「結婚しよう」

まひる

文字の大きさ
上 下
429 / 515
第九章

5.不安なら【4】

しおりを挟む
 カン!キン!ガキッ!
 金属音が続いて響きます。
 今度はバラバラと襲い掛かって来ているのですが、その都度ヴォルの剣に払われていました。
 頭に血がのぼっては冷静な判断が出来なくなると言いますが、彼等から一番初めに受けた攻撃の方が危なかったようです。

「Honoo no tama.」

 突然何を思ったのか、ヴォルが魔力の炎で球体を作りました。そして魔法石を持っているぞくさんに目掛けてぶつけます。
 グオッ、バシュッ──。
 人の頭程の大きさの火球が音をたてて男性に向かって飛んでいき、その人の目の前で弾けました。触れる事なく、です。

「フッハッハッハッハ……、さすがにこの魔法石の前では効果が発揮出来ないようだなっ」

 火球が弾け飛ぶ瞬間までひきつった顔をしていたのに、魔法が弾かれた結果から強気になって大笑いを始めます。
 けれども、そうされてもヴォルの表情は変わりませんでした。周囲のぞくさん達から振るわれる刃はさすがに止まりましたが、私達が取り囲まれている現状は何も変わりありません。

「Honoo no tama.」

 その中で再びヴォルは魔法の火球を放ちました。
 赤々とした光が生まれます。

「そんなもの役になど……っ!?」

 嘲笑しようとしたぞくさんの言葉が止まりました。
 その理由は簡単で、放たれた魔法が先程の倍程の大きさであったからです。──胸に抱える程はありました。
 それが自分に向かって飛んでくるだなんて、息を呑んでしまうのも無理はないです。当たる当たらないではなく、怖いと感じるのは普通の感覚でした。
 バシッ!ジュッ!!
 またまた火球が弾けてき消えます。魔法の対象になっているぞくさんは、それでも青い顔をしていました。

「だ……だから言っただろうっ」

 顔がひきつっていますが、それでも強気の姿勢を崩しません。

「Honoo no tama.」

「も、もうやめ……っ!?」

 ぞくさんの言葉は、またしても止まりました。今度は両手を広げたくらいの大きな火球です。
 そしてその魔法の火球は先程と変わらず真っ直ぐ飛んでいき、今までとは違ってぞくさんを吹き飛ばしてから消えました。

「な、何て魔力なんだ……?」

「化物かっ」

「こうも立て続けに、しかも次々に強力な魔法を放てるとは……」

 口々にぞくさん達が恐怖をにじませた声で告げています。
 吹き飛ばされた人に駆け寄るも、視線は私達──いえ、ヴォルに向いたままでした。

「く……そ……っ、何て奴だっ!?魔法石を砕きやがったぞ?」

 どうやらぞくさんの持っていた魔法無力化の魔法石は、たび重なるヴォルの魔法に耐えられなかったようです。
 とりあえずは魔法石に守られたようで、吹き飛ばされたぞくさんは軽い擦り傷を負ったくらいでした。

「三度しか持たないのか」

 ポツリと呟かれた声は、私の目の前から聞こえたようです。
 徐々に魔法を強くしていったように見えましたが、彼等が持つ魔法石の耐久性を知って、逆にガッカリした様子のヴォルでした。魔法無力化の魔法石が欲しかったのでしょうか──それとも、単に試したかっただけかもしれません。
 ぞくさんの言葉から察するに、ヴォルのように連発して魔法を使う事はあまりないようでした。私は見慣れていてこれが当たり前でしたが、さすがに普通の魔力所持者の使い方とは違ったようです。
    
しおりを挟む

処理中です...