べてから、何だかとても元気になっている私でした。
これも薬草粥の効果でしょうか。
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