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第九章
8.こんな物……【2】
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「さぁ、少しは召し上がって頂かなくてはお身体に障ります」
ベンダーツさんが薬草と共に煮詰めたお粥を作ってくれました。
匂いはとても良いのです。でも、全く食欲が沸きませんでした。現状では食べたらすぐにリバースしてしまうので、食べる事が勿体無いレベルなのです。
「ほら。食べてくれないと、無理矢理口に突っ込みますよ?」
匙を差し出すベンダーツさんでした。
とても良い笑顔で中々辛辣な事を言ってくれます。──と言うか、本当にやりそうで怖く思いました。
「はい……、ありがとう……ございます」
とりあえず無理矢理口に入れられるのを避ける為、御礼を言いながら身体を起こします。
胃がムカムカするのは仕方がないと、潔く諦めるしかありませんでした。それに、何も食べていないからといって吐き気が治まる訳ではないのです。
私が薬草粥を食べ始めたのを確認したベンダーツさんは、同じく食事を取らずにベッドで伏せっているヴォルに声をかけました。
「ほら、ヴォルティ様もお召し上がり下さい。貴方は特に、魔力消耗による肉体的影響なのですから」
「……煩、い……」
一応の反抗的な態度を返すヴォルですが、その言葉に力はありません。
ヴォルにとって、これ程長時間魔力が欠乏している事は過去にないのだと感じました。何しろ、船が動き始めてからずっとこの調子です。
「ったく、いい加減にへそを曲げるのはやめてくれないか。子供かっての」
突然の不機嫌対応に、仕事仕様のベンダーツさんではなくなった事に気付きました。
その逆に急な態度の変化に驚き、お粥を運ぶ私の手が止まってしまったくらいです。
「魔力欠乏で身体が辛いのだろうが、それはこの船内にいる限り仕方のない事だろう?食事も取らずに、いつまでもメルにみっともない姿を晒してんじゃねぇよ。いい加減愛想つかされるぞ」
的確な怒りを向けられ、ヴォルが視線を逸らしました。
その態度に、更にムッとしながら腕を組んでいるベンダーツさんです。
「……薬草粥は嫌いだ」
ですが、続けられたヴォルの言葉に耳を疑いました。
──何ですと?
嫌いと言われた薬草粥ですが、私はこれ、結構美味しいと思って食べています。
「何を子供みたいな事を言ってんだよ。大体、急に消化が悪いものを食べさせられる訳がないだろう?ってか、マジで無理矢理口に突っ込むぞ?今ならヴォルは魔法も使えないし、食事を取っていないから体力だって落ちてるしなっ」
ベンダーツさんはニヤリと悪そうな笑みを浮かべます。
詰まる所、ヴォルの事を思っての行動なのは分かっていました。けれども素直に伝えたところで、ヴォルが耳を貸す事はないとも思えます。
「あの……、ヴォル?このお粥、美味しいですよ?」
押し黙っているヴォルに、私は自分の持っていた粥を見せました。
実際、私は自分でも驚いているくらいです。あれだけ食欲がなくて吐き気が酷くて食べたくなかったのに、気付けばもう半分以上薬草粥がなくなっていたのでした。
さすがベンダーツさんの料理技術です。
「……メル……」
またヴォルに苦しそうな表情を向けられました。
ここはあれですか、余計な事を言うなよ的なものでしょうか。しかしながら何も食べないと、本当に身体を壊してしまうと考えました。
好き嫌いがある事は悪いと言いませんが、それは肉体的にも精神的にもゆとりがある時に限ります。
「でも、本当に美味しいのです。一口で良いので、食べてみてください」
私はベッドから滑り降り、器を持ったままヴォルが横になっているベッドへ近付きました。
若干彼の身体が引いている気がしますが、ここは心を鬼にしましょう。
ベンダーツさんが薬草と共に煮詰めたお粥を作ってくれました。
匂いはとても良いのです。でも、全く食欲が沸きませんでした。現状では食べたらすぐにリバースしてしまうので、食べる事が勿体無いレベルなのです。
「ほら。食べてくれないと、無理矢理口に突っ込みますよ?」
匙を差し出すベンダーツさんでした。
とても良い笑顔で中々辛辣な事を言ってくれます。──と言うか、本当にやりそうで怖く思いました。
「はい……、ありがとう……ございます」
とりあえず無理矢理口に入れられるのを避ける為、御礼を言いながら身体を起こします。
胃がムカムカするのは仕方がないと、潔く諦めるしかありませんでした。それに、何も食べていないからといって吐き気が治まる訳ではないのです。
私が薬草粥を食べ始めたのを確認したベンダーツさんは、同じく食事を取らずにベッドで伏せっているヴォルに声をかけました。
「ほら、ヴォルティ様もお召し上がり下さい。貴方は特に、魔力消耗による肉体的影響なのですから」
「……煩、い……」
一応の反抗的な態度を返すヴォルですが、その言葉に力はありません。
ヴォルにとって、これ程長時間魔力が欠乏している事は過去にないのだと感じました。何しろ、船が動き始めてからずっとこの調子です。
「ったく、いい加減にへそを曲げるのはやめてくれないか。子供かっての」
突然の不機嫌対応に、仕事仕様のベンダーツさんではなくなった事に気付きました。
その逆に急な態度の変化に驚き、お粥を運ぶ私の手が止まってしまったくらいです。
「魔力欠乏で身体が辛いのだろうが、それはこの船内にいる限り仕方のない事だろう?食事も取らずに、いつまでもメルにみっともない姿を晒してんじゃねぇよ。いい加減愛想つかされるぞ」
的確な怒りを向けられ、ヴォルが視線を逸らしました。
その態度に、更にムッとしながら腕を組んでいるベンダーツさんです。
「……薬草粥は嫌いだ」
ですが、続けられたヴォルの言葉に耳を疑いました。
──何ですと?
嫌いと言われた薬草粥ですが、私はこれ、結構美味しいと思って食べています。
「何を子供みたいな事を言ってんだよ。大体、急に消化が悪いものを食べさせられる訳がないだろう?ってか、マジで無理矢理口に突っ込むぞ?今ならヴォルは魔法も使えないし、食事を取っていないから体力だって落ちてるしなっ」
ベンダーツさんはニヤリと悪そうな笑みを浮かべます。
詰まる所、ヴォルの事を思っての行動なのは分かっていました。けれども素直に伝えたところで、ヴォルが耳を貸す事はないとも思えます。
「あの……、ヴォル?このお粥、美味しいですよ?」
押し黙っているヴォルに、私は自分の持っていた粥を見せました。
実際、私は自分でも驚いているくらいです。あれだけ食欲がなくて吐き気が酷くて食べたくなかったのに、気付けばもう半分以上薬草粥がなくなっていたのでした。
さすがベンダーツさんの料理技術です。
「……メル……」
またヴォルに苦しそうな表情を向けられました。
ここはあれですか、余計な事を言うなよ的なものでしょうか。しかしながら何も食べないと、本当に身体を壊してしまうと考えました。
好き嫌いがある事は悪いと言いませんが、それは肉体的にも精神的にもゆとりがある時に限ります。
「でも、本当に美味しいのです。一口で良いので、食べてみてください」
私はベッドから滑り降り、器を持ったままヴォルが横になっているベッドへ近付きました。
若干彼の身体が引いている気がしますが、ここは心を鬼にしましょう。
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