「結婚しよう」

まひる

文字の大きさ
上 下
438 / 515
第九章

7.共にありたい【3】

しおりを挟む
 宿のお会計を済ませ、私達は船着き場までやって来ました。
 準備万端、いよいよ船に乗ってグレセシオ大陸を離れます。

「手続きは終了致しました。乗船をおこなっても構わないそうです」

「分かった。行こう、メル」

 それまで少しだけ離れていたベンダーツさんの言葉に、ヴォルが私の方を振り向きました。
 無く手を差し出してくれるヴォルに、私は照れながらも静かに自分の手を重ねます。

「はい」

 私は顔を上げてヴォルを見上げ、微笑み返しました。
 手荷物はベンダーツさんが持ってくれています。ヴォルと私はてぶらですが、この場には彼の地位を知っている方々かたがたがいるので立場上仕方がありませんでした。
 そしてベンダーツを含め、三人で連れ立って船に乗り込みます。視界のすみに、騎士団の集団が見送りの為らしく並んでいるのが見えました。あくまでも船の出港を見守っているていですが、確実に私達が対象だと思われて気が重くなります。
 ちなみにウマウマさん達は、馬車と共に既に荷物として乗船済みなのでした。

「メル、足元に気を付けて」

「はい、ありがとうございます」

 大きな船ですから、階段をのぼって行くだけでも労力をようします。ベンダーツさんが先を行き、私とヴォルの順に続きました。
 船室は三人で一室でしたが、とても豪華な作りで小さな個別の部屋が接しています。ベンダーツさんの説明だと、従者や侍女の方用の別室との事でした。──つまりは、そういう方々かたがたの使われる高価なお部屋という事です。

「こ、ここって高くないですか?何だか凄く立派なのですけど……」

「前回より良い部屋ではある」

 怖々とした私の言葉に続けるように、ヴォルも軽く部屋を見回して告げました。

「前回は身分を隠した上で、お二人でのご利用だったからです。ですがここなら私は別室で待機が出来ますので、二室確保するより有用なのですよ」

 ベンダーツさんは普通だと言わんばかりです。
 確かに、三人であの二人部屋は狭いかも知れませんでした。──と言うかユースピアの港町では二人部屋だった為、ずっと床で寝ていたベンダーツさんです。
 当たり前ですが、元々の身分は私よりもベンダーツさんの方が上でした。それを差し置いて私がベッドを使っていたので、拒否権は私にないですが精神衛生上あまり良くありませんでした。
 彼もきちんとベッドで寝てくれるなら、三人部屋でも特別室でも構わないと私は思う事にします。──ですがそれでも費用は気になります、中身は庶民ですから。

「メルシャ様、どうか料金の方は気になさらないで下さい。ヴォルティ様に同行するという理由で、私はそれなりの費用を預けられています」

 微笑みつつも、ベンダーツさんは『それなり』と言われました。
 聞きたくないですが、それって私にしてみれば『凄くたくさん』と言う事ではないでしょうか。

「初耳だな」

「今初めてお伝えしたのですから当たり前です。前回ヴォルティ様お一人で旅をなされた時はどうであれ、私はお二人がご不自由のないように取り計らう役目もあります」

 ベンダーツさんは胸に手をあて、嘘偽りのない言葉だと示しています。
 確かにここに至るまでの支払いは、全てベンダーツさんが担っていました。

「前は魔物討伐をしながらの旅だった。お前がいなくとも、ギルドを通じて報酬が得られたからな」

「今回の旅では、さすがに全ての場所で冒険者をよそおいきる事は出来ません。メルシャ様は戦闘能力が皆無かいむですからね」

 悪びれないヴォルの言葉と、事実のみを告げるベンダーツさんです。
 すみません、魔物との戦いに私は全く役に立ちませんでした。そればかりか他にも──、何にも役に立たないです。
 戦闘だけではなく──料理や他の手続きなどにしたって──、全てヴォルとベンダーツさんがおこなってくれていました。
 私、今更ですが足手まといでしかないです。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛

らがまふぃん
恋愛
 こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。この作品の前作が、お気に入り登録をしてくださった方が、ありがたいことに200を超えておりました。感謝を込めて、前作の方に一話、近日中にお届けいたします。よろしかったらお付き合いください。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。 *らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

結婚結婚煩いので、愛人持ちの幼馴染と偽装結婚してみた

夏菜しの
恋愛
 幼馴染のルーカスの態度は、年頃になっても相変わらず気安い。  彼のその変わらぬ態度のお陰で、周りから男女の仲だと勘違いされて、公爵令嬢エーデルトラウトの相手はなかなか決まらない。  そんな現状をヤキモキしているというのに、ルーカスの方は素知らぬ顔。  彼は思いのままに平民の娘と恋人関係を持っていた。  いっそそのまま結婚してくれれば、噂は間違いだったと知れるのに、あちらもやっぱり公爵家で、平民との結婚など許さんと反対されていた。  のらりくらりと躱すがもう限界。  いよいよ親が煩くなってきたころ、ルーカスがやってきて『偽装結婚しないか?』と提案された。  彼の愛人を黙認する代わりに、贅沢と自由が得られる。  これで煩く言われないとすると、悪くない提案じゃない?  エーデルトラウトは軽い気持ちでその提案に乗った。

冷徹義兄の密やかな熱愛

橋本彩里(Ayari)
恋愛
十六歳の時に母が再婚しフローラは侯爵家の一員となったが、ある日、義兄のクリフォードと彼の親友の話を偶然聞いてしまう。 普段から冷徹な義兄に「いい加減我慢の限界だ」と視界に入れるのも疲れるほど嫌われていると知り、これ以上嫌われたくないと家を出ることを決意するのだが、それを知ったクリフォードの態度が急変し……。 ※王道ヒーローではありません

処理中です...