「結婚しよう」

まひる

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第九章

5.不安なら【3】

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「あ、俺等に魔法は聞かないからね?ほら、見える?魔法石。これには魔法無力化の効果があるんだよねぇ」

 わざとこちらの感情を逆撫でるような、そんな笑みを浮かべる知らない男の人達でした。
 しかしながら魔法無力化する──、そんな魔法石もあるようです。でもこの状況にいても、私は怖いとは思えないのでした。

「ほらほら、さっさと金目のものを出しなよぉ?」

 手を差し出してヒラヒラと揺らしながら言いつのる彼等ですが、ヴォルは反応を見せず全く静かな視線を向けるだけです。

「何か言えないの?ねぇ、お兄さん」

「……俺にはお前のような愚鈍ぐどんな弟はいない」

 『お兄さん』と連呼する男の人に、ヴォルは溜め息を返しました。
 ピシャリと言い放つヴォルに、一瞬呆けた男性は急に眉間にシワを寄せます。

「そう言う意味じゃないよねぇ。……舐めてんのか?」

「誰がお前のような奴を舐めるか。汚い」

 あしらわれた事にきり立つ男の人でした。
 対するヴォルは、いつも以上に無表情です。
 ──でもヴォルが言葉通りに返しているのは、わざとであると思いたいです。

「……野郎共、やっちまおうぜ。コイツ、言葉が通じないんでやんの」

「ハッ……。兄貴に逆らうなんて、本当に頭の悪い奴だな」

「ついでにその女で良い事させてもらおうぜ?」

「おぅ、良いね~」

 ぞくの皆さんが一斉に殺気立ちました。それぞれが手に持っていた刃を掲げ上げます。
 私はヴォルの背中越しに様子を見ていました。でも危機感をあまり感じないからか、観劇を見ているかのような逃避的思考が浮かびます。

「行くぜっ」

 その合図と共に一気に襲い掛かって来ました。
 律儀に合図をされるのには驚きましたが、さすがに多勢に無勢ではないでしょうか。
 キーン!
 そして金属同士がぶつかる音が響きました。
 思わず閉じていた目を開きます。すると私の目の前に、鋭く光る剣の先端がありました。

「っ」

 ブワッと全身の毛が逆立ちます。

「大丈夫だ、メル」

 静かなヴォルの声に、ハッと我に返りました。
 気付くと私の周囲に風が渦を巻いています。正確にはヴォルと私の周囲を取り巻くように──でした。
 取り囲んでいた筈の男の人達は、困惑を隠せないようです。更に突然の現象に驚いたようで、私達から距離を置いていました。

「あ……」

「問題ない。守りの結界が軽く作動しただけだ」

 混乱気味の私でしたが、ヴォルの声に少しずつ落ち着きを取り戻していきます。
 守りの結界──それは、私の腕輪に掛けられたヴォルの魔法でした。大丈夫です、私に危険が降り掛かる筈がありません。
 私は自身を落ち着ける為、大きく深呼吸をしました。
 ヴォルと私の距離はほとんどなく、手を伸ばせばすぐに届く程度です。私はようやく本当に大丈夫なのだと確信出来ました。

「な、何故魔法が発動するんだ?」

「兄貴、その魔法石は本物だよなっ?」

「当たり前だろ?実際に目の前で魔法を無効化されたのを見たんだ」

 ぞくの皆さんが口々に言い合っています。
 無効化される範囲がどの程度かは分かりませんが、彼等の反応を見る限りでは有り得ない事なのだと伝わってきました。
 突然の仲間割れとかではないのでしょうが、目の前で口論をされて困惑する私です。その中でもヴォルはゆっくりと腰の剣を抜刀しました。

「もうおしまいか」

 表情を変えないままのヴォルに告げられ、ぞくさん達は視線を鋭くします。
 無駄に彼等の怒りをあおらなくても良いのですが、ここで私が口を挟む隙間はありませんでした。

「うるせ~、やっちまえっ」

 『兄貴』と呼ばれていた人が雄叫びを上げます。
 それは先程も聞いたような掛け声でした。
 たいていの場合、こういった方々はいつも台詞が同じようです。『決まり文句』と言うものがあるのでしょうか。
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